「新時代」 vsカイドウ Side:ウタ その2

「新時代」 vsカイドウ Side:ウタ その2


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「懸念事項はもう一つある。”ウタウタの実”に関してだ」


聖地マリージョアに座すパンゲア城。

「権力の間」に集まった「世界政府」の最高権力者”五老星”の一人が言葉を発する。


「”赤髪”の娘か……能力だけではなく、その立場まで厄介とはな」


議題に挙がったのは”ウタウタの実”の能力者にして”赤髪”の娘、ウタ。

”四皇”の娘というだけでも頭を悩ませる存在だが、

その身に宿る能力こそが”五老星”全員の顔を歪ませる原因だった。


「アレは歴史の中で幾度も現れ、”最も音楽の才能に溢れるもの”の手に渡ってきた」

「時代を変革する”救世主”、あるいは”魔王”と呼ばれる「悪魔の実」」


「人々を”夢の世界”へ導く”救世主”であり、世界を歌で侵略する”魔王”か……」


ある時は人々の心を救い、魂に刻まれる歌を歌う”救世主”。

ある時は人々を扇動し、世界に混沌を齎す歌を歌う”魔王”。

どちらも”ウタウタの実”の能力の一側面ではあるが、本質は同一のものだ。


人々の心を動かす”夢”を見せる”ウタウタの実”の能力者。

その出現は時代を変える。あるいはその予兆となる。

世界の均衡を担うものとして決して看過できるものではない。


「「覚醒」は”夢”を具現し”世界”を望むままにするが、覚醒した者は例外なく己が”夢”の重さに耐えきれず死に至ったとも」


強大な”夢”が”ウタウタの実”の力であればこそ、

その”夢”に人の身体は耐えられない。


人はどこかで己の限界を知り、”夢”を妥協する。

妥協した”夢”では「覚醒」には至らない。


妥協せず”夢”を追い続けた者はその重さに押し潰される。

己の限界を超えるものは生き残れない。


”ウタウタの実”の「覚醒」は能力者の”死”と引き換えだ。

だが、その前提も崩れる可能性がある。


「よりにもよって”ゴムゴムの実”と共にあるとは。何が起きるか分からんぞ」


世界で最も”自由”な”神”の名を持つ”ゴムゴムの実”が”ウタウタの実”の傍に存在する。

それによってどのような事態が起きるのか、誰にも予想できない。


「だが、今の問題はそこではない」


一人がポツリと呟いた言葉に全員が黙り込む。


皆”ある可能性”を思い浮かべている。

混迷の最中にあるこの世界で発生する”最悪の事態”を。


「”アレ”は”ウタウタの実”の能力者に謳われることで顕現する。遠からずあの娘の前に現れるだろうな」


「もしくは呼び寄せられるか……あるいは既に接触している可能性もある」


「”ウタウタの実”と”アレ”は切り離せぬ関係だ。すぐに動かねば手遅れになるぞ」


「”王国”に手を回すのは当然だが、それも時間稼ぎになるかどうか……」


「世界の均衡……いや、存続の為にも早急に娘を抹殺するか確保すべきだ……!!」


「”赤髪”の逆鱗にナイフを突き立てる気か? ”麦わら”の一味も黙ってはいまい」


「既に謳える可能性もある。例え”フィガーランド”の血筋だったとしても、やらねばならんだろう」


”五老星”の中でも様々な意見が紛糾し、錯綜する。


意見の吹き荒れる場から目線を外し、

”五老星”の一人が窓の向こうに広がる空を見る。


今日は随分と風が強い。

まるでこれから世界に巻き起こる大きな”嵐”の到来を告げるかのように。


「”歌姫(ディーヴァ)”か……」



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(もっと!!)


足が酷く震えている。喉が焼け付くように痛い。

体力はとうの昔に限界を超えている。

ウタウタの能力が発動しているかなど分からない。

この目を瞑ってしまえば楽になれることなんて分かり切っている。


それでもまだ伝え足りない。こんなものでは全然足りない。

沸々と心から湧き上がってくる想いが私を支える力となり、

力尽きようとする身体を必死に押し留める。


(私、まだ全然……皆に支えられてばかりだけど……!)



♪見えるよ新時代が 世界の向こうへ さあ行くよ new world



忘れ去られること、置いていかれること、歌えないこと。

あの恐怖を忘れることは絶対にないだろう。

頭をよぎる絶望に身体が震え、心が悲鳴を上げる度に皆に支えてもらっていた。

その暖かさに触れて、叶えたいと願った。私の”夢”を。


(だから聴いて!!! 届いて!!!)


全身を駆け巡る倦怠感と痛みも、声を出せず誰にも届かなかった絶望に比べればなんてことはない。


私の声はまだ枯れてない。

枯れてないなら何処までもこの歌は届く。


(これが私!!! ”ウタ”だよ!!!)


今はただ宣言をしているだけ。

何もかも、全く追いついてないのは分かっている。


それでも信じたいのだ。この未来を。

いつか全てを変える。そんな決意を込めて私は歌う。



♪信じたいわ この未来を 世界中全部 変えてしまえば



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「あの子は寝かしつけておいたよ。これで一息つけるってもんだ」


「ダダンさん……ありがとうございます」


東の海の辺境、ゴア王国のはずれに存在する「フーシャ村」。

昔馴染みである山賊一味の棟梁ダダンが戻ってきたのを酒場のマスターであるマキノが迎える。


普段なら開店の準備をしている時間だが、マキノは椅子に座り項垂れてる。


「気にすんじゃないよ。親がそんな顔してたら子供も不安がる」

「だからアンタは早く元気になるんだよ」


「……はい」


ダダンはマキノを気遣うように言葉を掛ける。

その言葉に頷きつつも、マキノの表情は暗いままだった。


自分がこうなった原因をマキノは思い返す。



――……あ、ああ……!?

――マキノ!? どうした!?


いつものように酒場でダダン一味を交えた宴が催されていた時、

突然顔を青褪めさせてよろけたマキノをダダンが支える。


――う……ウタ、ちゃん……

――ウタ? ルフィの持ってた人形がなんだ!?


思い出したのは古い記憶。

赤髪海賊団に育てられていた可愛らしい女の子。歌うことが大好きな女の子。


歳の近かったルフィにとって初めての友達。

いつも張り合って一緒に遊んでいた女の子。


突然いなくなってしまった。誰もそれに気付かなかった。

忘れていた。初めから存在しないものと思っていた。


ルフィといつも一緒にいた不思議な動く人形。

壊れたオルゴールの音を鳴らす、赤と白の、何処かあの子の面影がある……


全ての記憶が繋がり、マキノの身体がガタガタと震える。

悍ましい想像が頭から離れない。全身から血の気が引いていく。


――ダダンさん……あの子、あの子は……

――”人間”です……!!

――……!?


ダダンの顔が驚愕に染まる。

マキノは混乱しているダダンに縋りつく。


――私……私、あの子のことを……忘れてッ……!!

――落ち着けマキノ!! 落ち着くんだ……!!



何故そうなったのかは分からない。

きっと自分では想像もできない何かが起きたのだろう。


だが、あの子はどう思っただろうか。

一緒に過ごした友達からも、知り合いからも、

誰より大好きな家族からも忘れ去られ、人形として扱われたことを。


ルフィが”あの人”から麦わら帽子とあの子を受け取った時、

激しくオルゴールの音を鳴らしていたのを覚えている。

あれほどまでに激しくオルゴールを鳴らしていたのは、

後にも先にもあの時だけだった。


あの音は、あの叫びはきっと……


「……ッ!!」


あの子はどれだけ苦しんだのだろうか。

気付けなかった、それどころか全てを忘れてしまっていた自分自身に耐え難い怒りと悔しさを覚える。


彼女を忘れ去っていた自分の言葉がどれだけあの子の心を傷つけただろうか。

どれだけ辛かっただろうか。

10年以上、彼女はずっと……


――こいつ歌が好きみたいだからさ! 「ウタ」って名前にしたんだ!


……あの子にとって、それはどれだけの救いになったのだろうか。



終わらない思考の渦に囚われているマキノの姿に、

見守っていたダダンが堪らず声を掛けようとした時、



♪新時代はこの未来だ 世界中全部 変えてしまえば



「!?」


「なんだいこいつァ……!?」


突然聴こえ始めた歌に二人は揃って顔を上げる。

困惑しているダダンを後目に、マキノは椅子から飛び上がり酒場の外へ出ていく。



♪見えるよ新時代が 世界の向こうへ さあ行くよ new world



歌だ。歌が聴こえる。

青空の下、水平線の向こうから風に乗って歌声が届けられている。

村の人々も戸惑いの表情を浮かべながら次々と集まってくる。


こんな辺境の村にまで届く歌なんて、一体どうやって。

誰が……


「……!!」


耳に届く歌声に、歌うあの子の姿が思い浮かんだ。



♪新時代はこの未来だ 世界中全部 変えてしまえば



「この歌は一体……」


後ろからウープ村長の声が聞こえてくるが、今はそちらを振り向く余裕がない。

胸から溢れてくる感情を処理することで精一杯だ。


「ウタちゃんです……」


「マキノ……」


目から止めどなく涙が零れ落ちる。

あの子が己の声で、世界に歌を響かせている。


その力強い歌声で心から安堵した。

あの子は救われた。今も世界の何処かで歌っている。



♪果てしない音楽が もっと届くように



「ウタちゃんが、歌ってます……!!」




(TO BE CONTINUED…)



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