我儘と愛
※とても短い
冬の凍てつく寒さは嫌いだ。
暑さに対しては我慢の利くクロコダイルだが、寒いのはどうにもダメだった。冷えた指先では普段ほどの力は入らないし、外気に晒された耳の痛さは頭まで響くし、いい事がない。
今日も外は雪がちらついている。
こんな日は、寒さとは無縁の空気で満ちた部屋で温かい飲み物をお供に本を読むのがいい。
しかし、折角暖まった部屋でわざわざ身体を冷やそうとしている人物がいる。
クロコダイルが読んでいた本から視線を外した先で、大の甘い物好きな兄が、今日はアイスを食おうとしていた。白くて薄いモチモチにバニラのアイスが包まれている二つ入りのアレだ。
目の前でそれにピンを刺した兄にクロコダイルは言った。
「それ、一個くれ」
別に美味しそうに見えたからとか、自分も食べたくなったからとかそういう理由じゃない。身体を冷やしたくないから、むしろ要らない。
いつも自分を好き勝手に振り回す兄の困った顔でも拝んでやろうと思っただけの、ただそれだけの悪戯心だった。
それなのに。
「いいよ」
普段なら吊っている兄の目尻は柔らかく下がり、口元は優しく弧を描いている。いつも自分に向けられる笑顔だ。無表情でいる兄しか知らぬ者が見れば二度見するだろう。
迷う素振りも見せない返答だった。
予想外の反応にクロコダイルの眉間には深く皺が刻まれる。
兄のこういうところが嫌いだ。平気な顔をして、いやそれどころか嬉しそうに、己の好きなそれを差し出すなんて。
ご丁寧に口の前までアイスが運ばれてきてしまったので、ほんの冗談のつもりだったそれをクロコダイルは不機嫌そうな顔をして食らった。
「おいしい?」
「……よく知った味だ」
敵わない。何に対してだか、クロコダイルはそう思った。