星野ターコイズが見る悪夢

星野ターコイズが見る悪夢



僕は夢を見る。

あの日の夢を。お母さんを死なせてしまった日を。


『ルビー、アクア、ター

今日はママの集大成です!最前列で応援してね?』


「当然だよ!ママ凄いもの!!」

「遅れないように準備しないとな

ター、アイから…母さんから離れろよ

遅れるぞ」

「………」

僕は異様にしっかりしていた上の2人と違って甘えん坊の子どもらしい子どもでお母さん子だった。

あの日もお母さんが仕事に行くのが寂しくて

エプロンを握りしめていた。


…あの時兄貴が言うようにしていたら変わったのかな?変えられたのかな?


『ターはお兄ちゃんとお姉ちゃんと違って甘えん坊だね〜ライブ終わったら目いっぱい甘えて良いからね?』

「…ぅん…」

母さんは何時も仕事行く前に僕達三人の頭を撫でて1人1人抱きしめて、オデコとオデコをくっつけて笑いかけてくれた。

その日も僕達にしてくれた。


僕も姉貴もおそらくシャイな兄貴も、この瞬間が大好きだったと思う。


ーーー目を覚ませ目を覚ませ目を覚ませ目を覚ませ目を覚ませ

ここで起きられたらお母さんとの楽しい思い出として終わることが出来る。

だから目を覚ましてーーー!!


ピンポーン ピンポーン


『あ、佐藤社長達着いちゃったかな?

 はーい!』

「おかあさん、だっこして」

勝手に口が動く。当然だ。過去のリプレイなんだから。事実ち変わった行動なんて出来ない、出来るはずがない。

甘えん坊の無能は最後まで母を困らせる。

…ギリギリまで母に甘えていたい、なんて考えていた自分が許せない。


「もー!ターったら相変わらず甘えん坊なんだから!ママ困っちゃうでしょ?」

「ルビーが言う通りだ、ター。アイをお母さんを困らすな」


そうだ。兄貴と姉貴の言う通りだ。

せめて最後くらいお母さんを困らせたくなかった。

『仕方ないなー

ターは甘えん坊だねー

佐藤さんにまた揶揄われちゃうぞー?はい、ママに捕まって』


お母さんは僕を抱きしめる。優しく、いつもの様に。

---お願い。もうやめて。

これ以上見たくない。せめて夢の中ではお母さんを昔の様に抱きしめたい。お母さんに抱きしめて欲しい。褒めて欲しい。

だから、やめて

これ以上は見たくない。


「ターばっかりズルーい!ママ、ライブ終わったら私も!」

「おまえもターに負けず劣らず甘えん坊だよな…」

姉貴は叶わなかった願いをお母さんにねだる、兄貴はそんな僕らに少々呆れ気味。

…姉貴に代わってあげたら良かったのかな?

いや、ダメだ。姉貴が死ぬかもしれない。

なら僕はどうしたら良かったのかな?


『今開けまーす。ター、お母さんに捕まっててね?』

ーー結局ここまで見せられるのか。


「アイ、ドームライブオメデトウ

ミツゴハゲンキ?」

記憶の声はひび割れてどんな声かは思い出せない。

だけど何言ってたか覚えている。

そして

舞い散る白薔薇と僕に迫る銀色に光るモノ、男の狂気じみた笑顔と怒りが混じった表情も。


『!危ない!!』

赤が舞う。朱が舞う。紅が舞う。

抱き抱えている僕を守るために母さんが

盾になった身体に刃が吸い込まれた。


「「■■■■■■■■■■■―――!」

『ルビー!!アクア!来ちゃダメ!!

傷つけるなら私だけにして!子ども達は関係ない!!』

お母さん!ダメ!!喋らないで!お願い!!

「「「■■■⁈ 「「■■■■■■■■■■■―――!」

『確かに私はいつか、嘘が本当になることを願って…頑張って努力して、全力で嘘をついてた」

「■■■!」 私にとって嘘は愛…私なりのやり方で、愛を伝えてたつもりだよ

その報いが今なのかもしれない…だけど!!

私の子ども達には指一本触れさせない!』

 

僕からは母さんの顔が見えなかったけど

初めてあんなに怒ったお母さんの声を聞いた。


最初の言葉以外男が何言ってたかはわからない。わからなくて良いと思う。

それだけは良かったのかな。


お母さんの怒りを一身に受けた男は何か叫びながら逃げていった。


『ター…?だいじょう、ぶ…?

ふふ…わたしってあんなにおこれたんだ…じぶんのことよりひっしになれるものできてたんだ…」

「お、おか…」

「アイ!」

「ママ!!」

兄貴と姉貴が居間から飛び出してお母さんに駆け寄る。

僕は

動けない。僕を抱きしめたお母さんの胸の心臓の音が小さくなっていく。

「場所が…!直接圧迫止血法しか…!!ター!おまえも押さえてくれ!!」

「ママ!ママぁ!!しっかりして!」

泣き叫ぶ姉貴。必死にお母さんを助けようとする兄貴。

兄貴に叫ばれ僕も遮二無二で真っ赤なお母さんの胸を押さえる。


『ごめんね…たぶん、これ、むりだ…

 ルビー…ルビーのおゆうぎかい、よかったよお

わたしさ、ルビーももしかしたらこのさき

アイドルになるのかもって… おやこきょうえん、してみたいね…


ターもおゆうぎかい、よかったよ…じょうずに

えんじられてた…やくしゃさんになったら

ターとドラマできょうえんして…おやこでえいがデビューしたいね…

 アクアもやくしゃさん、ぴったりかなぁ〜…

3にんはどんなおとなになるのかな…

 そばでみてたい、なぁ…』


お母さんの鼓動が小さくなっていく。

兄貴は気づいているけど必死に出来ることをしていた。姉貴はせめてお母さんの言葉を聞き漏らさないように涙を堪えて聞いている。

僕は何も出来ない。

 

『あんまりいいおかあさんじゃなかったけど、わたしはうんでよかったなっておもってて… これだけはいわなきゃ

 ルビー、アクア、ターコイズ、あいしてる

 ああ…やっといえた ごめんね、いうのこんなにおそくなって

 

よかった…この言葉は絶対、嘘じゃない

…アクア、ふたりをおねがい…』


ここまで見せられてようやく僕は目を覚ます。

息が苦しい、涙が止まらない。

「…!!なんで…何で僕が生きてるんだよっ⁉︎なんで…お母さん…お母さん…!会いたいよ…お母さん…!!何で…何で僕なんかを庇ったの⁈お母さん…!!」

この夢を見るたびにに僕は叫んで飛び起きる。変えられない過去の光景。それが僕に僕自身の罪をありありと見せつける。


おまえが兄と姉、みんなが愛していた1番星を死なせたのだ、と。

おまえが居なければ良かったのだ、と。

Report Page