日曜の朝

日曜の朝



台所に立ち鼻歌を歌いながらフレンチトーストを作っているのは、この家の胃袋を支えているカツラギエース。

日本ウマ娘初のジャパンカップ制覇者として名を馳せた彼女は当時の彼女のトレーナーと結ばれ、今では二児の母親である。

まだ幼い子供達は寝巻き姿のままテレビの前で座って、朝早くにやっている子供向けアニメに釘付けになっていた。


「娘ー、もうすぐ朝ご飯できるからテレビ消してー」

「あとちょっとー」


次回予告が終わると娘はテレビを消し、最近歩けるようになった弟を立ち上がらせて食卓に向かう。

しかし途中で立ち止まり、ここに居ない存在を探してリビングをキョロキョロ見渡す。


「パパはー?」

「まだ寝てるよ」

「おこしてくる!」

「ダーメ、いつも遅くまでお仕事してくれてるんだから、お休みの日くらいお寝坊させてやりな」

「いや!パパといっしょにごはんたべるのー!」


そう言って娘は駆け出し、リビングから出て行ってしまった。

残された弟はおぼつかない足取りで姉の後を追う。


「あ、コラ娘ー!…ったく、本当にパパ大好きだなぁ」


エースは子供達を追わず、心の中で旦那に合掌しながら朝食作りを続けるのだった。


娘は家族で寝ている寝室に辿り着くと、敷きっぱなしの布団で仰向けになって寝息を立てている自分達の父親であり、エースの旦那兼元トレーナーを発見し、早速起こそうと掛け布団の上からトレーナーの腰を叩く


「パーパー!おーきーてー!ごはんたべよーー!」

「ん〜〜〜……」


大きな声で呼ぶが、トレーナーは小さく呻くだけで起きる気配が無い。

どうしようか娘が考えていると、後からやってきた弟がトレーナーの真横まで移動し……。


「だぁ!!」

〈ぼふっ!〉

「オ゛フっ!」


弟はジャンプしてトレーナーの胸におもいっきりダイブし、その衝撃にトレーナーの体が、陸に打ち上げられた魚のように跳ねた。

それを見た娘がピン!と思いつき、2歩、3歩後ろに下がって、そこから駆け出し、トレーナーの腹目掛けて飛び上がった。


「とあー!!」

〈ドフッ!!〉

「ごっ………!!」


見事にトレーナーの腹の上にダイブ成功した娘。

弟のダイブで若干起きていたトレーナーだが、娘のダイブで完全に覚醒してしまった。


「……」

「パパおはよー!」

「おあよー」


自分の体の上に乗り、屈託のない笑顔を向ける子供達に、トレーナーは深呼吸し……。


「………我が眠りを覚ましたのは……貴様らかーー!!!」

「わー!!」

「あー!!」


トレーナーは子供達に覆い被さり、2人纏めて抱き込むと、2人の顔の間に自ら顔を突っ込み、そのまま2人の頬に無精髭が生えた自身の顎が当たるように高速で顔を左右に動かした。


「オラぁ!お髭ジョリジョリ攻撃ー!」

「きゃあ〜〜!くすぐったい〜〜!」

「ふへへへへへへ!」


トレーナーは頭を振りすぎて目が回り始めたタイミングで攻撃を止め、笑い疲れている子供達を両脇に抱え、寝室から出てリビングへと向かった。


「おはよ〜」

「ああ、おはよう…」


ちょうどフレンチトーストを乗せた皿をテーブルに運ぶ最中だったエース。

起きてきたトレーナーと、両脇に抱えられた子供達を見て、苦笑いを溢す。


「起こされちまったか、朝飯食ったら二度寝していいぞ?」

「いんや、折角だから家事手伝うよ」


娘を床に下ろし、息子を椅子に座らせ、トレーナーはエースが持っていた皿を受け取ってテーブルの上に並べる。


「それで、家事が一通り終わったらみんなで出掛けようか、買い物して、お昼ご飯は外で豪勢にやろう」

「おそとでごはん!?おっきなパフェたべたい!」

「そりゃご飯じゃなくてデザートだろ」

「ママは何か欲しい物ある?」

「んー、新しい服買おうかな…あ、息子の服も新調したい、今あるのがキツくなってきてるから」

「あたしもおようふくほしい〜!」

「そうだなー、娘の冬服も買うか、ついでにパパの服も見に行こうぜ」

(コレ絶対自分のは買わないパターンだ…)


自分より家族のことを優先しがちな最愛の嫁に対し、トレーナーは朝食を食べた後に彼女に似合いそうな服をネットで調べようと決めた。


「まぁまーー!ごあんーー!」


腹ペコで、しかも目の前に美味しそうなフレンチトーストがあるのに食べられない事に我慢の限界が来た息子が小さな手で何度もテーブルを叩く。

エースは息子の隣の席に座り、「テーブルは叩かない!」と叱りつつ息子の頭を撫でる。


「ほら、パパも娘も早く席に着けよ」

「「はーい」」


2人が席に着いたのを確認し、エースはパンッ!と手を叩く。


「それじゃあ冷めないうちに、いただきます!」

「いただきます!」

「いただきまーす!」

「いたあきまっす!」


こうして、一家の賑やかな日曜の朝は始まった。


終わり


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