『接待 灰の傷痕(総記の階)』
Part18 - 43-73ソロモン「…………………」
ローラン「…………………」
ソロモン「……最後に会ったのは
お前とアンジェリカの結婚式の時だったか。……随分と酷い顔をしている」
ローラン「別に……いつも通りの顔だが?」
ソロモン「自分の感情を取り繕うのはお前の得意技の一つだ。だが何事にも限度というものはある。此処の連中はいざ知らず……幸せだった頃のお前を見ている俺からすると、お前の表情は、一言で言えば最悪だ」
ローラン「……だったらなんだ?今更上から目線の説教を真に受けるような立場じゃないぞ、俺は」
ソロモン「前にも言ったが、別に説教しているつもりはない。……大方ろくでもない事を企んでいるんだろう。そして……随分と馴染んでいる様子からして、仕掛人はイオリか」
ローラン「…………」
ソロモン「あの女は本当に……はぁ、まあ、いい。俺はどうこう言える立場ではないしな。だが今お前がやっている事に関しては、個人的に酷く気に入らない」
ローラン「………………めろ」
ソロモン「お前からアンジェリカを奪ったのはピアニストであり、ねじれであり、白夜と黒昼であり、"彼女"であり……それはこの都市で永劫の如く回帰し続けている苦痛の輪廻そのものだ。ローラン、お前はその苦痛の為に、顔見知りも、友人も、全てを投げ出し、捧げて、手にかけてまでソレを成し遂げたいのか?」
ローラン「……やめろ…………」
ソロモン「……(深い溜め息)…………苦痛を手放せば、自分に何も残らないとでも思ったか。先人として助言するが……痛みの源を潰した所で、身体に染み付いたものは消えない。命が無くなるまでそれはお前を蝕み続ける。痛みを癒さない限り、な」
ローラン「やめろ!!!!」
ローランが耐えきれずにソロモンへと斬りかかる。E.G.O.すら展開しないまま、ソロモンは一振りの剣を使い、それを児戯の如くいなした。
「アンジェリカは……俺の全てだったんだ……」
震える声を吐き出しながらローランは絶え間なく手袋から取り出した武器を持ち替えながら怒涛の攻撃を行う。
然れどソロモンにそれが届くことがない。冷静な時ならばいざ知らず、感情に狂った男の攻撃が届く程彼は甘い存在ではない。
「あの日からずっと……身体から何もかも抜け落ちるような感覚が……血と肉が詰まっただけの袋になって行くような虚脱感が……!」
一度大きく後退したローランは素早く取り出した銃を構え、乱雑に、しかし正確に狙いを定めて引き金を引く。
ソロモンは一歩も動かずに弾丸を叩き落とし、背後に音もなく回り込んだローランの腹を蹴りつけて吹き飛ばす。
だが、その手に握る剣が落とされることはなく、むしろ血が滲むほどに強く握り込まれていった。
痛みを、骨髄まで染み渡らせるように。
「喉の奥から這い出てくる焼けるような痛みが……!俺に止まるなって叫び続けてるんだよ…………!!」
「それを止めることが出来るのはお前自身の意思だけだ、ローラン」
「わかったような口を利くのはやめろ───!!!!」
狂えるオルランドは叫び続ける。自らの意思で角笛を吹き鳴らすまで。
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ソロモン「気は晴れたか?ローラン」
ローラン「ッ………………!」
ソロモン「……まだ中身は吐き足りないか。手のかかる奴だ」
アンジェラ「ローラン……さっきの話は……」
ローラン「……ああ、聞いた通りだよ。俺がこの図書館に来たのは偶然なんかじゃない。俺が今まで築き上げた全てを賭けた博打だった」
アンジェラ「そして、失敗した。貴方は私をいいように利用しようとしていた……私に協力する振りをして」
ローラン「まさか俺が純粋な善意でお前を手伝ってるとでも思っていたのか?それこそお花畑みたいな発想だな、アンジェラ」
アンジェラ「それは……」
ローラン「それに、此処までたどり着くのに全身全霊でお前を手助けしたのは紛れもない事実だ。お前はお前の目的に為に、俺は俺の目的のために……互いに利用し合った訳だ」
アンジェラ「それで、結果は?」
ローラン「…………アンタが現れなければ十分だと言えたんだがな、ソロモン……このクソジジイが……!」
ソロモン「……肩慣らしでこの図書館に攻め込んだのは嘘じゃない。が、つい数日前アストルフォとカンヴァスから『機会があったら一発いいやつを叩き込んでくれ』と頼まれてな」
ローラン「さぞ高い依頼料なんだろうな?」
ソロモン「今度焼き肉とマッコリを一杯奢ってもらうのが報酬だ」
ローラン「……そうかよ……ははっ、そんな……そんなもので……俺の……!!」
ソロモン「今のお前の顔を殴れと言われれば飴玉一つでも引き受けるだろう、ローラン」
(遠方より届く破壊の音)
アンジェラ「……今度は何?」
ソロモン「……アルガリア、残響楽団、そして……アンジェリカの人形か。人形師風情が……」
ローラン「!!!」
アンジェラ「……ローラン、今は」
ローラン「…………………続きは後だ。今は、アルガリアを止める」
アンジェラ「……。わかったわ。───貴方はどうするの?」
ソロモン「そうだな……これも何かの縁だ。必要であれば呼ぶといい。少しだけ手を貸してやろう」
アンジェラ「ええ……心強いわ」
【残響楽団戦において"灰の傷痕"が一時的に使用可能になりました】