施設とクローン
手が動かされる。てきぱきと手慣れた手付きと
気味が悪い程の素早さで。
目の前には…次世代型ロボトミー試験的実践の結果である遺体がある。顔が幾許か安らかで、それだけが救い。
自分が見てきた中ではまだマシな方。
例えばあらゆる人とのつぎはぎになった遺体。もう本来の持ち主の部分が分からなくなっていた。
腕や腹に所々鱗や棘の生えた遺体。頭には頭蓋骨から形成されたサイみたいなツノが生えていた。鱗は照明に照らされてガラスのような綺麗な輝きを放っていた。
実験の結果脳がとけていた遺体もあった。
それから壁や他の人間と同化していた遺体もあった。
それらを見て、解剖して、記して…を何度も繰り返してきた自分はもう何も感じない。自分は大人なのだ。
最初は、泣き叫んだような気もするけれどきっと気のせいだ。自分は大人なんだからあんな風に泣き叫ぶなんて、あり得ない。
◯
安らかな顔で眠る遺体は、自分とはまた違うタイプのクローンだ。
量産されたクローンは実験動物と一緒で人間扱いされることは無い。製造された時から人権なんて無いから当然だ。ただ実験の結果死んだ個体は…遺体として、扱われるようになる。クローンじゃない人と同様に。生命だったものとして。きっと自分も死んだら生命になれる。
そう考えると胸がぽかぽかとした。だからそれまで自分はクローンを全うして死なないといけない。そうじゃないと生命になれない。
解剖を終え、死因を書いてまた次の遺体を見に行く。今日もそのはずだった。
「No.6、命令だ」
自分ははじめて、外に出ることになる。
なんでもバグスターウィルスというものについての諜報活動をしなければならないらしい。
明日から、自分は新しい技能を頭に植えつけられた後に外に出る。
自分は大人だ。焦らない、焦らない。
外はどんな風なんだろう?