断章:卯

断章:卯


「ちょ・・・待って空鼠!!」


サングラスをかけた少女と獣達が倒れている猫の前に立ち塞がる。


「・・・どうしたんですか空鼠君!?確かに彼が獣の姿をした人間だという事は僕達にも分かります・・・ですが!だとしても『見る』なりいきなり殺しにかかるなんて君らしくありません!!」


獣の中の一人・・・毒兎が前にで叫ぶ。


「・・・そこをどけ貴様ら、そいつだけは生かしておいてはいけない・・・それはもはや人間だの獣だのの言葉で語るのすら烏滸がましい・・・!!」


「・・・本当にどうしたっていうんですかぁ!?」


空鼠は敵意を剥き出しにして楊枝を倒れている猫に向かって向ける。

それを見て変牛はヒステリックに叫ぶ


「10にも満たない子供だぞ・・・! 君は一体何を『見た』っていうんだ・・・!?空鼠ィ!!!!」


夢馬の声が森中に虚しく響き渡った。


※※※



ブロロロロロロロロ


ある通路をバイクが凄まじい速度で通過する


「ヒャハハハハハハハハハハハ!!!やっぱり突っ走るのは気持ちいいぜぇ!!」


「あばばばばばばばばばばば!!!ねぇこれ交通法とか大丈夫なのぉ!?」


バイクを運転しているのはマフラーを付けた兎こと毒兎、そして後には六月が乗せられていた。


「ってかどこに向かってるの・・・!?公園から突然乗せられたから分からないんだけど・・・!?」


「アイツと合流するんだよぉ!!さっき連絡したからなぁ!!」


バイクは行き先も分からず走り続けている。

だがそのバイクに並走する小さい存在が現れた。


「全く・・・何をやっているのだ貴様は・・・」


「ガゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾッ!!!」


六月の目の前に入ったのは爆速バイクに普通に走って並走する空鼠とその空鼠に引き摺られる巨竜の姿だった。


「ギャァァァァァァァァァァ!!!引き回し!!!てか誰ソイツ!?」


「ついさっき合流した、さて・・・そろそろ止まるぞ」


バイクはある公園の前で急停車をした・・・



※※※


「・・・それで、何があったのだ?貴様の口から詳細が聞きたい」


「・・・・・・・・・」


六月は言い淀んでいた。


「・・・すまない、不躾だったな、無理矢理話すような事じゃ」


「いや・・・話すよ」


彼女は決心した様子で口を開き始めた。



※※※


「・・・それで私、ヨウに酷い事言っちゃったんだ・・・」


「「「・・・・・・・・・」」」


六月の話を3匹は黙って聞いていた。


「・・・最低だよね、自分の理想ばっか押し付けて・・・これから先皆に置いていかれて辛いのは猫なのに・・・私は気を紛らわす代用品のしての役目も果たせなかった・・・!」


六月はどんどん感情が漏れ出ていく。


「私なんて最初から捨てられて当然だったんだ・・・!私みたいな奴がヨウを好きになる資格なんて初めから・・・!!」


「ダメだよ六月ちゃん」


六月の口を咄嗟に巨竜が塞ぐ。


「それ以上は言ったらダメだよ、自分の好きって思いを否定するのって・・・とても辛い事だから」


「でも・・・!!」


「それにね・・・誰かを好きって思いは誰も否定しちゃいけないのさ・・・例え、君自身でもね」


「・・・・・・っ!!」


六月は口を閉ざした。


「・・・我も同意見だ・・・それにさっき貴様は代理がどうのこうの言ったが・・・」


空鼠が六月の前に立つ。


「人生というものは自分自身が決める物だ、誰かの代理にされるような物じゃない」


「・・・・・・・・・」


「・・・貴様自身の考えも、その思いも・・・全部・・・貴様自身の物だ、六月・・・それにそもそも貴様の親はそんな目で見ていないと思うぞ」


「・・・なんでそんな事分かるの?」


「なんで?か・・・ふむ・・・」


空鼠は考える素振りを見せる。


「・・・強いていうなら、勘だな」


「・・・は?」


六月はポカンとした顔をする。


「・・・今まで、色んな人間を『見て』きた・・・様々な欲望を『見て』きた・・・から・・・だろうか?」


「なんで空鼠が疑問系なのさ」


巨竜が突っ込んだ。


六月は再び顔を伏せる。


「・・・だとしても私がヨウに言った事は変わらない、あんな事言った私に戻る資格なんて・・・」


「六月ちゃんって面倒くさいって言われな」


巨竜が余計な事を言おうとしたが咄嗟に空鼠が顔面をぶん殴る事によって口を塞いだ。


「・・・ならば」


「あー!!!!!!面倒くせぇ!!!」


今まで沈黙していた毒兎が叫んだ。


「なぁオタク女よぉ・・・それで自分は納得できんのか?」


「え?納得って・・・」


「このままここで何もせずに蹲ってる事を昔の自分や憧れてる奴らに誇れるかって言ってんだよ!」


「そ、それは・・・」


六月は口を塞ぐ。


「だろ?誇れないって事は自分で間違ってるって思ってるって事だ、自分で間違ってるって思ってるって事はテメェは間違ってるんだよ」


「・・・・・・・・・・・・」


※※※


『分かりました・・・それなら賭けをしましょう、彼をここで鍛えて僕達の害にならないと判断したら見逃す、そして害になると判断したのなら・・・僕の首も同時にとってください』


※※※


(・・・全く、変わってるようで変わってないな、お前は・・・)


「・・・六月、知っての通り個性派集団の我らだが・・・それでも、大事にしている事がある」


「・・・大切にしている事?」


六月は不思議そうな表情で空鼠を見る。


「あぁ・・・『自分自身と自分の欲望に誇れる自分である事』だ、間違いはだってある・・・大事なのは、自分がそれからズレてしまったと思えばまた目指すことだ」


「・・・そっか!」


六月は自分でしゃがみこんだ状態から起き上がる


「・・・ありがとう!多分だけど・・・今日私はみんなから大切な物を貰った!!」


「いやーそれほどでもないよー」


巨竜は嬉しそうに照れる。


「あっそうだ!折角だし巨竜も私の家に来ない?」


「勿論だよ!そもそも僕はその為に来たんだし!」


六月はバイクに近づく。


「毒兎!とりあえずヨウに謝る為に私を家に送って!」


「おうよ任せておけ!ヒャハハハハハハハハハ!!!!」


「・・・さて、それでは帰るとするか」


そう言って全員はバイクに乗って駆けて行くのだった・・・


※※※


「そういえばさ・・・なんで皆態々見ず知らずの私達の為にきてくれたの?」


六月がバイクで送られてる中ふと気になった事を聞く


「ふむ・・・強いていうなら偶然だな」


「・・・偶然?」


「あぁ、偶々我らと繋がりの深い猫天与の死ぬ姿が死ぬ姿が写った、だから護衛に来た、それだけだ」


「そうなんだ・・・他の皆も?」


六月が巨竜に向かって聞く


「いや、ぶっちゃけ僕達は猫天与がどうなろうと知ったこっちゃないよ」


「えっ」


「僕・・・いやそれ以外の皆が来たのは空鼠がやりたいって言ったからかな」


「・・・空鼠が?」


六月が不思議そうに返す。


「そうそう、このメンバー今は空鼠の人望で成り立っているからさ、基本的に皆空鼠のいう事なら聞くわけ」


「へー・・・人気なんだね空鼠」


「・・・ふっ」








(・・・まぁ正確にはそれだけではないがな)

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