新米パパは大変なんです!

新米パパは大変なんです!

名が表すはだいたい親の体

妾ですらない愛人が自身の子を孕んだと伝えてきたのは、とうに堕ろせぬほど時が経った後であった。

 

 

 

男は一つ溜息をつく。結局困惑しどうにもできぬうちにその子は産まれてしまった。

いっそ死産であればよかったものを、と思い、再び吐息が漏れる。

もとよりあの女中は呪霊がなんとか見える程度の面だけいい猿のようなものだ、そんな卑しい人間と関係を持ちあまつさえ子まで生したとなれば自身の地位が下がるのは間違いなしであろう。ただでさえ相伝を継いだ兄を持ち肩身が狭いのに、己がこれ以上貶められる所以などない。

実際は関係を持った彼が普通に悪いのだが、それを指摘できるものは今この場に、否御三家には存在しなかった。加茂正宗は除くかもしれないが。


歩を進め、伝えられた部屋に足を踏み入れる。

一目見るだけ見ておこうと思ったのだ。愛人との子とはいえ、相伝を継いでいれば自身に利があるだろう。

寝かされている赤子に近づく。それは近づいた自身に気づきゆるりと瞼を持ち上げて、小さく笑い、暫くして突然泣き出した。片手で包めるほど小さな手足、ふくふくとしたやわい頬、笑顔に泣き顔…その全てが、





酷く凡庸だった。肩を落とし、勝手な期待を曇らせて男は部屋を出た。







それから三年ほど経った頃、例の女が話を持ち掛けてきた。

曰く、あの子供に術式が目覚めたのだと言う。

触れた呪霊が悲鳴を上げて倒れたらしい。負傷させたわけではないらしく、苦痛を与える術式なのではないかと言われているらしい。それが本当ならかなりの「当たり」だ、今からあれを引き取りたければ己を正妻にしろと、目の前の猿は語る。


馬鹿馬鹿しい。相伝でないのは確実なのに何が当たりなのか。何を勘違いしているのか知らないが、お前を私が娶ることなどない。

それをそのまま口に出すと命知らずの愛人は激昂し、喚き散らす。面倒な女だった。


消してしまおう、と思った。どうせ女中一人死んだところで大して追及もされない、バレたところで不問だろう。

手持ちの呪具を三歩離れた場所から突き刺す。元愛人はあっけなく死んだ。死体は別の女中が片づけるであろうから、放置して鍛錬場に戻ることにした。

やはり、孕んだと言った時点で子ごと殺しておくべきだったのだ。もう面倒ごとが無ければいいと、男は再び溜息をついた。






叫び声を聞いて、珊瑚色の瞳が露になる。布団から這い出て、周りをキョロキョロ見渡す。

襖から伸びる赤い液体に気が付いて、指で掬い取り舐める。

「うへぇ……」

『愛人』は顔を顰めて、かあさま、と一声呼んで、襖に手をかけた。

Report Page