星に焦がれる
呪術高専・寮内の一室。
任務を終え、机に項垂れる生徒…五条稀は、とある者を考え思考に耽っていた。
無下限ではないもう一つの五条家相伝の術式、500年もの間失われていた拒絶術式の術者。
歴代最優の術師。
そして自身の従兄弟であり、義兄弟。
五条類。
―――幼い頃から噂は聞いていた。
500年ぶりの相伝術式を持ったというだけでも十分だが、兄に―――五条悟に気に入られ、呪術師としての才能にも溢れていると。
見えない分、耳にはよく話題が集まったものだ。
思えば既に差は圧倒的だったが、まだ才能の残酷さを知らぬ子供にとっては特段気にすることではなかった。
我ながら気楽だったな、と思い苦笑する。
本格的に関係に溝が入ったのは、高専に入学してからか。
あの時にはもう才能の差というものを知っていた。
…だから、なるべく関わらないようにしていたけれども。
あの天才は、交流会で順転、反転、領域展開、全てを覚えたのだ。
あまりの衝撃に思わず柄にもなく詰め寄り、何故そこまで出来るようになったのか問い詰めた。
座学の成績は確かであり、困惑されつつも余すこと無く丁寧に教えられた。
常人にはとても出来そうに無い事で、少し意識が遠くなっていた気がする。
その後は逃げるように直ぐに去ったが、あの時の自分はどんな表情だっただろうか。
厭な気持ちが心を覆う。
おおよそ人に向けるべきではない、ドス黒い感情が。
意味もなく手を上げ、空を切る。
そして何もない手の中をなぞった。
従兄弟であり、義理ではあるが兄弟。
関係性で言えば近いと言えるだろうが、実際は遠くて。
まるで星のように、確かにそこにあるのに、届く事は叶わない。
…そして
『稀にいさま』
酷く、眩しい。
稀は溜め息を付き、頭を掻く。
そして、何も見えぬ瞳を閉じたのだった。