我慢できないのはお互い様
「もうやだぁ……あくあくんなんてゆるさなぃ……もうえっちしてあげないんだからぁ……!」
恋人がとんでもない性豪と知ってからだいぶ経った頃。
自分自身の知らないところまで暴かれて、徹底的に気持ち良さに弱くされて。肌を重ねる度に、何回も何回も、何時間も何時間も、身体を滅茶苦茶にされて、こちらの意識が朦朧とするまで果てさせられ続けていて。色んな意味で、心と身体がもう限界になって、朦朧とした頭で、子供みたいに上手く回らない舌でそんな事を言った。
そして次の日。
ふたり揃ってオフの日は、まだ日が高い内から交わったりもするけれど今日は絶対、誘われても乗ってやらないぞ、と強く心に刻んでいると。
「ん」
「ん、ぅ…………?」
不意に、アクア君が唇を奪ってきた。
「………………しないったらしない、からね」
「わかってるさ」
なんて事を言いながら、また口を塞がれる。触れるだけのキスを、2回、3回と繰り返される。柔らかい感触に思わずうっとりとしそうになるけれど、直ぐに絆されちゃダメだと思い直す。
「こんなのされたって、許すつもりないけんだけど」
「別に、そんなつまりは……ねえよ?」
「そんなつもりありそうな感じだけど?」
「冗談。でもキスするだけならいいだろ?」
「まあ、いい、けど…………ふ、ぅ」
軽口を挟みながら、4回、5回と重ねられる。ほわりと胸に浮かぶ幸福感についつい浸りそうになる。我慢我慢。今日ばっかりは許してあげないんだから。
*****
「ん、ふぁ……ねぇ、アクア、くん……」
「ん……どうかしたか?」
「いや、ちょっと、キスしすぎ……」
今のでもう、20回目くらいになる。朝ごはんを作ってる最中とか、ソファで隣に座った時とか、とにかく事あるごとにしてくる。確かにキスするだけなら、と許したけれど、流石にやり過ぎ。
「嫌か?」
「いやじゃ、ない、けど……んぅ……」
ならいいだろ、と言わんばかりにまたキスされる。5秒、10秒、15秒。今度は少し長めのキス。優しく頬を包まれながら、唇を触れ合わせ続けられる。
「ふ、は……ん……む、ぅ……ぅんぅ…………」
時折、ふにふにと唇を食んでくる。淡い快感のようなものが口の先に生まれて、思わず声が漏れてしまう。
「はぁっ」
キスが止んで、ひと呼吸置いた。吐いた息が、とても熱くなっていた。
*****
キスしてるだけ。いつもよりずっとずっと多いけど、キスしてるだけ。なのに、なんでこんなに。
「はぁっ、 はぁっ、あくあ、くん……」
キスはもう、50回は超えてる気がする。何度も何度も啄むようなキスをされて、分単位で長くキスをされて、唇を食べられて、そんな事をずっと繰り返し続けていると、口元に余韻というか、気持ちよさが燻り続けているような、そんな錯覚にも陥る。
「アクアくん、アクアくん」
もう、頭の中がどろどろに蕩けさせられているみたいだった。熱に浮かされてうまく働かない頭で、ついついアクアくんの服にきゅっとしがみつく。
「シないんじゃなかったか?」
小さく笑うような声が上から降ってくる。意地の悪い顔をしたアクアくんを見上げる。自分の目が潤んでいるのが感覚でわかる。
「それとも、その気になった?」
「ひっ、ぁっ、は、ぁ────♡」
ぐっ、と下腹部を強過ぎなぎないくらいの力加減で押された瞬間、胎の奥が大袈裟に跳ねたような気がした。お腹の深いところで、ぐるぐる渦巻いていた、もどかしくて熱い感覚が、私を甘く犯してくる。
「……外から押しただけでも反応するようになってたか」
「はっ、はっ、ぁっ、ぁぁ……♡」
アクアくんにしがみつきながら、大袈裟に身体を震わせる。気持ちいいけど、物足りなくて、もどかしくて、我慢ができなくて。
「おねがぃ、アクアくん……もっと、して?♡」
いやらしく上擦った声で、そんな風におねだりをした。