『接待 緋色の研究(総記の階)』

『接待 緋色の研究(総記の階)』

Part17 - 146

シャーロック「ほう……黒い沈黙の片割れか。知らせが途絶えた故、どこかで怨みを買いすぎて野垂れ死んだと思っていたが」

ローラン「期待に添えず申し訳ありませんね。こうして生きてるよ」

シャーロック「果たしてそうかな。苦痛にしがみついてへらへらと笑い面を被りながら憎悪を煮詰めるような時間を"生きている"と呼称するのは、私としては滑稽だと言わざる得ないのだがね、ローラン」

ローラン「……昔と変わらず誰かに逢えば遠慮なく隠し事を掘り返してくるな、オバサン」

シャーロック「そういう性分だ。だが昔よりは多少は良くなったと自負はできる。そして此処でお前の下らない茶番劇を白日の元にさらけ出すことも出来はするが……」

ローラン「………………」

シャーロック「おお、怖い、怖い。狂えるオルランド、沈黙を貫く黒い鬼。私はお前のことが嫌いじゃない。最も都市の苦痛を憎みながらも、その苦痛と常に共にあり、そして苦痛を愛する男」

ローラン「話が長いんだよクソババア……そして、実際に見たわけでもない分際で訳知り顔でべらべらべらべた口を開くんじゃない……虫酸が走る……!」

シャーロック「ローラン、実際に見たかどうかはさして重要な要素ではないんだよ。大事なのは本質と全体像を俯瞰し、理解することだ。当事者であっても理解できない時間と物体は数多く存在する」

ローラン「俺が何を理解していないって?」

シャーロック「お前が自分勝手な意志で歩みを止めることが出来ない等という痛々しい勘違いをしていることさ。ローラン、人は何時だって歩く道を変えることができる」

ローラン「ふざけるな……そんな勝手なこと……できる筈が……」

シャーロック「それが人だよ、ローラン……お前がアンジェリカを愛すると決めた時のように……アンジェリカがお前を愛すると決めた時のように……人間とは、身勝手な生き物なのだから」

ローラン「………………いい加減その達者な口を縫い合わせてやるよ、三流探偵」

シャーロック「よろしい、では推理を始めよう、友よ」

(E.G.O.を展開する緋色の研究)



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