新入りの上司が怖い
ドンキホーテファミリー下っ端と上司のキャメルさん※ホビワニルート
※モブと新入り上司キャメルさん
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ドン・キホーテファミリーは幹部間の結束が特に強くおっかない。
それゆえに大事なことは上が全部決めてくれる。
下っ端にはなんでこんなところに所属しているのかとんと覚えがない。
前王の頃に国風に惹かれて移住してきたはずだ。
それできっかけはよくわからないがファミリー入りしていた。
惰性で過ごしているうちに、最高幹部の男気半端ねえが正気とは思えない風体のセニョールピンクには『俺と似たものを感じる』という死刑宣告のような誉め言葉までもらい、妙に気にかけられている。
ベビーピンクのボンネットがいやに鮮やかで、思わず腰につるしたリボルバーと古びたお守りをなでた。
なんでこんなぼろいお守り持ってるのか忘れたが、神にでも縋らなきゃやってらんねえ。
仮にも一国の王が海賊やってることに思うところがないわけではないが、向上心も野心もないチンピラ崩れの構成員でも食っていけるくらいには甲斐性がある。
だらだらと言われたことだけやる。
それだけだ。
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「キャメルさん!!そいつ外交官です!ボスの客!斬るならせめて服だけにしろ!」
情熱の町らしく、船着き場で歓迎のダンスを披露する美女たち。
手に手に旗を振るこども。舞い散る紙吹雪。けたたましい笑い声をあげるおもちゃたち。
そしてばかでけえハサミ振りかざして使節団に特攻しようとする上司。
上司、キャメルさんは厳密にはファミリーではない。ボスがスカウトしてきた。
身なりのいいコートに丁寧に撫でつけられた髪。不釣り合いな大きな鋏。
新入りにもかかわらず、ボス直々に一等地に自分の店と家まで与えられて至れり尽くせりだ。
その好待遇に舌打ちしたくなる気持ちがないといえば嘘になる。
が、同じことを考えて初日に襲い掛かった下っ端複数人を一瞬でバラし、衣服剝ぎ取って観察していたのを目撃してから血の気と一緒にそんな気も失せた。これはやべえ。
「おやおやボスの、ドフラミンゴのお客様とはね。外交官というのは国と国との懸け橋となる大切な存在だ、丁重におもてなししなければ。しかし私は、」
「そう!あんたは!ドンキホーテファミリーの構成員です!」
ドンキホーテファミリーの紋章入りのマントを全力で引いて、必死に腰にしがみつく。
なのにどんな体幹してるのか一切歩みが止まらない。
少年の心を忘れないといえば聞こえはいい。
2m超えのわんぱく神斬鋏小僧に、人はなすすべをもたない。
このままでは使節団と談笑するドフラミンゴ様ごと斬りかねない勢いだ。
ずるずると引きずられる姿を指さして笑っているトレーボル様と興味なさげに一瞥をくれるシュガー様に、肉親の仇のように鮮烈な殺意が沸いた。