探し物をする男

探し物をする男


これまでの探索で味を占めたらしいヨルは、次の探索をアサに急かしてくる。とはいえ電ノコ男はごく最近広まった噂の為、目撃談の数は指の数に収まる程度。また、中には結構な遠出が必要になる場所もあり、アサは近場から潰していく事にした。

アサ達が向かったのは、高台の住宅街の中にあるO交差点。

ーーO交差点で探し物をしている男に声をかけられても、返事をしてはならない。彼は自分を轢いたドライバーを探しており、返事をするとついてくるそうだ。

バス停で降りたアサの耳に、耳障りな電動音がぶつけられた。主導権を得たヨルが、霊園の時と同じように始まった頭痛に苛まれながら周囲を窺うと、向かいの歩道に面した建物、屋上の縁に電動鋸の怪物が座っていた。

ヨル以外にも、付近を歩いていた通行人が電ノコ男を目撃。呆気に取られた者、ハンターを呼ぼうとする者様々いたが、ヨルと同じように頭痛に襲われている者はいない。

「これで…2回目か……」

電ノコ男が建物の屋上を飛び渡り姿を消すと、ヨルの頭痛は治った。

まだ頭は重かったが、じきに不調を感じなくなるだろう。ヨルが目的地に近づいていくと、数名の男達に呼び止められた。悪魔の駆除依頼を受けた民間のハンターである。

問答するのも煩わしいので、ヨルは迂回ルートを探す事にする。彼等のそばを離れようとしたヨルの耳に、アスファルトを強く擦る音が飛び込んできた。見ると真紅の外国車が、通行人を手当たり次第に襲いながら暴走していた。

「自動車の悪魔か……!?」

正体はどうあれ、危険には違いない。

ヨルは暴走車が遠くの通行人を跳ねているうちに、この場から逃げる事にした。幸い、暴走車はヨルを狙っているわけではなかった為、苦労せず逃げ切ることができた。

ヨルと入れ替わりで、先程の民間ハンター達が暴走車に向かっていく。しかし、高速走行する重量の塊に彼等は苦戦を強いられる。一人が猛烈な吹雪を呼ぶも、耐久性に優れたボディとエンジンで生み出した熱で吹雪を耐え抜いた車は、体当たりで悪魔を呼んだハンターを轢殺した。

程なくして依頼を受けた最後の一人が、仲間達と同じ運命を辿った。ハンター達を返り討ちにした暴走車は道行く通行人を轢きながら大通りを目指す。

手押し車を押す老婦が宙を舞い、衝突された若いカップルがコンビニの店内に突っ込む。暴走車は追撃を加えるべく、一度店内に突っ込んだ頭を抜き、車道まで後退。その姿は加速をつけようとする闘牛のようだ。

その時、公安の制服を着た男が店内に現れて、ショーウィンドウに出来た穴からカップルを連れ出した。

特異4課の早川アキである。その顔を覆っている仮面は隠蔽され、見かけだけは人間だった頃に戻っている。

アキは拾った2人を店の外に降ろすと、暴走車との戦端を開いた。やや離れた位置に、小柄な体格の中性的な人物も立っている。頭上には光輪を、背中に翼を備える彼は人間ではなく悪魔だ。

通りに面したビルで勤務する男が、戦いの模様を眺めている。その視界で、アキの姿が霞のように消えた。直後に金属同士の衝突音が響く。抜き身の刀で車のボディに斬り掛かったのである。

大上段から斬り下ろし、車体とのすれ違いざま、アキは袈裟懸けに斬り上げる。天使武器でなかったらこの時点で刀は折れていただろう。

「15年使用」

アキに柄の長い戦斧が投げ渡される。

「車なら、そっちの方がいいよ」

「そうだな…助かった!」

アキのバディである天使の悪魔が生み出した武器である。アキは人外の健脚で距離を詰め、受け取った戦斧を暴走車に叩きつける。突風の如き勢いで振るわれたそれは、暴走車の左フロントに大きな裂け目を作った。



戦果:なし。

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