日常

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都合のついた特異4課メンバーによる江の島旅行。刺客の襲撃を退けた慰労も兼ねた休暇は天候に恵まれた。案の定パワーはしれっと参加しており、老舗の和食屋では注文した丼に入っている青葉をデンジに押し付けたりしていた。

「お、美味しい…ついてきてくれて、ありがとうございます」

「気にしないで。コベニちゃんが教えてくれなかったら、江の島来れなかったよ」

「あぁ…ごめんね、連絡が遅れて」

暴力の魔人はコベニに誘われ、休暇に同行してきた。やはりマスク姿であり、彼はコベニに旅費を渡すと、日帰りで収容室に戻っていった。

「俺の分まで楽しんできてよ」

「はい!楽しんできます!」

何があってもマスクをとるな、と警告されるほどの力の持ち主である為、最後まで同行できないのだ。

デンジが水族館に入った時、イルカショーまでは少し時間があった。ビームのような水棲の悪魔を見るのは珍しくないが、水の生き物をまったり眺めるのは今回が初めてだ。

「イルカまで何見っかなー」

「私、熱帯魚みたいんだけど…どこの展示だろ?」


「すごく天気いいし、海綺麗だし…来れてよかったよね!」

「そうだな…コベニは休暇が終わったら会わなくなるが…」

港に近い緑地から、姫野はアキと海を眺める。殺し屋達に狙われ、人形の群れを片づけた報酬として十分満足できる景色だ。

島をぶらついている途中。港の方に足を向けた時、パワーは停泊中のヨットに目を停める。

「なぁ、皆で船に乗らんか?ワシが動かしてやろう」

パワーはヨットに興味を持ち、ヨットが停められている浮桟橋の方に駆け出す。アキとデンジがこれを阻止する。

「お前、ヨットなんか持ってねーだろ」

「前も盗んだ車で俺轢いた癖によ〜、やめろよ」

「ワシ、そんな事しとらん!!離せ!!」

アキが北海道行きを告げると、デンジとパワーが文句を言い始めた。アキからすればただの墓参りなのだが、北海道と聞いては黙って見送れない。

「家を空けてる間、ニャーコはどうすんだ?」

3人は岸辺にニャーコの世話を頼むことにした。予定が空いている時は姫野もついてくるのだが、今回は仕事が入っている。

「それじゃあ、よろしくお願いします」

「お土産何がいいスか?」

「酒」

パワーの振る舞いはいつも通り。新幹線内で駅弁を独占しようとして騒ぎ、船に乗れば甲板にまで吐瀉物を吐いてしまう。挙句の果てに吊り革で懸垂を始める。

「見て!!」

「ギャハハハハハハ!」

「今すぐやめろ!」

騒がしい道中を乗り越えたアキは、実家の墓前で手を合わせる。振り返るとデンジ達は姿を消しており、見つけた時には2人揃って何かを摘んでいた。

「何食ってるんだ…?」

「お供え物をカラスから奪った」

「うぉエ!!」

騒ぎ、走り、吐く。いったいどこからこれほどのエネルギーが出てくるのか。アキは肩を落とした。だが2人が賑やかなせいか、墓参りのたびに思い出す憂鬱な記憶も今回は顔を出してこなかった。

「でも今回はお前等がうるさくて浸る暇もなかったよ」

「どういたしまして…」

後日、墓参りから帰ったアキは預けたニャーコを受け取りに向かった。

「デンジはまだしも、パワーは元気一杯だからな。よく連れていったな」

「アイツ等も少しは大人しくなりましたよ。パワーは野菜を投げなくなりました」

所用が済み、アキは岸辺と別れた。銃の悪魔討伐遠征が迫っている。4課だけでなく公安屈指の部隊が集まる大きな戦い。しかし、アキは精鋭であろう彼らを眼中にいれていない。

意識してきたのは2人だけ。エリート程度の表現では生温い力を持つ、アキが共に暮らす人外達。自分なりに頑張ってきたつもりだが、彼らとの差はどれくらい縮まったのだろうか?

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