星野ターコイズ 仕事の流儀その2/斉藤ミヤコの悩み

星野ターコイズ 仕事の流儀その2/斉藤ミヤコの悩み


「忍者vsゾンビvs鮫」

好きな人は好き、を集めて一つにした闇鍋映画…としか思えないのが僕にオーディションの声をかけて来た。

…マジか。

時代劇で無駄にオンエアで膝下を撮られている、アクションする準レギュラーのくノ一を半年ほど演じて来たがまさかゾンビとサメまで付いてくるとは。

「ター?凄く面白い表情しているけど、主催する監督は貴方が今出ている作品の阪本監督。

彼は東○やBAND○I絡みの作品、果てはアメリカでも活躍しているアクション映画業界では屈指の方だから

この人の関係者に顔を覚えてもらえればあなたはもっと大活躍出来るわ。

このオーディションはとても良い機会だと思うの。だから私としてはオーディションに参加して欲しいわね。最終判断は貴女に任せるけど」


どうする?とミヤコさんが少し苦笑しながら聞いて来る。

…どんな仕事でも貰えるなら全力だ。

いつかみんなが観て

「星野ターコイズ」の名が轟くような作品の主役になれるまで僕は挑戦し続けるしか無い。

それに仕事を回して貰える間に僕という人間を売り込まないと、泣かず飛ばすになってしまう。

「受けます…正直、もっと一般ウケする作品に出たかったですけどお話いただける間に頑張りますよ、ミヤコさん。」

「そう…まあ私も本当は貴女が希望するような作品に出演させてあげたいけど…ごめんなさいね」

ミヤコさんは申し訳なさそうに目を伏せる。

…僕の長身が足を引っ張ってるところあるからそんな顔しないで欲しい。

むしろ僕が出来る役やオーディションを紹介してくれることに感謝しかない。

人のせいにはしたくないがこの長身は恐らく、五反田家の食事だろう。

五反田のおじさんのところで演技教えて貰いに行くとおじさんのお母さんにご飯食べさせてもらうのだが、

成長期でトレーニングしてるから、体力がいるだろうと

沢山ご飯食べさせてもらっていたのが二次性徴期と相まってこうなった…と思う。

感謝しか無いのだが一瞬不満を覚えてしまった。

お世話になってる人達に不満を覚えるなんて最悪な人間性だ。嫌になる。

「いえいえッ、ミヤコさんのおかげで僕は頑張れてますから!夜は帰っていつも通りのみんなでご飯が出来そうです。今日は花束貰って終わりでしょうし」

「貴女準レギュラーよ?打ち上げに参加しなさい。まあ打ち上げで危ないことしちゃダメだし、危ない目に遭わないようにしないといけない苦労は確かにあるわ

だけど貴方を助ける後々のパイプ作りになるから頑張りなさい

けど…もし怖いなら迎えにいくわよ?」

ミヤコさんが心配する様にこちらを伺っている。

心配させたくないのにやってしまった…

別に怖い人やイヤな人はいない。むしろよくしてくれる人ばかりだ。

死に際が輝くようなサブキャラだし

別に良いかなぁと考えてたからなんだが、申し訳ない。

僕の役は数話に一度出番あるか無いかのお助けキャラ。今回は遂に敵と戦いの果てに拷問されて情報を吐くぐらないなら…と自害を遂げて退場するだけだ。

ただ主人公側の仲間だった。今後の展開に必要な犠牲という括りになるが、後の展開に興味が無かったので読んでない。

【全力を尽くして戦って死ぬ】それが僕が演じる彼女の役割。

普通人間は死んだあとのことなんか知らないし関与できない。知る必要も無い、と判断してるからこそ後の展開を知るのは最低限に留めた。

他のキャストやスタッフの方達には礼儀だけ果たして帰ろうと思っていただけ。

ただ売り込みを考えると打ち上げというものが大事なのは分かる。

だけど少しイヤだ。演技じゃ無いものを評価されているみたいで。

「ター、顔に出てるわよ?外交努力ではなく演技で評価されたい、ていうのが。

分かるけどコミュニケーション能力を鍛える場だと思いなさい。

もし貴女が独立した時に戦えるようになるにはマネジメント能力を培う前にコミュ力がまずモノを言うから。

あと今日は行けなくてごめんなさい…忙しくてどうしても空けられないの。

せめて今日の帰りは私が迎えに行くけど、無理なら最悪事務所の誰かを迎えに行かせるから。連絡、待ってるわね?

さ、ほら、ご飯準備出来てるから食べなさい」


「ははは…じゃあ終わったら連絡しますね?いただきまーす」

食事を摂り、準備を終えた後ミヤコさんが呼んでくれたタクシーに乗って撮影現場に向かった。

ーーー

「昔は敬語混じりで私に話すような子じゃなかったのに…やっぱり壁は取り払えないのかしら」

芸能界に身を置く娘を送り出し1人嘆息する。私には三人の子ども達がいる。

星野愛久愛海、星野瑠美衣、星野汰愛恋津の三人だ。血の繋がりはないが大切な子達だ。前述の2人は幼い頃は神童もびっくりな…というか神がかりな姿を見せたり、それ以外も本当に早熟だった。

だが三つ子の末っ子である汰愛恋津は普通の子どもとして産まれた。

故に歳相応の成長を夫の壱護から押し付けられたベビーシッター業で感じたし、三人の中では正直1番手がかかった。

確かに手がかかったが、早熟な上2人も手伝ってくれたから負担は気持ちマシ…だったように感じる。

三つ子なのに長男、長女、末っ子の関係が出来ていたのは今思うと不思議だが、汰愛恋津は手がかかりながらも懐いてくれるのは嬉しかった。

上2人はどちらかというと懐くのではなく、私を信頼してくれるようになっていった、というのが正しい。

彼らは生母のアイの方に強く懐いていた。

対して汰愛恋津は私をアイと同じくらいに懐いてくれていた。

「昔は…『ミヤコママ』て呼んでくれたっけ…今は『ミヤコさん』か…あの子達に合わして、なこと言ってたけど違う理由なの分かるわよ。12年母親しているんだから」

敬語混じりで呼び名も他人行儀になった理由。恐らく実母のアイの死が大きいのだろう。彼女はアクアとルビーが言うには汰愛恋津…ターに刺さりそうな刃から身を挺して庇い、それが致命傷となって亡くなったという。

私と壱護が駆けつけた時、アクアもルビーも涙を流しながらも、末妹たる彼女に声をかけてもターだけは涙も枯れ果て、ぼんやりとした顔で座り込んでいた。

私は余りにも痛ましくて三人を抱きしめずにはいられなかった。その際にあの子が言った言葉が忘れられない。

「『ミヤコママ、私なんかが生まれて来てごめんなさい。私のせいでごめんなさい』

4歳の子が言う言葉じゃないわ…あの日からずっとあの子は苦しんでる。苦しんでいるのに元気な姿を見せようとしてる。

私が心配するから…最低な母親ね。10年以上経っても傷を癒してあげられてない。

アクアもルビーもこっちを気遣ってる。子どもに気遣わせている親なんて親失格よ…」

でもあの子達はあの子達なりに頑張って進んでる。

私は親として守ってあげたい。進みたい道があるなら出来るだけ希望に沿ってあげたい。間違えた道を進むなら正したい。

自分の今の行いやこの思いが正しいかは正直分からない。

分からないが、引き取って一緒に過ごした時間だけは笑顔もあり、涙もあり、叱った掛け替えの無い時間は本物だ。

私があの子達に抱いている思いは決して「嘘」じゃなくて本当に家族としての「愛」だと私は思っている。

「ミヤコさーん!おはようございまーす

ターは?」

「ミヤコさんおはよう。ターは行ったの?」

上2人が起きて来た。二言目が末っ子の所在を確認するあたり相変わらず兄妹、姉妹感の仲の良さを感じる。

「おはよう2人とも。もう仕事に行ったわ。帰りは遅くなるかもしれないわね。打ち上げ参加するように言ったから」


ルビーは聞いた途端不満そうに膨れっ面をする。家族団欒の時間が好きな子だから気持ちは分かる。

反対にアクアは役者でもあるから、末妹の状況をよくわかっているようだ。

「えー、日曜日は家族でご飯なのにー!」

「仕方ないだろ。あいつはあいつで業界でパイプ作りしないといけないんだ。ターの性格的にこっちを優先したかったのは想像に難くない」

「そーだけどさー…まぁ、ターも頑張ってるなら私もアイドルになってママみたいになるんだ!約束したし!!」


「……」

アイのようなアイドルを目指すルビー。

希望を叶えてやりたいが今すぐ、という訳には行かない。

それにアクアは母親の件から妹の身を案じて反対しつづけている。


「少し前にオーディション受けたんでしょ?こっちより大手だし受かればスター街道走れるかもしれないわね」

本当は私の元でなって欲しいけど。


「…受かればの話だけどな。」

「お兄ちゃんはまた意地悪言うー!」


「はいはい、喧嘩しないの。さ、早くご飯食べて各々の予定をこなしましょうか」

「はーい」

「わかった」


私達家族の1日が始まる。





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