時の来て 朴と涼しき 別れかな 

時の来て 朴と涼しき 別れかな 

脳内でラートレとフラトレは本名に変換してください



都内某所 pm 1:30

『ねぇ?本当に撮るの?』

『当たり前だ。奴らの醜態を収める良い機会だ。それに頼まれてるからな』

『フラッシュ達?』

『そうだ。別に何も無いと思うけど楽しそうなところが見たいと言うらしい』

『じゃあ楽しそうなところ撮ってあげようよ』

『正気か貴様?』

『ウインディトレには言われたくない』







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午後休が何故か突如現れ、200の結果でデートに行くうちら!

午前中の仕事はほぼ手につかなかったが、明日の自分が何とかしてくれるだろう。

(変に緊張してきたんやけど…髪とか変やないよな?服も値札とかあらへんよな!?)


そんな風にしどろもどろしていると、お目当ての想い人がやってくる。

一際目立つ見た目をしているため、遠くからでもよく分かる。


「お、5分前流石やな」

「もう習慣になってるからね」


2人で出かけるっていうのは珍しいことでは無い。彼は頼めば嫌な顔1つせず了承してくれる。

しかし、改まって"デート"と枠組みされると地に足がつかない。


「服、新しいやつだよね?似合っててかわいいよ」

「ほんま褒め上手なんやからー!」

デート開始2時間前から2人の親友と選んだ服を褒められるのは気分が舞う。

2人はほとんど話を聞いてなかった気もするが、付き合ってくれるぶんお礼しなくては。

「じゃあ行こっか。言われてた所でいいんだよね?」

「そんなに凝ったもんはやなくて日常的なデートが理想やったりする」

「ラートレらしいね。じゃあ楽しもっか。」


開始早々問題が発生した。

秋晴れに照らされる彼の顔は直視できないほど綺麗である。

(あー死ねる)

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「右と左どっちがええと思う?」

「……右じゃない?左だと色がタキトレすぎるからラートレは合わないと思う」

「これから着るもんって感じの色やないしなー。よーし試着してきます」

「ん、じゃあそっちの袋持ってるから行ってらっしゃい。」

なんて事ないショッピングデート

昔だったら許されなかったし、今の仕事の都合上長時間どこかへ行くのはほぼ不可能である。

(それに、こういうの"普通"っぽい)


「ねぇラートレ?これどう!どう!?」

「そんなドラゴニックなもんどこにあったんや。そもそも何に…?」

まあ、恋仲のデートには程遠いものだ。でも私たちはこれでいい。これがいい。

自然体でいられることが私たちの何よりの幸福だから。

隣で笑えるだけで私は嬉しい。

「見てよラートレ!このカンガルーの___「返してきなさい。」


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まあ、その後も結構楽しんだし笑った。

「ほら、水分補給」

「半分ないやん」

「自販機のないここが悪いと思う」


昔みたいに慣れた気がする。

「それと似たの持ってなかった?」

「……はぁ」

「その憐れむ目はなんだ」


また横に並べた。

「ラートレ、カップじゃないとこぼすでしょ…」

「おっ?喧嘩やな」


もっとあの時素直になれたら。

あの短い1歩が踏み出せたら。

コレがずっと続いてたんだろうな。

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「いやー結構歩いたなぁ」

「外も暗くなって来たね」

距離の都合上、この時間帯はいつも帰らされる時。

今日はなんだか無駄に感傷的になっている。

「せやったら…そろそろ」

「ねぇラートレ、お腹空かない?デートなんでしょ?」

「………うん、空いとる!」


(ああ、本当に終わって欲しくないなぁ)


「19時から二名で予約してたフラトレです」

「行かない言うたらどうするつもりやったん?」

「お店の人に死ぬほど謝る、かな?」

「なにそれっ」


別段好きな食べ物もなければ、執着もない私のことを考えて、彼が選んでくれただけで満たされそうだった。


「……?美味しい…」

何年ぶりかに味わったそれは、自然と声が出てしまった。

いつもの偽りではなく、本心から。


「…………そっかーなら良かった」

目を丸くした後、少し涙ぐんでる優しい彼は私の事を無駄に期待させる。

なりたかった1番にはなれなかったけど、こうして大切にされているならそれでいいのかなって思い始める。


「デートで何泣いとるん?」

「…胡椒かけすぎただけだよ」

これは初めての会話だった。食べ物について話すなんてなかった。

そろそろ過去に浸るような時間でもないのかもしれない。


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「じゃあタクシー呼んどいたから、行くよ」

「……………うぇ?」

進まなければとは言ったが、進みすぎな気もする。

そもそも私たちはまだ男女の関係とかでなくて、そもそも彼には彼に……………………


「……置いてくよ」

「はい!乗ります!」

でも、まあこれは有り得た未来でも過去の投影でもなくて、私が今掴んだ、私だけの時間なんだから。

普通を求めてたけど。

普通に憧れてたけど。

あなたといると。

嫌いだったものも好きになれた。

(あと何日あなたに会えるんでしょうか)


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『チッ撒かれたか』

『……………………』

『あの烏か…』

『…………………』

『…俺らもタクシーで帰るか』

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