手練手管

手練手管


 よく入るよなとしみじみしてしまう。

 形がよくて引き締まっている尻を触りながら、考えるのは人体の神秘だ。

 大仰なことのように思えるがなんてことはない。セックスしている相手の華奢さに慄いているだけである。

 例えばおれの片手だけでまとめて握れてしまう両の手首とか、内臓が揃っているのか心配になるくびれた腰とか、いつもおれの性器を受け入れてくれる薄い尻とか。おれと全くつくりの違う繊細な体に良くも悪くもドキドキしてしまう。

 今まで抱いてきた誰よりも華奢というわけではない。ただ壊したくないと心から思っている相手なので、誰にしたときよりも手付きが慎重になってしまう。トラファルガー・ローの体に触れるというのはそれだけおれにとって特別なことだった。

「んむ、っは、あっあっ、ぃあっ」

 喘ぐ声が聞きたくて両手首をシーツに縫い付けたのに、まだどこか控えめさが残っている。潤んだ肉をかき分けて、猛りきった性器をねじ込んだばかりなので我慢できるのも今のうちだ。もう少ししたらたっぷり喘がせてやろうと決めてキスを一つ。

 組み敷いたローの肢体に覚えさせたいのは快楽だけだ。

 ひたすらに気持ちよくなって欲しい。指先に口付けながら揺らしてやるから、キスするときに耳の後ろを優しく撫でてやるから、こっちをずっと向いていて欲しい。

 かつて仕事で仕込まれた他人の体を懐柔する方法を惜しみなく使って、無垢な体を籠絡していくのだ。他人の手垢が全くついていないその体に、おれの妙手を刻み込む。

 いつかどこかでおれ以外の誰かに体を許す日が来たとして、そいつのことを下手くそだと嘲笑ってしまうようにと教え込んでいるのだ。

 我ながらいい性格をしている、と理性が囁いても独占欲は止められそうになかった。

「ふぁ……ぁ、んぁっ!あ、やっ、あっあ、」

 引き抜いては奥を擦るのを繰り返す。その度に絡みついては迎え入れる肉の熱さに、目眩にも似た心地を覚える。ぐんと性器が硬さを増しても感じ入ったような声を上げるのだからたまらない。

 女性の体は感情に引っ張られやすい。拙い触り方でも、好いた相手からのものであればそれなりに感じてしまう。厄介なようでいて、好感を持たせてしまえばあっさり陥落するのでそのあたりは何かと都合が良かった。

 今目の前でとろっとろに蕩けておれのために拓かれたローの体は、心底おれが好きなのだと教えてくれるからだ。

「ね、っは、コラさぁ……」

「ん?」

 キスのおねだりだろうかと身を屈める。甘ったるく愛してやるとすぐにぐずぐずになってしまうのがたまらなく可愛い。愛して欲しいと全身で乞う姿をこの先誰にも渡したくなかった。はふはふと、息も絶え絶えに囁かれる。

「考えごと?ね、ダメよ。私とえっちしてるんだから」

 前言撤回。とんでもない魔性かもしれない。どろどろに甘やかしているつもりだったのに、ローはきちんとおれを洞察していた。気持ちよくして、甘やかして、どこにもいかないように束縛したいという気持ちが強いあまり、どこか俯瞰で行為に及んでいたのを見抜かれた。

 おねだりではなかったがキスをして、小さな口を蹂躙する。腰をぐりぐり揺らして胎内もいじめてやれば、軽く絶頂に至ったようで小さな悲鳴が口内に響いた。

「お前のこと考えてた」

 こんなの閨事では常套句だ。でも他に男を知らないローは嬉しそうに顔をふにゃふにゃにして笑う。今は安心して大きく甘い息を零したけれど、こうやって上手く誤魔化せない日が来るのも近いかもしれないと、華奢な腰に腕を回す。角度が変わっていい部分に当たったせいで、締め付けが増した。

「あっ!あ、あっ、っう……ぃ、きちゃ、きちゃうっ……!」

「っう……」

 この先容易く誤魔化せなくなっても、魔性が本領を発揮しても、この体を誰より気持ちよく出来るのはおれだときっちり教えておこう。

「愛してる」

 ダメ押しのように愛を伝えると、おれしか知らない華奢な体はすんなりと絶頂を迎えた。


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