拝啓、
空座町
カワキは朝から通学路を逆行して、自宅へ向かう道を歩いていた。
昨日から働き通しの体に陽光が染みる。
『一護は今頃学校かな……』
死神達が尸魂界へ帰還し、カワキは一護と二人、井上の部屋に残された。
一護には虚圏へ行く手段が無く、今日はひとまず登校することにしたようだ。
⦅この状況で一護が頼るなら……浦原商店が有力かな。浦原さんなら、何かしら通行手段を有していても不思議じゃない⦆
カワキはそう予想しながら、自宅の扉を開いた。
カーテンの閉まった暗い部屋で、ソファに身体を沈めて瞼を下ろす。
⦅昨日のことは尸魂界に報告が入ってる筈だ……面倒だけど私からも報告を上げないとハッシュヴァルトが煩い……⦆
報告と説教、二つの面倒を秤に掛けて、カワキは渋々ながら報告することにした。
気怠げに身体を起こしてガサガサと煙草を取り出すと火を点ける。
――問題は報告手段だな。
『一護のことだから今夜にでも浦原商店を訪ねる筈……帰還は無しだ。連絡役が来るのは今日じゃないし……』
残る選択肢は通信か書面だ。
カワキはふぅと煙を吐き出し、立ち昇る煙をぼんやりと眺めながら考える。
⦅通信――…次はハッシュヴァルトに繋ぐなと言っても効果が無いかもしれない。今は長話を聞きたい気分じゃない……いや⦆
――よく考えると、ハッシュヴァルトの説教が聞きたい時なんて無いな……。
煙と一緒に憂鬱そうな溜息が漏れる。
『……紙にしよう』
紙なら通信とは違って時間差がある分、ハッシュヴァルトに言いたいことがあったとしても、すぐに返信は来ないだろう。
カワキは打算から筆を取ることを選び、適当なペンと紙を机に並べる。
『――さて、何から書くか……』
カワキはペンを片手に紫煙をくゆらせ、ハッシュヴァルトの言葉を思い出す。
――「今後はお前の状態も逐一報告しろ」
――「交戦や負傷は伝えるべきことだ」
正式なものではなく、ハッシュヴァルトの個人的な要請に従っての報告なのだから形式は手紙でいいだろう。
交戦と負傷……昨日からの出来事を思い返し、カワキは口元に手をやって考えた。
あれは交戦という程のものだったか?
『まあ良い。書くだけ書いておけば言い訳も立つというものだ。……あぁ、そうだ、ついでに虚圏行きの話も伝えておくか』
煙草の匂いが薄く煙る部屋にカリカリと文字を書き綴るか細い音が響く。
「ハッシュヴァルトへ
昨日、断界内で十刃と思しき破面と遭遇した。破面は超速再生で負傷を回復、黒崎一護と死神を人質に投降を要求。
破面の目的は井上織姫を虚圏に連行することで、私は12時間後に解放された。
その件で山本重國に裏切りを疑われたが無事に解決済。経過観察はそちらで頼む。
私に負傷は無い。報告は以上。
追伸
黒崎一護が井上織姫の救出を目的に虚圏へ向かおうとしている。私も同行する。
現状では通行手段、出発日時ともに未定だが浦原喜助が用意している筈だ。
志島カワキ」
書き上がった手紙を封筒に入れて、ふとカワキは思った。
『まだ日が高い……今から手紙を出すのはまずいか……?』
出発は未定だが、一護が登校中の昼間ではないことは確かだ。
日が沈むまでまだ時間がある。今、手紙を出しては手元の端末にハッシュヴァルトから連絡が入るかもしれない。
『……仮眠の時間くらいは確保したいな』
カワキは昨日から動き続けている。
これしきで根を上げる程、やわな鍛え方はしていないが、不要な説教を受ける暇があるなら仮眠をとりたい。
『あぁ、その前に……武器の補充と装備の点検、あとは虚圏の情報も確認して……』
カワキは封をした手紙を机に放り投げて立ち上がるとタスクを数えた。
銀筒やゼーレシュナイダーが保管された部屋に向かうと、一度に持てる限界の量を取り出して並べておく。
『点検と情報の確認は仮眠後にするか』
カワキは休息の重要性を理解している。休める時に休むことは大切だ。
――本当なら都合の悪いことは全て解決してから報告しようと思っていたんだ。
――手紙を出すのは最後で良い。
カワキは心の中でそう考えると、手紙のことは頭の片隅に追いやって、酒を取りに向かった。
寝酒には時間がずれているが、酒は百薬の長、何時に飲んでも身体に良いのだ。
事前に準備することは山程ある。休息も戦支度も、手早く済ませなければ。
⦅藍染に破面か……。――誰が相手でも、私がやるべきことは変わらない。更なる力を手に入れる為、気を引き締めていこう⦆
***
カワキ…成績がアレなのに、このままでは出席日数まで大変なことになってしまう。手紙は書いたけど出すのはギリギリにすることで怒られを避ける姑息な手段に出た。
一護…今頃は学校で友達を突き放して危険から遠ざけようと頑張ってる頃合い。なお魂胆はバレバレなので、出発時に浦原商店に皆集まってきてしまう人望がある男。