成り代わり
一ノ瀬は新しい力を手に入れた
九堂は再び仮面ライダーに変身できるようになり、黒鋼も何か行動を起こそうとしている
そんな状況にも関わらず目の前の男は余裕そうだ
自分としては此処から離れたいのに
「どうしたのかな?ミナト先生?」
「何もありませんよ。それより一度アカデミーに…」
「あれ?」
聞こえた方向に顔を向ける
聞き間違いだと願ったがそれは叶わない
彼女だ、もう他人となった大切な人
こちらに気付いた彼女は嬉しそうに此方に駆け寄ると、グリオンの腕にしがみついた
彼は当たり前かのようにそれを受け入れ彼女の髪を撫でる
「凄い偶然。いったいどうしたの?」
「近くで用事があってね」
「そっかぁ…、こちらの方は?」
「仕事仲間のミナト先生だ」
「 初めまして、いつも主人がお世話になっております」
「……っ」
「あの、…もしかしてお会いした事ありましたか?」
「いえ…初めてです」
「逢えたのは嬉しいが…そろそろ職場に戻らないと、帰る時は連絡するよ」
「うん!気を付けてね。では、ミナトさん失礼します」
「……」
立ち尽くすしかなかった
ようやく動けたのは彼女の姿が完全に見えなくなってからだ
「…彼女に、何を」
「君はあの女性が独り身という記憶に改変したようだね」
記憶消去の際、私物の処分と彼女の結婚指輪も回収した
先程の彼女の薬指には別の――金色の指輪がはめられていた
そしてグリオンの薬指にも同じ指輪をしていて目眩がした
「…彼女も独りぼっちだと可哀想だろう?再度改変して既婚者のままにさせてもらったよ」
「相手が…貴方である理由は?」
「見ず知らずの男より顔見知りの方が君も安心だろう…もしかして…知らない相手の方が好みだったか…今からでも適当に充てがおうか?」
「………」
「そんな怖い顔はしないでくれ。もう赤の他人だろう?さぁアカデミーに戻ろう。お人形ちゃん達が待っている」
「……わかりました」
軽率だった
無関係になれば安全だと思っていた
結局生徒達は戦いに身を投じていて、大切な人は敵の手中にいる
自分の行動が裏目に出ている事に嫌気が差し、思わず下唇を噛む
血の味しかしなかった――