新時代を迎えた時に二人生き残って一緒にライブやる話
ステージに設置されている巨大スクリーンで、カウントダウンが始まった。
10万人を超える観客から地鳴りのような歓声が上がる。
ふと遠くのPA席を見ると、スタッフに指示を飛ばしているアドの様子が見えた。
『あーあー、聞こえてますか?右から4つ目のスピーカーの音量もっと上げてください。…はい、いい感じです。』
『移動式ステージの動作確認終わってる?わかった、じゃあ起動して待機状態にして。姉が位置についたら中央に移動させて。』
『照明暗転します。3.2.1…はいOKです。』
私が知らない12年の歳月ですごく頼もしくなった妹に、ちょっぴり寂しくなった。
『じゅ、準備できたよ、お姉ちゃん。き、ききき緊張してる?』
イヤモニ越しに妹の声が聞こえる。
『そっちが緊張してどうすんのよ!』
『ごめんなさい…。』
『はぁ…しょうがないんだから。』
でも、私にだけは緊張を隠さないで接してくれてることが、何だか嬉しい。
30秒前、ボルテージがMAXになっている観客からUTA、UTAとコールが始まった。
『あ、は、始まっちゃう…。』
『大丈夫!ずっと頑張って準備して、最高のステージを作ってくれたこと、ちゃんとわかってるから!』
何かやり忘れていることはないかとあたふたし始めたアドを落ち着かせる。
『…ありがとうお姉ちゃん。』
『いきなり改まってどうしたの?』
『嬉しいなぁ…こんな私が、夢、叶えていいのかなぁ…。』
どうやらアドは泣いてしまっているようだ。私もついウルっときてしまう。
『アド…。』
『私、この夢が…ツアーが終わるまでは、頑張ってみるよ。』
『…?私達の夢は、今から始まるんだよ?これから二人で、いっぱい色んなことやろう!』
『そう、だよね…。』
ライブが始まる。
『さあみんな、行くよ!』
『う、うん!楽しんで!』
この時の私は、アドの言葉の意味がわかっていなかったんだ。姉妹の時間を取り戻す時間は、いくらでもあるって、夢は続くって、そう信じてたから。
■
「終わっちゃったな…。」
偉大なる航路を一年かけてぐるりと一週したライブツアーの千秋楽を終えた私は、移動のために借りていた船の一室…二人で過ごした部屋の片付けをしていた。
ライブに帯同するスタッフや機材も乗っていた巨大な船だったが、この一室以外は既に撤収は終わってしまった。
どうしても、この部屋だけはと思って最後まで手を付けられなかった。
そんな私を見かねたのか、迎えに来てくれたシャンクスが話しかけてきた。
「ウタ、一人で大丈夫か?」
「ありがとうシャンクス。でもいいんだ。この部屋の片付けだけは私にやらせて、お願い。」
「そうか…。」
「もう…そんな顔しないで!アドが見たらきっと悲しむから。」
「わかった。待っているぞ。」
「うん。」
■
(これ、アラバスタで貰ったスカーフ!二人で巻いたな。あ、この衣装はドレスローザで着た…。服のセンスが絶望的な私と違って、アドはこういうのデザインするセンスあったよね。おへそが出てたからちょっと恥ずかしかったけど。)
片付けを始めたものの、もう二度と作られることのない思い出が刻まれた品だ、捨てられない。
何とかレッド・フォース号に積み込んだ私は、がらんとした部屋を見つめた。
ふと、何故かアドが使っていた机の引き出しが気になってもう一度見てみると、上から二段目の引き出しだけ底が浅い。どうやらその下に何かが隠してあるようだ。
ベリっと底板を剥がしてみた。
「これ…日記?それとTDか…。」
アドが付けていたであろう日記と、何かを録音してあるだろうTDが出て来た。
恐る恐る日記を読み始めた私は、アドの秘密の想いを知ることになる。