指揮剣の真実について

指揮剣の真実について


【報告書】

【レウネシア神国■■にて、枢機卿第5席フォマ・イルギノーツの指示により、『■■■■』にて観測された会話記録。】


夜想誘爆:……報告は以上ですぅ。


男:そうか。ご苦労だったな。


夜想誘爆:『神の奇跡』を見たのははじめてですねぇ。あれは女神様のものですかぁ? 『それとも』…


男:どちらにせよ万物は全て主の恩恵を受けているということだ。その事を自覚していないにせよな。


(5秒の沈黙)



男:それにしても…紅い月の信奉者の『成り代わり』か。


夜想誘爆:あれは成り代わりというか……もはや乗っ取っていると言ってもいいと思いますがねぇ。


(一瞬の間をおいて)


夜想誘爆:……しかしぃ。そんな技術まで持ち出してくるなんてぇ…一体どこから……


男:他者そのものを乗っ取る術などいくらでもあるだろう。


夜想誘爆:ですがぁ、その肉体の一生分乗っ取れる術なんて数えられるものしかありませんよぉ?しかも乗っ取られているのレウネシア教徒ですぅ。信奉者なんかに簡単に自らの肉体を乗っ取らせるなど考えられないというかぁ。


男:信仰心が欠けらも無いそなたがよく言ったものだ。それに、それに疑問を持つ必要はあまりないだろう。


夜想誘爆:なにか思い当たることがぁ?


男:そなたの目の前にはいるだろう? 器の人生事、他者の体を乗っ取っている『実例』が。



(再び一瞬の沈黙。)

 


夜想誘爆:……まさかとは言いますがぁ。


男:『神威伝承』。それと、似たようなものが使われている可能性が高いだろうな。


夜想誘爆:だとしたらぁ、今こうしている場にも信奉者がいる可能性があることになりますがぁ。


男:そうならないためにも騎士団と暗部組織があるのだろう。


夜想誘爆:……親愛なる隣人まで疑う必要がある時代が来ると思いましたねぇ。


男:その時代はすぐ迎えることになるだろな。そなたらの働き次第によっては。


夜想誘爆:善処しましょうかぁ。






夜想誘爆:……一つだけ質問をしていいですかぁ?


男:問いの内容によるな。


夜想誘爆:〈指揮剣〉……いえ、〈朝風の聖女〉についてですぅ。


男:何か疑問が?


夜想誘爆:何故聖女扱いをしなかったか、ということですねぇ。



(再び数秒の沈黙。)



夜想誘爆:あなたにとっては癪でしょうがぁ……歴代の中でもあれはトップクラスの才を持つ聖女だった……らしいでは無いですかぁ。そんな聖女が2人いるとなれば、信徒の信仰心を増加させるのに大分役に立つと思うのですがぁ。だ、というのにぃ……何故暗部に沈めその存在を闇に葬ったのですかぁ?


男:…………ふむ。



(考え込むような数秒の沈黙)



男:〈吹雪の再誕者〉……幻想楽団第2幕は、『女神レウネシア』では無い別の神の聖女の因子を後付けしたものだというのは知っているか?


夜想誘爆:薄々察してはいましたよぉ。何せ教義では『神は唯一神』ではありませんしぃ。それに何より、2つ名に『風という文字が入っていない』時点で異質だと思ってましたからねぇ。


男:やつの属性は『氷』と『風』だ。風の加護も受けているからこそ、聖女として扱っても問題は無い。そもそも聖女というのは後の時代の変化で生まれた『加護を色濃く受け継ぐ』ものだ。我らが主が女性であるからこそ、信仰を集めるシンボルとして『都合が良かった』から生まれたものに過ぎない…ということは何度か話したか?


夜想誘爆:えぇ。聖女嫌いのあなたから無駄に何度も聞きましたねぇ。


男:嫌いなのではなく憂いているのだ。『シンボル』でしかない代用品に信仰が集まってしまうこと……そして何よりも、〈想いの怪物〉を生み出した『背反者』のような者が再び生まれる可能性があるだろう?


夜想誘爆:ああ、納得しましたぁ。それで後世に生まれた罪人の血を引いてしまった聖女……『懸念点』がある存在を聖女扱いせずに闇に葬ったとぉ。


男:いや、それはまた別の理由だ。それに、遺伝子学上で言えば、〈朝風の聖女〉と〈夜風の聖女〉は『異父姉妹』ではない。父親が罪人として処刑されたことに嘘は無いがな。


夜想誘爆:……はぁ? 何を言って……


男:〈夜風の聖女〉の父親は神殿騎士の当時の騎士団長であった。その男は熱心な教徒だった。また、神殿騎士の中でも強い正義感を有していた。


夜想誘爆:だから何を


男:その男は、神教圏に潜伏していた『紅い月の信奉者』のテロから民を守り戦死したのだ。ちょうど〈夜風の聖女〉…指揮剣の姉が物心つく前にな。だからこそ、〈夜風の聖女〉は父親の顔を知らずに育った。


夜想誘爆:……いえ、ちょっと待ってくださいぃ。計算が合いません。仮に本当に親が同じと言うのならぁ……コンダクターが産まれる前2亡くなったというのは流石におかしいのではぁ?〈朝風の聖女〉 である指揮剣が産まれた時、〈夜風の聖女〉は既に聖女として人々に教義を布教し、多くの信仰を集めるほどになっていたと……


男:〈朝風の聖女〉は他の聖女とは違う。そこが答えだ。


夜想誘爆:……は? 違いですか……違いなんて……得意とする属性が『光』だとしか……



(そこまで言葉にしたところで、夜想誘爆はハッとしたかのように義手の右手のひらを口に当てる。)



夜想誘爆:”何故、冒険者ギルドに『聖女』としての才能を有しているものが、『ただの信徒という扱い』で冒険者へ紛れることができた?”


男:そうだ。聖女程の加護を持つのならば、風属性の適性を示すはずだろう? しかし、〈朝風の聖女〉……否、『聖女になれなかった女』は『風属性』を扱うことが出来ない。アレは風を操る才能を有していない。そ


夜想誘爆:聖女クラスの才能を持つという条件下でありながら、風の加護を扱えない……そして、〈夜風の聖女〉が物心つく前に亡くしたはずなのに『父親は同じ』……まさか!?



男:そう。〈朝風の聖女〉の父親は……指揮剣が生まれる前に『奇跡的な生還』を果たしたとされる、『さ紅い月の信奉者に乗っ取られた騎士団長なのだ。歴代最高クラスとして生まれるはずだった『大願を成すための道具』には……



(再びの沈黙。しかし、男の目には今日初めて、怒りが感じられた。)




男:おぞましきモノが混ざってしまったのだ。



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