慟哭Ⅱ:真紅のブースト(ChapterⅣ)

慟哭Ⅱ:真紅のブースト(ChapterⅣ)

名無しの気ぶり🦊

「女神が動いた…⁉︎」

「何故、このタイミングで…?」


この事態を見ていたのは現場にいるメンバーだけでなく、大勢のオーディエンスも、もちろん光聖とニラムとサマスもだった。皆一様に画面の向こうで起きている奇怪な現象を疑問に思っていた。


『お前の中にはなぁ…世界を創り変える力が眠ってんだよ! ハハハハハッ♪』

『ニラム様! この世界を壊したくない! 私は! 仮面ライダーの皆様を見届けたいッ!!』

(…この奇跡はもしや、ミイルにもあったらしい世界を創り変える力によるもの⁉︎)

そしてニラムにはかつてのある経験からこの現象はなるべくしてなったものではという予測をすぐに建てられた。

プロデューサー就任初期、悲しい別れを遂げた先代ナビゲーターのミエルにそんな力があると、ジーンと二人で葬ったネメルが彼女に言っていたのが漏れ聞こえてきたがゆえによく覚えている。



「…ついにこの時が来たか…!」

「! …トレーナーは知っているのか?」

「ああ」

ゆえに確認しなければならないこともできたため、部屋を後にしなくてはいけなくなった。

共に光聖用のV.I.Pルームにいたドゥラメンテも自らのトレーナーのそのただならぬ反応にこの現象の答えを知っているのではというふうに推察するのは容易かった。


「! どういう意味だ、君は何を知っている⁉︎」

「…失礼」

「ならば私も」

そして光聖もまたそのやり取りに、ニラムがこの事態にも何か心当たりが あると察したからか彼に詰め寄るがニラムはそれに答えず、ドゥラメンテ共々部屋を後にした。


「感動するよ ギーツ。 君の生き様に…」

「浮世トレーナー…貴方、いったい何者なんです…?」

同じくこの現象を自室で観ていたジーンはその美しさに、英寿の行動に感動し、対してデジタルははたして浮世英寿とはいったい何者なのかと改めて思ってしまうのだった。


「……これが俺の求めていた力…!」

(世界を、キタを、皆を守れる力…!!)

飛来した4つのブーストバックルがはそのまま英寿の掲げたブーストバックルと合わさり、新たなバックルことブーストマークⅡバックルが爆誕した。

ある理由から実は偶然ではなく必然なこの力、英寿は確かな手ごたえを初見ながら感じた。


『SET』

「させないっ!」

なのでデザイアドライバーにセットすることも迷わない。ゆえにクラウンの反応は一歩遅れたものとなる。


(遅い!)

「…変身ッ!」

そして唱える、先程よりも明らかに己が勝利を確信したいつもの口上を。

そして起動すれば、ブーストバックルが五つ融合しているからか先程から五つ表示されていた『BOOST』のマークが円を描くように回転しながら英寿を、ギーツを包み込む。


 『BOOST MARKⅡ』

そのままプロテクターがギーツに装着され変身完了。

その名は仮面ライダーギーツブーストフォームマークⅡ。

黒地にプロテクターが全身赤の新たなギーツがここに誕生、その姿はフィーバーブーストフォームをさらに進化させたような勇壮さに満ちていた。


「真紅の…ブーストフォーム⁉︎」

「お前は…⁉︎」


クラウンと道長は火のように真紅のその姿に驚きに打たれていた。道長に至っては分かりきったはずのその名を改めて問うてしまう。


──────仮面ライダーギーツ、その言葉を…お前は信じるか?」」」」」

「ぁ…信じて、ます…ずっと…!」

それにご丁寧に英寿は質問で返してみせた。

それに答えたのはキタサン、その姿に今回はもう大丈夫だと、いつものトレーナーが帰ってきたと安心できたから。


「5人の浮世トレーナー…?」


ブーストバックルの数に合わせるように重なった五つの英寿の声にまさか五人の英寿が融合しているのかとあらぬ妄想をクラウンはしてしまう。先の奇跡を引き起こしたことを思えばその程度の妄想、あり得てもおかしくないと思えていた。


「…ふっ♪」

 『READY FIGHT』


キタサンの返答に勇気をブーストしてもらえたのか、いつもの自分のようにどこか自信と余裕に満ちた嬉しそうな小言をマスク越しに英寿は溢す。


「ッ──────!

しかし直後に響いた戦闘開始の合図をきっかけに雰囲気が極めて冷静なそれに切り替わる。 

そして、道長達にゆっくりと向かっていく


「ぐぇあッ⁉︎」

「哎呀(アグ)っ⁉︎」

「づゥッ⁉︎」

「ぐぇあッ⁉︎」

「づゥッ⁉︎」

「哎呀(アイヤー)っ……えっ⁉︎」


──────次の瞬間、超加速。

質量のある残像で道長に突っ込みそのまま殴り飛ばし、次いでナイトジャマトを叩き伏せる。

ただクラウンに対する敵意は無いからか、彼女のレイズライザーを遠くに放り投げ彼女自身は壁に軽く、力を入れれば解ける程度のキツさで近くにあった土管に縛り付けておくに留めた。

おかげで何かされると思っていた彼女はただ混乱していた。

そしてこの間実に数秒。

この世界に存在するライダーであるファイズのアクセルフォームやマスクドライダー達のクロックアップほどではないが、まるで身動きが取れないレベルの速度で幾つものアクションをこなしてみせた。



「づあっ!!??」

「なんて早い…そして容赦ないの…!」

そのままナイトを掴んで建物の上に飛び乗ると同時に壁に叩きつけ、落下したところをそのままストンピング。その間実に数秒、あまりに早い間でナイトをボコボコにしたその強さにクラウンはまあ目を見張っていた。


『V BUCKLE』


そして懐から取り出しセットしたのはVバックルレイズバックル、どやグラ時のそれを英寿もまだ所持していた。

形状的にブーストマークⅡの反対側にセットできるレイズバックルは小型かレジェンドのバックルに限られる。マークⅡを手にした瞬間即座にそれを理解した英寿は、同時にこのバックルが手元にあったのを思い出したのである。


『REVOLVE ON』

『DUAL ON』

『BOOST』

『READY FIGHT』


そのままリボルブオン。

アーマーの形状どころか全身の形状ががらりとブーストライカー動物態のそれに変わったがカラーリングは変わらず赤と黒、ギーツ龍騎ブーストフォームビーストモードが四足でそこに立っていた。


──────コャーーーーーンッ!!!!!」

「うわああッ!!??」

一声甲高く響かせたかと思えば、次の瞬間にはナイトを後ろ足で蹴り飛ばした。

人間やウマ娘やキツネ、一部哺乳類に代表される生き物は殴るより蹴るほうが高い威力を叩き出せるなんてたまに言われたりもするが、それをしっかりと再現してあるのか恐らく人型で蹴り込むより高いと言い切れるだろうぐらいの威力がナイトに炸裂していた。


「ジャ⁉︎」「ジィャ⁉︎」「ジャア⁉︎」「ジャッ⁉︎」「ジャアッ⁉︎」

これによりナイトを空中高くに打ち上げると、その間に1.6秒で100mを駆けるその俊足で 5つの櫓へ駆け次々破壊していく。各櫓にいたプレイヤーのジャマト達もしっかり撃破していく。


『REVOLVE ON』

『RYUKI BOOST STRIKE』


「あれは…あの日のドラゴン…!」

そして人型に戻ったかと思えばマークⅡのスロットルを前方に回転させ必殺技の待機状態に移る。

そこにはかつてミラーワールドと呼ばれた世界でミラーモンスターというこの世界特有の生物の一種として生まれ、今は主人の帰りを仄かに望むドラグレッダー、その精巧なコピーも召喚されていた。

怪人を除き超常が人知れずありふれているこの現代ゆえにどやグラまで巡り合うことはなかったドラゴンと呼べる形状の生き物との再会にクラウンは思わず低い声を上げていた。

あの日道長が呼び出したのはベノスネーカーと呼ばれる蛇型ミラーモンスター、ドラグレッダーとはぶつかり合う形だった。だからこそその強さは一度ながらよく覚えている。

なので、これからナイトに何が起きるのかも想像に容易かった。


──────ハアアアアッ!!!!!」

「ゴアアアアアアアアッ!!!!!」

マスク部分のブースターが赤々と熱を帯びる。

そのままドラグレッダーを自身の周囲に待機させながらまだ空中に浮いていたナイトに炎の巨大ロケットパンチ4発、次いでトドメとばかりにドラグレッダーと共に突っ込みながら先程よりも威力が向上したパンチを一発。

強烈な一撃、『ブースト龍騎ストライク』を見舞ってやった。


「ぐあああアアアアアアッ!!??」

食らったナイトはそのまま少年漫画みたいな速度で数百m離れたビルの屋上に吹っ飛ばされ勢いよく減り込んだ。それでもギリギリくたばっていないあたり並の耐久力ではなかった。


「ぁ…助けてくれ…! 道長、クラウンさん!」

そしてそのまま下に見えた道長に助けを求める。こんな時は情けなく命乞いをするに限ると刷り込まれていた。


「計算が狂ったな。お前を利用すればギーツを倒せると思ったが…」

「…思ったよりしぶとかったし哀れだけど…今の貴方は自業自得よ」

けれどもナイトが期待していたような答えは返ってくるはずもない。なんせ道長もクラウンもあくまでナイトは利用しているだけの存在としてしか見ていないのだから。



「俺達…親友だろ? それにクラウンさんは道長の担当だろ?」


それでもなお関係性に助けを見いだそうとナイトは必死に呼びかける。


「ああ? ただのバケモンだろ」

「キタサンにあんな余計なことをしておいて馴れ馴れしく助けを求めるなんて…人でなしとしかいいようがないわ」


けれども変わらない、変わるはずがない。

出会って間もないタイミングでナイトがジャマトだということはとっくにバレている。向こうが一向に理解できていなかっただけで。

おまけに全身全霊命からがら極雷を一発防いだキタサンを無粋にも間髪入れず刺し重傷を加速させた。人々を襲うことを好むその性格も含め、人間でなく怪物だと割り切るには材料が揃いすぎていた。


「…透はもう、この世界には いない」

「そうよ、貴方は透さんに擬態したジャマト。本人じゃないんだから…」

何より、道長は透の死を間近に見ている。帰ってくるはずがないとその目で感じている。

ゆえにそれをよく知るクラウン共々、その正体がジャマトであろうとそれ以外の化け物であろうと最初から透は一人だけ、あとは偽物だと割り切れてしまっていたのだから。

そうして二人はそう静かに言うとこの場を後にしたのだった。


「ロエゼラビビテウ(待ちやがれ)…!」

まさか自分の要求が最後まで決して通らないなんて思っておらずショックを受け怒りを抱いたナイトはジャマトとしての姿で消滅していった。


「ッ──────!」


空が晴れていく中、向かってくる鬼に正太は立ち向かう。


「…!」

(やったあ! お母さんの病気が治りますように…)

そして、2人が交錯すると正太の手には鈴が、鬼から奪うことができたようで、感動もそこそこにそのまま鈴を両手で握りしめ母の無事を祈っていた。


その頃かみなりジャマト祭りが無事防がれたことを示すように五つの櫓が一様に崩れ去っていく。英寿の淀みのない攻撃の賜物だった。


「正太…!」

「ぁ…お母さん、ほんとに帰ってきた。お母さんっ!」


「良かったですね」

「ほんとよ、無事で何よりじゃない…っ!」

舞台は再び寺に戻り正太の願いは早くも叶った。彼のもとに正太の母が夫である正太の父に少し支えられて笑顔でやって来たのである。

実は手術を受けてからというもの、日に日に快方に向かっており毎日病院にお見舞いに行けるわけではない正太は知らなかったというわけである。

 お母様、お加減は よろしいんだろうか?

 退院が決まるなら、前日くらいにはショウタ君も聞かされてたろうから、これは願いが叶った・・・と、みるべきか。鬼の鈴を取った ご利益すごい。


「お母さん、この鈴僕がお母さんのために取ったんだよ!」

「ありがとうねえ…!」


そのまま正太は母に駆け寄り、鈴を取った事を報告する。母も頑張ったねと褒めて正太を抱きしめる、父はそれを微笑ましく見守る。

景和やダイヤ、その場にいた誰の目にも仲睦まじく映る一家の姿がそこにはあった。


「つまり保留になっていたかつてのデザ神達四人の願いが同時に叶ったということなのか…それもエースと読める者の願いのみがあのタイミングで…妙だな」

「ああ。ドゥラ、君の疑問は至極真っ当なものだ」

その頃英寿の戦闘場所から少し離れたあるビルの屋上、ニラムが4枚のデザイアカードを手にドゥラメンテとちょっとした疑問について語り合っていた。

というのはこのデザイアカード4枚に記された願いがなぜ急に、それも英寿の咆哮に合わせてブーストバックルとして実現したのかについて。

その願いは、全て『生まれ変わった俺がいつか、世界を守る覚悟を決めた時、それを実現する力』というもの。

書き込んだのは、『エース・リー』『八雲栄守』『Ace Garfield』『A』という人物達。

名前から、どれも『エース』と付いている、あるいはそう読める名前であり、その願いを叶えたのは別な『英寿(エース)』。

英寿がブーストマークⅡを手にしたことを偶然と割り切るには不自然だと思えるような証拠が四つもあったことになる。


「…大丈夫か、キタ?」

「づッ! はい…」

(…でも、トレーナーさんは大丈夫なのかな)

(それにあの奇跡、力…まるで人間業じゃないし、のわりには必然にも思えるような…)


そして似たようなことはキタサンも偶々だが感じていた。間近で見せられた奇跡、そこからの鮮やかで激烈な逆転劇。

相変わらずのスター・オブ・ザ・スターズ・オブ・ザ・スターズっぷりだと言ってしまえばそれまでだが、その奇跡ははたして正しく奇跡なのか、意図されたものなのではないか、ブーストマークⅡという奇跡の体現を使用した英寿の身に何の異常も起きていないのか。

そんな疑問が湧くのも仕方なかった。


──────⁉︎ まさかそんなことがあり得るのか…⁉︎」

「あり得るのやもしれない。英寿、君は世界の理を変えた…。存在するはずのない男だ」

その答えをニラムは思いつきドゥラメンテに話した。当然ドゥラメンテは愕然とした。

それが当たっていた場合はあまりに荒唐無稽なものだし、はたして如何な理屈でそれが成立しているのかという疑問も生まれると思えた。

またその疑問は遠からず解消されるのではとも。


夜に向かうがゆえに翳りを見せるも、それでもなおブーストマークⅡのように赤々と彩られた空が離れた場所にいる四人を、祭りの会場にいる者達を皆一様に明るく照らしていた。

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