新世界の脅威

新世界の脅威

一般プレジャーズ

_____偉大なる航路 とある小島にて

「ハァハァ…これで最後か…」

 逃亡生活から数ヶ月、絶え間なく海賊や賞金稼ぎたちがルフィたちに襲いかかってきた。かつて"新時代の英雄”とまで称されたルフィにとって取るに足らない相手ばかりであったがこうも延々と襲われると体力を消耗する。

「ルフィ…大丈夫?」

「ああ!おれは強いからな!このぐらい平気だ」

「ちょっと待ってね…すぐに手当てするから…」

 心配そうに問いかけるウタにルフィは気丈に答える。シャボンディ諸島での一件の後戦えなくなってしまった彼女は全ての戦闘をルフィに任せて守ってもらうことしかできないことに深い罪悪感を抱いていた。そんな罪悪感を紛らわすために少しでも役に立とうとルフィの傷を手当てしようとしたその時。

 強大な覇気を持った何者かがこの島に上陸してきたことを二人は感じ取った。

「!!。強ェな…」

「ルフィ!これって……」

「悪りィウタ。ちょっと行ってくる!」

 そうウタに伝えルフィは海岸に、強大な覇気を放つ相手がいる場所に向かって跳んでいった。

「ルフィ!待っ...........」

うしろで呼び止めようとする彼女の声は聞かないようにした。




「自ら来たか…」

「へへへ…あれが英雄さまか…!」

「海軍に見捨てられたんだってなァ!可哀想に!ギャハハハ!!」

 海岸で待ち構えていた海賊は今まで襲ってきたものたちとは別格の存在だった。

"百獣海賊団”———四皇”百獣のカイドウ”が率いる凶悪な海賊団である。

「…誰だお前ら」

 ルフィは不遜な態度で返答しながらも警戒していた。四皇の部下と言っても、イキリ散らすだけの連中ならば負ける気が全くしなかった。しかし、そんな奴らを率いる黒ずくめの大男だけは危険だとルフィの脳は警鐘を鳴らしていた。

「……探す手間が省けたな…。おれたちは百獣海賊団。モンキー・D・ルフィ、今すぐ歌姫を連れてきてカイドウさんの部下になれ。」

「っ……連れてくるわけねェだろ!ぶっ飛ばされたくなかったらとっとと出てけ!」

男のあり得ない提案にルフィは怒りの感情を含ませながらはっきりと拒絶する。そんなルフィの態度に男は鼻白む。

「だったら無理にも連れて行くまでだ…!そしてお前を餌にすれば歌姫も引き摺り出せるだろう」

「っ……!やってみろ!お前ら全員ぶっ飛ばしてやる!」

 激昂したルフィの体から蒸気が吹き出し手足が黒く染まる。それと同時に、男も抜刀し、刀に覇気を纏わせる。

「ギャハハハ!あいつあんなボロボロ状態でキング様と闘う気か!」

「キング様は百獣海賊団の最高幹部”大看板”の筆頭だ!テメェなんかが倒せるか!」

「"ゴムゴムの"ォJET銃!!」

 野次を無視し武装色を纏わせた拳をキングに叩き込む。かつて七武海や伝説の海賊を下したその拳は並の相手なら一撃で倒す威力を持つが_____

「何かしたか?」

「効いてねェ…!?……グアッ」

 全くダメージを受けるそぶりもないキングにルフィは驚き、その隙に刀で斬りつけられる。

「これならどうだ!ゴムゴムのJET象銃!」

「…!!」

 ギア2とギア3の併用により、スピードと破壊力を極限まで高めた巨大な拳でキングを殴りつけ、大きく吹き飛ばすことに成功するが。

「丹弓皇!!」

「……!?能力者か……ウグッ!」

 腕を翼に変えて高速で戦場に戻ってきたキングを見てルフィは相手が能力者であることを悟る。リュウリュウの実モデルプテラノドン__それがキングの能力である。そしてキングはそのまま翼に覇気を纏わせルフィに思いっきり叩きつけた。ルフィは予想以上のスピードと威力に防御が間に合わず吹っ飛ばされた。

「一つ教えといてやる。お前は生物としておれには勝てねェ!!終わりにしてやる…」

「……ちくしょう!」

 キングは高らかに宣言をし動けないルフィの意識を刈り取るために腕に灼熱を纏わせる。手負の獣は何をしてくるかわからない。相手はかつて数々の海賊を沈めてきた新時代の英雄。数々の視線をくぐり抜けてきた百獣のカイドウの右腕は決して油断をせず必殺の一撃を持ってこの戦いを終わらせようとした。

「ここまでだな……!炎—」

「ルフィ〜!!!」

 戦っていた二人が声の方へ視線を移す。声の先にいたのはウタ。ルフィが心配で必死に走ってきたのだろう。息を荒げ足は切り傷などでボロボロになっていた。

「ふん!この男を助けにきたってところか……。おいお前ら!装置を起動させて歌姫を捕らえろ!!」

「クイーン様が製作したあれですね!了解しました」

「へっへっへ歌姫ちゃん。大人しく着いてくれば悪いようにはしねぇぜ?」

 キングと百獣海賊団が耳元のボタンを押してウタの声のみを遮断する装置を起動する。ウタの持つウタウタの実の能力は状況次第では四皇をも一方的に沈めることができる強力な能力である。故にカイドウは絡繰に精通している最高幹部"疫災のクイーン"にその対抗策である機械を作らせていた。

「来るなウタ!!こいつらお前のことを狙って———」

「余所見か?ずいぶん余裕だな!」

 ウタに逃げろと必死に叫ぶルフィにキングはさらなる追撃を加える。無数の火炎が弾丸のように発射されルフィの体を貫く。それを見たウタは焦燥に駆られる。

(どうしよう……どうしよう……このままだとルフィが死んじゃう!…でもどうすればいいの?ルフィでも勝てない相手に歌うことすらできない私じゃ勝てるわけないのに…。)

———ウタエ…ウタエ…

どこからか声が聞こえる。そしてウタは自分の手元に古びた楽譜がいつの間にか存在していることに気づいた。

———ウタエ…アノトキノヨウニ…

「(なんだろうこの楽譜?でもすごい力を持っているのかわかる…これを歌えばもしかしたらルフィを…)よし…一か八かだ!」

 百獣海賊団が迫る中、楽譜の歌を歌おうと大きく息を吸い込む。それを目にしたルフィはウタのやろうとしていることを察し青ざめる。

「ウタァ!!!それを歌うなァアアア!!!」

 絶叫にも近い声で必死にウタへ呼びかけようとするルフィ。

 しかしもう手遅れであった。

「────ᚷᚨᚺ ᛉᚨᚾ ᛏᚨᚲ ᚷᚨᚺ ᛉᚨᚾ ᛏᚨᛏ ᛏᚨᛏ ᛒᚱᚨᚲ!!」

エレジアを滅ぼし赤神海賊団とウタを引き裂いた全ての悲劇の元凶。幼き頃ルフィ自身の無力を知ることになった強大な魔王。それが十数年の時を経て再び降臨した。



◇◇◇



「なんだったんだあの化け物は……」

 プテラノドンへと姿をかえたキングは空を飛びながらそうつぶやいた。あの化け物はウタとルフィを取り込んだ後こちらに攻撃を仕掛けてきた。最初は応戦したが何をやっても一切攻撃の通じない化け物に惨敗。キング以外は全員あの化け物に殺され船も破壊されてしまったためこうやって飛行して帰還するハメになった。

「しかし…仮にあの化け物をコントロールできた場合、百獣海賊団の敵はいなくなるだろう…。このことも含めカイドウさんに報告だな。」

 百獣海賊団の攻撃を一度退けたルフィとウタ。しかし、彼らの脅威はまだ終わっていない。



◇◇◇



 ウタが目覚めた時、周囲には凄惨な破壊痕しか残っていなかった。百獣海賊団の船もなく、あの恐ろしい黒尽くめの大男もいないことからどうやったかはわからないがとりあえず撃退することができたのだろうか?

「そうだっルフィ!」

 愛しい幼馴染のことを思い出しあたりを見回す。これだけの破壊規模だ。巻き込まれたっておかしくない。

 しかし幸いなことにルフィは歌のすぐ隣で気を失っていた。ひどい傷を負っているが命に別状はないだろう。ウタは胸を撫で下ろした。

「ルフィ…よかったぁ」

 そう言いながら幼馴染の頭を撫でる。

「そうだ!!待っててねルフィ!今すぐ傷薬とか包帯とか持ってくるからね!」

 壊れてないといいけど…と呟きウタは拠点として使っている洞窟へと走っていった。







「ウタぁ…助けられなくてごめん…ごめんなさい……」

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