暖かいご飯
とある山奥の洞窟の、その奥で落ち葉の山が揺れていた。そこから、一人の少女が顔を出す。
(お腹空いたなぁ…)
季節は冬。
山には雪が降り積もり、熊でさえ震えて眠るこの時期に、少女は何も纏っていなかった。脱いだ跡も見当たらない。
「けほっ……けほっ……」
少女は咳き込みながらも、再び落ち葉の中に潜り込む。
(寒いよぉ……)
そんな少女に、誰かが近づいてくる気配がした。
(誰だろう?)
少女はかすかな恐怖心と共に顔を上げ……その人物が誰かを知ると驚いたように目を開く。
「アテルイ!」
アテルイと呼ばれた人物は、静かに微笑んだ。その微笑みは優しく慈愛に満ちたものだった。
「元気にしてるかい?モレ。ここ数日かなり寒くてね、風邪を引いてはいないかと心配したよ」
アテルイはモレの頭を撫でながら、その場に座った。
「大丈夫……。ところで、その荷物は?」
モレはもぞもぞと落ち葉の山から出ると、アテルイが背負っている大きな袋に目を遣る。
「……これかい?」
アテルイはどこか弾んだ声音で荷を降ろし、もったいぶってから中の物を見せる。その手には骨がついたままの猪肉があった。
「どうしたの?これ」
「いや、この前の狩りでたくさん獲れてね。モレと一緒にがぶっといこうかと思って」
「そう」
モレとアテルイは火を起こし、猪肉を食べ始めた。
「結構大きいお肉だね、」
「……」
「アテルイ?」
返事がないことを不思議に思って、目を向けた先で、アテルイは少し困ったように肉を噛んでいた。
「ふぉのひくなかなかかみひれないよ」
「……何て言ってるかわからないよ」
モレは苦笑しながら、アテルイを見守る。
(──ありがとう、アテルイ)