救国の英雄のおぞましき真実! 秘匿された部屋に元王下七武海を監禁か?隠された爛れた関係とは

救国の英雄のおぞましき真実! 秘匿された部屋に元王下七武海を監禁か?隠された爛れた関係とは

記者:カストリ



◆英雄の仮面に隠された欲望!暴かれた数々の悪事

此の度海軍に身柄を拘束されたる元王下七武海にして元ドレスローザ国王、ドンキホーテ・ドフラミンゴ(41)の裏の顔が実は、闇社会を牛耳る恐るべき大悪人『ジョーカー』であった!

リク王の突然の狂気によって荒廃した国を、王を倒し国土を復興させた英雄として、この海賊は一夜にして王位に就いた。国は潤い、国民は笑いと娯楽の絶えぬ生活を享受ているかに見えた。しかし、上手い話には裏がある。この英雄の姿は、人を欺く仮面に過ぎなかった。

大量破壊兵器の製造への関与、「死の商人」としての闇の兵器売買、そして「悪魔の実」能力を悪用した王権簒奪!国民を欺き、恐怖と欺瞞によって支配していたその実態!「ファミリー」と自ら呼ぶ麾下の犯罪組織の暴利暴虐!

これだけでも十分良き市民等の心胆を寒からしめる一報であったが、我々は更におぞましき、その英雄の仮面の下に隠されたる真実を発見したのだ。

◆国王様は死体がお好き?秘匿された部屋で一体何が

彼が国王として君臨していた簒奪された王宮の地下に、ファミリーでもおいそれと近づけぬ秘密の部屋があった。暗く長い廊下には誰も通されず、ただド氏のみが毎日通う場所。彼に近しいものでも、入室を許された者はごく僅かであったと云う。秘密の実験室?極秘資料を保管する書庫?はたまた、逢引の場所なのか。

ここに、ある一つの重要な証言がある。証人の生命に危険の及ぶことを懸念しての名は秘匿するが、曰く、ド氏がこの部屋に死体を安置しているのを見た、との証言を我々は幸運にも得ることが出来た。

その死体は豪奢なベッドに寝かせられ、綺麗な衣装を身に付けさせられて、主人の夜毎の訪を受けていたのだとも、証人は言っていた。相手が死体とはいえ、やはり逢引なのだろうか?死してもなお愛する恋人を安置した、秘密の礼拝所なのだろうか?

しかし我々が突き止めたのは、純愛などではなかった。もっとおぞましく、狂気に満ちた欲望の物語であったのだ。

◆二年前の因縁!知られざるもう一つの事件

さて、ここで一つ過去の事件の話をしよう。読者諸君もよくご存じの、二年前の事件である。海軍本部はマリンフォードにて海賊王ロジャーの息子たるエースの処刑が行われんとしたその時、それを救出せんと現れた白ひげ海賊団と、そこに乱入せしインペルダウンの二百名余の脱獄者、それから海軍総戦力が三つ巴に激突した、後に頂上決戦と呼ばれたあの戦いのことである。

読者諸君はなぜここで、我々がそのような遠い場所の戦争の話をするのか訝しくお思いのことであろう。しかし、これこそが、本件の重大な中核をなす事件であったのだ。

ド氏がこの戦争の折に英雄と呼ばれるようになったことも、読者はご存知であろう。彼が倒した最大の敵の名も、我々は知っている。

その男の名は、サー・クロコダイル。王下七武海を二十年余り務め上げた、砂漠の英雄と呼ばれた傑物である。その英雄の顔の裏で国家簒奪を目論み、秘密結社を手足のように使って内乱を先導していた知略家の悪漢。強大な悪魔の実の力も侮れぬ、恐ろしい敵であった。砂と化して一切の物理攻撃を物ともせぬこの男の不意を突いて、素っ首刎ねて倒したのが、ドンキホーテ・ドフラミンゴその人であった。

首を刎ねられた刹那、最期の力を振り絞って戦場に起こした巨大な砂嵐によって視界は遮られ、海軍はなんとか白ひげこそ討てたものの、エース他の海賊どもの殆どはその場を逃げ果せた。これがこの戦いの顛末である。

しかしここに一つ、広く語られざる事件が、かくも大きな戦いの裏でひっそりと起こっていた。首を刎ねられた筈の男が、この戦いを秘密裏に生き延びていたのである。

◆元同僚に見せた異常な執着

首を刎ねられた人間が生き延びることなど不可能だと、皆様はお思いのことであろう。しかしここに、世の中の常識など軽々とひっくり返す力がある。悪魔の実だ。ド氏もまたその人智を超越した能力を得た一人であることも、ご承知の読者は多かろう。その力を以って、彼は首を刎ねられた男の命を救った。

そう、件の堕ちた砂漠の英雄、サー・クロコダイルである。自分で首を刎ねておきながらその命を救うなど、理解に苦しむ行動であろう。

ご承知の通り、かつてこの両者は王下七武海の同僚であった。そこに如何なる接点があったのか、下々の者には考えの及ばぬ事である。二人は仲が悪かったと言う人もある。クロコダイルに至っては、ド氏をあからさまに避ける素振りさえ見せていた、という噂も、我々記者の耳に届いている。

しかし、ド氏の方ではそうではなかったようである。ある海兵の証言によれば、彼は顔を合わせればクロコダイルに絡みに行き、あまつさえ彼の能力でちょっかいをかけてはセンゴク前元帥より注意を受けていたという。まるで子猫が母猫に戯れつくが如き有様ではないか。天夜叉などと大層な名で呼ばれる大の男が、年嵩の、しかも七武海の先輩に当たる男に甘えていたという事実が、確かに存在するのだ。

この甘えが、あるいは執着が、これから我々が詳らかにしてゆくおぞましき真実の根幹に流れている。

さて、何にしても、ド氏はクロコダイルの首を刎ね、しかしその悪魔的な力によって首を繋ぎ合わせ、生きながらえさせた。

かくが如き理解に苦しむ矛盾した行動に及んだ背景には、如何なる理由があったのか。ド氏がクロコダイルに、矛盾した感情を抱いていたからに他ならない。

◆愛憎の果てに…おぞましき奸計とその果実

愛憎相半ばする、という言葉はご存知だろう。ド氏が抱える矛盾とは、まさしくそれであった。

七武海で顔を合わせる度に彼が見せたと云うクロコダイルへの甘えは、この男を手に入れたいと云う執着の現れてあった。それは悪魔の実の能力を使ったちょっかい、などという物騒な試し行動へと繋がり、それを拒絶された時に、哀れな犠牲者の運命は定まったのだ。

一度はクロコダイルの逮捕・投獄によってその運命は遠かったかに見えた。世界一の牢獄に繋がれては、最早生きて相見えることは能わず、ド氏の歪んだ愛情は発露の機会を永遠に失った筈であった。

しかし運命は彼に味方した。クロコダイルはインペルダウンを脱獄し、彼の待つ戦場へと舞い戻ったのだ。

何という好機!彼は意中の男が颯爽と現れた時小躍りしたに違いない。彼の欲望を実現する、千載一遇のチャンスが到来したのだ。この気を逃さず、ド氏はクロコダイルの首を狙い、そして刎ねた。

クロコダイルはその瞬間何かを悟ったのか、死力を尽くして砂嵐を起こした。そうやってエースをはじめとする白ひげ海賊団の退路を拓いたのだ。白ひげとは因縁のあった男だが、何か思うところがあったのであろう。脱獄も、エースを救うためであったと伝えられている。なんとも可憐な男心である。

そんな美談などお構いなしに、無慈悲な攻撃はクロコダイルの首を落とした。そうしてもう一度、一瞬の後に素早く首を繋げることによって殺さずに無力化して、ド氏はまんまと愛しい男を手中に収めたのであった。

◆悪夢の飼育小屋の真実

それでは、ここまで読んだ諸君の忍耐を讃えよう。ここでようやく、件の秘密の部屋の登場である。

か弱きご婦人方には決して見せられぬ、悪夢の如き世界を、これから詳らかにしていこう。

内外に死を偽装して、死体と偽って、ド氏はこの部屋へとクロコダイルの身体を運び込んだ。首を切り落とし、再び縫い合わせた悪魔の技は、恐るべき砂漠の英雄から身体の自由を奪った。当然ながら、通常首を切り落とされて生き延びられる人間などありはしない。数分脳に血が巡らねば、脳細胞に致命的な損傷が引き起こされて、死に至る。ド氏はその生きるか死ぬるかの瀬戸際を見極め、クロコダイルの思考能力は残したまま、身体を麻痺させることに成功したのだ。驚嘆すべき技である。『ジョーカー』は、数多くの囚人達を実験動物のように抱えていたのだと云う。恐らく、この技も彼らの犠牲の上に磨き上げられた、おぞましき禁忌なのであろう。

哀れにも意識のないままに怪鳥の根城に連れ込んだクロコダイルを、ド氏は日も射さぬ地下の一室に幽閉した。調度品こそ贅を尽くした一級品であったが、その部屋は身体の効かぬ男を無理矢理押し込めて飼い殺す、陰惨な飼育小屋に他ならなかった。

◆驚くべき歪んだ欲望

目を覚まして、自分の置かれた惨状を悟ったクロコダイルの衝撃は如何ばかりであったろうか。気位の高い男である。自由を奪われておぞましき狂人にいいようにされて飼い殺されるなど、彼のプライドが許すはずがなかったろう。驚き、怒り、失ったものを嘆く余裕はあっただろうか?自分の命と引き換えに戦場から脱出させた者たちの安否も気になったろう。心は焦りを覚えても、身体は最早自由を失っている。とうに捨てたつもりの命である。生きて辱めを受けるよりはと、自死が脳裏に浮かばなかったとは考えられない。

かたやドフラミンゴは、念願叶ってようやく手に入れた男の身体を前に、自制心を保つことは出来たのだろうか?

読者諸君も、クロコダイルのことはよくご存知のことと思う。顔を横切る真一文字の傷痕が印象深い、少し長めの黒髪を後ろに撫で付けた色男。物憂げな表情と深い声は数多の女性を虜にし、その武勇と炯々たる金眼の輝きは世の男の憧れであった。瀟洒な衣服に身を包んだ身体は丈高く、広い胸は男女を問わず魅了した。英雄と呼ばれなくなった後も、その容姿の妖しい魅力だけは、誰にも否定できぬものであった。

ド氏もそんな魔性の男に心を奪われ、かくの如き凶行に及んだのだ。当然ながら、そのおぞましき劣情を、哀れな犠牲者にぶつけたに違いない。読者諸君にも考えてみてほしい。長年手に入れんと画策して、一度は手に入れることを諦めたものが、幸運にも手の内に落ちてきて、諸君の自由に扱える所有物になったところを。

かつて砂漠の英雄だった男は、今や飢えた野獣の前に投げ出された無力な獲物に他ならなかった。そんな据え膳に対してド氏が取った行動は、しかしながら我々の想像を逸していた。

◆狂王の愛玩肉人形…昏い悦びに浸る夜

ドフラミンゴは、多くの人間の羨望の的であった男を不具にしてまで手に入れた。そうして、今度はこの男に、献身的と言えるような愛情を注ぎ始めたのだ。

麻痺して強張った身体を朝晩もみほぐし、最早土埃や潮風で汚れもせぬ身体を毎日拭き清め、髪を梳き、手ずから水分と栄養を与えて、毎日瀟洒な衣服に着替えさせた。丁重に寝かせられたベッドの端に座って手を握り、相槌も返す事能わぬ男に優しくにこやかに話しかけさえした。

当然ながら、クロコダイルが何か言動を返すことは不可能だ。文字通り砂漠に水を注ぎ続けるような不毛な行為を、一国の王である筈の男が、それが最も重要な責務であるかのように続けたのだ。

狂気の沙汰であった。まるで家族ごっこの飯事のように、身を清めさせ、衣装を着せ替え、話し相手になることを強要した。今のクロコダイルは、まさしくただ心臓が動いて呼吸するだけの、哀れな肉人形であった。

身体の自由と尊厳を奪った唾棄すべき男から意思などお構いなしに身体を弄られ、着替えさせられて、強制的に食事を摂らされ、夜毎訪れては訳のわからぬ戯言を寝物語に囁いて、愛おしげに手を握られる。最早こんな男の手を借りなければ生きられぬ己を、何度呪ったであろうか。呪詛も罵倒も言葉にならず、ただ鬱憤だけが無限に降り積もってゆく。孤高の気位の高い男にとって耐え難い屈辱であったことは、想像に難くない。

ドフラミンゴは、彼のその高い気位をへし折って、完膚なきまでに屈服させたかったのであろう。指先一本思い通りにならぬ身体を否が応にも自覚させ、誰が飼い主であるかを身体に教え込む行為。一見優しいように思える甲斐甲斐しさは、その実嗜虐的な支配欲の発露に他ならなかった。愛玩肉人形と化した男に寝物語を囁きながら、冷たいかんばせを愛おしげに撫でる瞬間、ド氏は全てを手に入れた昏い愉悦に浸ったことであろう。

◆生き地獄…爛れた愛欲の日々

木偶人形のような肉体に閉じ込められたまま、屈辱的な日々を怠惰に消費することしかできないクロコダイルの精神は、見る間に摩耗していった。

しかし、インペルダウンの牢獄が懐かしくなるほどの地獄の責め苦には、まだ終わりは見えなかった。もはや肉体の主導権は、彼のものではなかった。彼の生殺与奪の権利は、他人から全てを奪うことを何も躊躇しない異常者が握っていた。

そんなおぞましき日々がどういうものであったか、幸福な一般市民は想像したくもないであろう。知らない方が幸せであることも、世の中には存在するのだ。

だが我が読者諸君は、あえてその深淵を覗く者達であると、我々は確信している。

世の常として、肉体の主導権を悪意の他人に開け渡せば、待っているのは死か、あるいは陵辱である。

誰も知らぬ地下室に封じ込められ、異常者に身体を弄ばれる。大の大人が、それも裏社会でその名を轟かせた悪人が、単なる飯事遊びで満足する筈がない。ましてや、卑劣な謀略を持って追い落とした先王の娘の初花を散らした挙句愛妾として手元に置き、そればかりかファミリーの構成員として、自身に忠誠を誓わせたような外道である。

秘匿された地下室で、一体どのような非道が身動きも儘ならぬ虜囚の心身に行なわれたか、最早正確に知る術はない。

二十年世間を欺き、英雄として押しも押されぬ地位を手にした男の身体を意のままに出来るのだ。数多の人間が憧れたその肌に指を這わせ、吐息を間近に聞き、体温を心ゆくまで味わう。身動きさえ取れねども、この肉人形はただの人形ではなく、かつては武勇を誇った本物の人間なのだ。一国の王女とはいえ力無き手弱女よりも、余程征服欲を刺激される獲物であろう。それが無残にも尊厳を剥ぎ取られて無力に横たわり、しどけなく我が手に身を委ねるしかできぬ様子に、その歪んだ独占欲は大変満たされていたに違いない。

如何なる非道が、不具の虜囚に落とされた身の上に降りかかったのであろうか。歪んだ愛の形をその征服されざる肌の上に刻んだか、千金を積んでも得られなかった甘美な果実を欲望のままに食い荒らしたか、あるいは、口にするだにおぞましい行為を、その動かぬ身体に強要したのか。長年の執着に凝り固まった情念を、思う様にぶつけた事は想像に難くない。

このげにもおぞましき愛の巣たる小部屋の存在が明らかになったのは、『ジョーカー』逮捕の一連の騒動の中である。頂上決戦より二年もの間、クロコダイルの精神は物言わぬ肉塊に等しい身体の中で、かくの如き苦痛に蝕まれ続けていたのである。

◆砂で「殺せ」の文字…怜悧なる元英雄の無惨な末路

二年。読者諸君はそれを短いと感じるだろうか、あるいは長く感じるだろうか。

クロコダイルにとっては、それは永遠にも等しい責め苦の日々であった。肉体は彼のものではなく、狂った男に尊厳を蹂躙される毎日。いかな狡猾な悪人とはいえ、いや、かつて国家簒奪をあと一歩のところで成し遂げかけた梟雄だからこそ、物言わぬ肉人形として弄ばれるだけの日々は堪えたろう。

かつてはあれほど炯々と知性と悪辣さに輝いていた金の瞳は、今や乾ききって光を失った泥水のように濁りきっていた。決して抜け出せぬ陵辱の無間地獄と肉体の枷に閉じ込められたまま精神は摩耗し、最早死のみが彼の望むものであった。

海楼石の枷がなかったことは、そんな中でも幸運と呼べる事象であったやも知れぬ。最早僅か指先一本程しか砂と化せず、脅威を与えるどころか物を持ち上げることも叶わぬ有様であったが。

それでもその僅かな砂に一縷の望みを託し、クロコダイルは自由の利かぬ身体で必死にその砂を動かした。

その砂は廊下を彷徨い、あるいは地下室の床にのたくった文字を描いた。狂った男の問いかけや愛の言葉に対する返事では無く、その砂が描くのはただ一つの単語であった。

「殺してくれ」。それが唯一、クロコダイルの発する意志であった。

ドフラミンゴがその砂を踏み躙って文字をかき消そうとも、何度も同じ文字が現れた。来る日も来る日も砂文字は現れ、ド氏はそれを無視して身勝手な愛を動かぬ男に注ぎ続けた。やがて摩耗した精神は文字を象ることさえままならなくなり、いつしか床の文字は消えていた。

その代わりに、王宮の廊下では奇妙なことが起こり始めた。

偽の国王が倒される数ヶ月前、あるトンタッタ族の青年は、廊下の隅を彷徨う、さらさらと不定形に形を変える小さな蜥蜴に似た影を目撃した。それはひどく覚束ない動きで、風に吹き寄せられた砂のようにも思えた。しかし風の悪戯にしては不自然に、塊となってまるで生き物のように蠢くこともあった。王宮の人間たちはこのあまりにささやかな怪異に気付くものはいなかったが、トンタッタ族の間ではちょっとした話題になっていた。彷徨う砂の怪異は、いつも決まって、あの秘密の地下室に通じる廊下に現れた。まるで身体を離れた魂のように、それは頼りなく廊下を行き来して、そうして数時間で消えてしまう。何かを探しているのだ、とトンタッタ族は噂していた。

そして数ヶ月後、その探し物は、ついに現れた。

◆語るも涙…悪の道にも一分の義理

『ジョーカー』が倒れた運命の日、王宮に攻め入った反乱者達の一行の中、ある目的を帯びた男がいた。かつてアラバスタで秘密結社の一員であった殺し屋で、インペルダウンから脱獄し、頂上決戦に赴いた者の一人であった。あの悲劇の戦場で、クロコダイルの犠牲によって逃れることができただけでなく、彼には多くの恩義があった。そうして、ある一つの密命を、クロコダイルに最後に託されていた男でもあった。

かつて雇い主だった男の救出、あるいは殺害。それが彼がその身に帯びた使命であった。

王宮に侵入したはいいが、彼は目指す男がどこにいるか、その所在を掴むことが出来なかった。そこで耳にしたのが、トンタッタ族の噂話であった。彼には、それが何であるかはっきりと分かった。真っ直ぐにそれが目撃された廊下に向かうと、城内の混乱をよそに不気味なほど静まり返った廊下に、彷徨う砂を見た。今にも風に吹かれて散り散りになってしまいそうな頼りない砂は、さらさらと廊下を這い、一つの扉の中に消えていった。彼は迷わずその扉を破壊して、中に入った。

そこで彼は、変わり果てたかつての主人との、二年ぶりの再会を果たした。一度は死んだと思われた男の生存の一報を聞いた時は歓喜したが、半死半生の状態で虜囚の辱めを受けている噂を耳にして、彼は主人を救うために血の滲むような努力をしたのだ。だから、ひどい有様であろうことは、覚悟はしていた。

しかし想像する事と実際目の当たりにする事は訳が違う。堂々たる体躯は見る影もなく痩せこけて、強い光を放っていた双眸は死人と見紛うばかりに濁りに濁り、装飾ばかりは美しい部屋の真ん中の豪奢なベッドの上に、物言わぬ肉人形として横たわっていた。誇り高い男の身に降りかかった恐ろしい運命に、かつての部下は涙した。

思わずベッドに駆け寄って、その冷たい身体に縋り付くと、茫洋と彷徨っていた視線が、彼の顔の上にゆっくりと落ちた。のろのろと、数度の瞬きののち、濁り切った瞳に僅かな光が宿った。夢か誠か、救いの手が訪れたことを、未だ信じられなかったのだろう。昼夜も分からぬ地下室で永遠とも思える責め苦に精神をすり減らした男は、幻覚の内に救いの姿を見たこともあったろう。それでも声を聞き、頬に触れた手の硬い感触と、外の塵芥と血の匂いを感じ取った時、それが現実であることをようやく実感した。屍同然の顔から、僅かな憂いが消え去り、乾いた男はこの時初めて、この忠実な部下の目の前で涙をほんの一筋流した。

言葉は要らなかった。それが全てであった。

◆愛憎地獄顛末記

忠実な部下と再会した哀れな虜囚がどうなったか、戦時の混乱によって、その正確な最後は分からない。

ただここに、変わり果てたかつての英雄を奇跡的に収めることが出来た画像がある。この写真一枚で、これまで長々と綴ってきた文章の何万字よりもなお、語りかけてくるものがあるだろう。こちらに背を向けて呆然と座り込む坊主頭の人物は、前章で述べた忠義の男である。その肩越しにうっすら目を閉じて横たわる影こそが、かつて二十年余王下七武海を勤め上げた堕ちた砂漠の英雄、サー・クロコダイル最期の姿である。薄暗く、不明瞭なこの画像でも、その顔を真横に走る傷跡は間違えようがない。写真の課題にしては落第ものだが、歴史の証人としては、これほど価値のあるものはない。

この写真がどうやって撮られたのか、詳細は分からない。これは、死体で発見された記者の手にしっかりと握られていたカメラから現像された写真なのだ。

さて、ここまでお付き合いいただいた読者諸君は、この複雑怪奇な元王下七武海の悪漢同士の愛憎劇を、どうお思いになられたであろうか。ここに語られた三文小説よりもおぞましき異常な一篇の物語は、全て現実に起こった事件である。

現実は小説よりも奇なりとは、全くよく言ったものである。




Report Page