昔の話
イノセント・ゼロがまだシリル・マーカスであった頃。
シリルには弟がいた、らしい。まったく正反対の色合いをしたその子供は、双子は忌子であるという慣習に従って、魔力が弱かった方をどこかに連れて行き、それきりだ。記憶にもないし、それが当たり前であったからこそその事実を知ったのはシリルがそれなりに育ってからだった。
初めてその話を聞いたとき、師であるアダムは人々に弱者救済を説いて回っていたのを思い出した。
シリルは強かったから人になった。弟は弱かったから人にはなれなかった。
あまりに単純な摂理であり、過去に起こった事実でもあった。
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双子は忌子であるらしい。そんな風説を、イノセント・ゼロは思い出した。
己とよく似た相貌、己と正反対のカラーリングのその男は、どうやら今世では人になれたようである。
その事実が、イノセント・ゼロに勝利を確信させた。
イノセント・ゼロはシリルであった頃、あの人類最高傑作の前世たる魂に勝利して生を勝ち取った。現代においてあの男が人類における最高峰であるのならば、シリルであるイノセント・ゼロが敗北する筈はないのだと。
世界に人権を認められない魔法不全者に完膚なきまでに叩き潰される 時間前の出来事であった。