敗戦の後のヤケ酒
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「恐らくココですかね...次に虚が出現する可能性が高いのは」
浦原さんが私と茶渡君を連れて街にある鬱蒼とした路地裏に案内した
最近 特に黒崎くんや石田君が怪我をした後から虎屋ちゃんの様子がおかしかった
何処か遠い所を見ているような目でずっと青白い顔をして昼夜問わずあちこちを徘徊していて しかも道が交差している所で棒を倒しては倒れた方に進むのをずっと繰り返している...声を掛けたり付いていこうとしたけれどこちらに気づいていない様子で直ぐに引き離されて見失ってしまっていた
そんなことを数日間繰り返していたけれど 今は浦原さんから声をかけられてこの状況になっている
「ええと...どうしてそれが分かるんですか?」
私は素直に疑問に思ったことを口に出す 虚と虎屋ちゃんに何か関係しているのだろうか
「虎屋サンの移動の法則性からしてここだろうという"おおよそ"の予想です 虎屋サンが準備を始めているなら確実なんスけどね」
そう言っているとカランと夜中に無遠慮に響く音が鳴った 恐らく木の枝を倒した音かなと覗き見ようとして茶渡君共々止められた
「ワタシ達が出るのは全てが終わった後です 申し訳ないんスけどどういう状況でも手を出さないでくださいね」
「でも...」「...わかった 何か理由があるんだろう」
渋る私と少しだけ迷った後に手を出さないと決めた茶渡君をよそに虎屋ちゃんが虚の出てくる予想地点に到達した
時折居候先である黒崎くんの家に帰っているからか身だしなみは多少整っているが 明らかに青い顔をして焦点の合っていない目で周りを見渡しながら虎屋ちゃんは来た
「私は... 守...」
小さく何かを呟きながら足元にトラバサミを置き近くの建物の屋根へと空を蹴ってに飛び乗る 今の所霊圧も雰囲気もおかしなところは無いのにまるで"確信"を持って行動しているように見えた
(虎屋ちゃんは死神や滅却師じゃないのにどうして空を飛んでいるんだろう...)
私自身も特異な力を持っているけれどどういう差があるのか そう数瞬考えていると 虎屋ちゃんは屋上から飛び降りた
「えっ...?」
咄嗟の事で小さく息を漏らすことしかできなかった 茶渡君は異変に直ぐに気づいて動こうとしたけれど浦原さんに止められてしまっていた
そうして見たのは 虚がトラバサミに挟まれて悶絶している隙に屋上から飛び降りた虎屋ちゃんが勢いのままに虚の首を斬り飛ばす異様な光景だった
まるで初めから見えない虚がいてそれと戦っていたようにすら感じる自然な動きだった
私と茶渡君が呆然としていると浦原さんが私たちを置いて虎屋ちゃんに声をかけた
「虎屋サン少し話を聞いて... あぁダメそうっスね完全にお酒でボンヤリしてる」
「お二人サン 一緒に担いでちょっと商店まで連れて行ってもらっていいですか?...吐いた時ようにエチケット袋は用意するんで」
お酒臭く相変わらずぶつぶつと何かを呟く虎屋ちゃんを茶渡君が抱き上げて一度商店へ戻った ちなみに着くまでに数回吐いたし服からは多量のお酒が出てきた
「もしかして虎屋ちゃんって酔拳使いなのかな...?」「多分違うと思うぞ...」