慟哭Ⅲ:楽しい戦国ゲーム♡(ChapterⅡ)
名無しの気ぶり🦊「⁉︎ ──────二人とも、来たぞ!」
「やはりね…ニラム様、ジャマトが攻めてきます!」
「やはり来たか…」
本陣に、堂々とした姿で座っているニラム総大将、ドゥラメンテ足軽大将。
正面から見てニラムの左に立つサマスはさしずめ侍大将といった具合だった。
サマスから報告を受けたニラムは箱の中からヴィジョンドライバーを、側で聞いていたドゥラメンテはレイズライザーを懐から取り出し、自分達が戦闘に参加する時もそこまで遠くはないのだろうと感じていた。
「ゔっ⁉︎」
「強い…!」
あれから数分後、どうにかバーサークローが無くなったことによりタイクーン/景和・ラディア/ダイヤ・ナーゴ/祢音・ネーレ/シュヴァルが追いついて、バッファ/道長達の足止めを図るが周りに彷徨くジャマト達が邪魔でそもそも近づけず、なんならダメージを与えられてしまっている始末だった。
さながら戦隊。道長も手強いうえに、ジャマトライダー2体、ビショップジャマト、ルークジャマトの5人相手だから、人数的にも分が悪いのである。
「祢音ちゃぎッ…⁉︎」
「不用说、私だってもちろんいるわよ?」
「クラちゃん…!」
ダイヤとシュヴァルがそれを見れば助けようと思うのが自然だが、クラウンに手こずっている状況ではいかんせんそうもいかず、目の前の戦いに集中するほかなかった。
「奴らも本気みたいだね。 でも…こっちには英寿がいる!」
「ええ、それにいざとなればあたし達も出ますとも!」
こうした状況を先程から陰ながら見守っていれば戦況は緊迫しているとジーンとデジタルの目には映った。けれどもどうにかできると信じていた。そうできるだけの手札はまだこちら側に残されているのは知っていたから。
「──────不埒な物の怪は俺が退散させる」
そう、英寿がいる。
景和達を突破しニラムに迫る多数の忍者ジャマトの前にゆらりふらりと割り込み立ちはだかる。浪人姿が似合いすぎとジーンとデジタルが思える程度には似合っていた。
(ブーストマークⅡと…こないだ異世界に迷い込んだときにゲットしたこいつでやるか)
「何、あのレイズバックル⁉︎」
そのまま懐から取り出したるはブーストマークⅡレイズバックルと…デザイアグランプリ新シーズンが始まる少し前に迷い込んだ異世界で手に入れたレイズバックル、その名もキングオージャーレイズバックル。
『『SET』』
「変身!」
慣れた手つきで手早くセットし変身。
浪人姿ということもあって少し珍しい変身風景となった。
『DUAL ON』
『BOOST MARK Ⅱ』
『SUPER SENTAI』。
五つのブーストが前と同じように円を描きながら英寿に収束し、同時に異世界の聖剣ことオージャカリバーのコピーが英寿の右手に収まる。
ギーツブーストキングオージャーフォームの爆誕である。
──────ふっ!!」
「「ジャアッ⁉︎」」
「クワガタの顎が見えるような…」
高速戦闘で忍者ジャマトを片付けていく、時折一瞬響く金属音が物語るのはギーツ/英寿が素早くオージャカリバーを揮いジャマトを切り捨てているその所作。
『BOOST SUPER SENTAI STRIKE』
「「ジャ……!!??」」
向かってくる2体のジャマトライダーを軽くいなして『ブーストスーパー戦隊ストライク』で叩きのめす。
『REVOLVE ON』
「そらっ!!」
「「ジャアッ⁉︎」」
ビショップジャマトとルークジャマトには、ビーストモードで大立ち回り。容易く振り回して突き砕いてみせる。
「うおッ⁉︎」
「哎呀(きゃん)ッ⁉︎」
道長もそのまま圧倒、もちろんクラウンに対しても尻尾による弾き飛ばしをくらわせてやる。
「チッ、前にも増して強いなギーツの野郎…! ここは退くぞ」
「…今の私達にはそれが得策ね、行きましょう」
ここまでされれば流石にブーストマークⅡの強さや自分達の分の悪さを再認識、形勢不利と見て道長とクラウンは互いを庇うようにして現場を後にしていくのだった。
「ベーッ!」
ベロバは当然怒っている。彼女がライダーとして挑んでも互角に立ち回られそうな戦力を単体で英寿は有しているのだから。
そして彼女が英寿に舌を出して威嚇したのに合わせるようなほら貝の音と共に、ジャマーエリアが解除された。
「フッ…一時休戦か」
「ひとまず時間は稼がれたということか」
自分達が出張るような事態にならずに済んだことにニラムとドゥラメンテは喜びを覚えていた。
「あっ…それ、どうしたの? 見たことないんだけど…」
「新しいアイテム?」
「ブーストの強化ですか…?」
ゲームエリア会場後間もなく景和・祢音・シュヴァルは英寿が手にしている二つのバックルに目が行った。何気に昨日はおろか先程も目につくことはなかったのだ。
「…まぁ、ちょっとな」
「どうして隠すの? 何か人に言えない理由でも あるわけ?」
けれども英寿は話すことを渋った。これには誰にも言えないわけがあるのだけれども、それは誰にも話すわけにはいかなかった。なのでジーンにも当然同じ。
「…トレーナーさん、祢音さんもシュヴァルさんも実は…」
「「「ん?」」」
これを聞いていたダイヤは思いきってブーストマークⅡ誕生の際の出来事をキタサン視点で話すことにした。
まさか彼女がこのことを知っているとは思っていない景和・祢音・シュヴァルは思わず疑問に思ってしまった。
「……っ────⁉︎」
「「「英寿(浮世トレーナー)⁉︎」」」
「⁉︎ キタちゃんが心配していた通りですか…」
しかしそのやり取りが日の目を見ることはなく。目の前で英寿が倒れてしまえばそんなことを教えている場合ではない
そう、先程英寿が言い渋ったのは話す余裕が無かったというのも理由としてあったのである。
──────トレーナーさぁ〜んっ!」
「キタサン、気持ちは分かるけどくっついてちゃ効く魔法も効かないわよ…」
「ぐすっ!…う、うん、スイープさん…でも、あたしが心配した通りになっちゃった。何のリスクもない力じゃなかったんだ…」
その少し後、デザイア神殿は別の病室にて英寿にくっついて泣いているキタサンの姿があった。英寿達が戦っている間に傷が完治したのである。そこに此度の事態、何かしらのリスクがブーストマークⅡにあるのではと心配していたキタサンとしては気が気でなかった。
ただスイープとしてはキタサンだって病み上がり、大好きな友達の傷がまた開いてしまってはこちらだって気が気でなくなってしまう。だからこそやんわりと止めることとした。
「…まるで女神に叶えてもらったかのようですね」
ツムリとしては英寿が創世の女神の力を借りて今回のレイズバックルを作り出したのではとふと思えたのである。
「具合でも悪いのかな…」
「…たぶん変身の代償だって僕は思うよ」
同じころ祢音はサロンでシュヴァルと英寿を心配していた。どちらの考えも当たらずとも遠からずといった具合である。
「その線だろうね、シュヴァルグラン。だからこそ俺は、英寿がどうやってあの真っ赤なバックルを手に入れたのか探ってるんだ。前に英寿が言ってただろ」
ジーンとしてはシュヴァルと似た考えであり、ゆえにこそブーストマークⅡレイズバックルが誕生した経緯を探っているわけで。
『西暦元年』
「確かに浮世トレーナー、そんなことを言われてましたね…」
「でもよく知ってるね?」
デザイアグランプリ前々々シーズンのラストゲームの折、英寿は西暦元年の頃から既にデザイアグランプリに参加していたというようなことをキタサン・景和・ダイヤ・祢音・シュヴァル・道長・クラウンに告げていた。
それを景和もシュヴァルも覚えていたためなるほどとなったし、同時によく覚えているものだとジーンに感心もした。
「そりゃあ、オーディエンスとして見てたからね」
「世に数多存在するウマ娘ちゃん達があたしの推しならそのトレーナーさんもあたしの推しですので!」
あの時分ジーンは既にデザイアグランプリの視聴者として、英寿のサポーターとしてデザイアグランプリを追いかけていたし、デジタルは彼のサポートサポーターとしてやはりデザイアグランプリを推し活の一環として追いかけていた。だから当然と自慢することはないが覚えているわけである。
「あの発言の他に、君達は何か聞いてない?」
「たぶん手がかりになるようなことを浮世トレーナーは言われてるはずなんです」
そして二人としては西暦元年云々の発言以外に何か意味深なことを英寿が言っていなかったか気になっていた。
「私が知ってるのは…「お母さんに会いたい」ってデザイアカードに書いたのに却下されたって…」
「僕やキタさんも聞いてたので間違いないです」
そこで二人が思い出したるは前々シーズンのデザイアグランプリ初期、祢音とシュヴァルと再会した折に喫茶店で英寿が口にしていたこと。
今はもうツムリやスイープも知り、キタサンもかつて自分を励ますために教えてもらった英寿の原動力たる想い。
「それは妙だな…。英寿が今まで母に会いたいなんて願いを書いたところは一度も見ていない」
「ええ、過去の各種映像を見るかぎり浮世英寿という人物がデザイアカードにそんな願いを書いてたことはありませんです」
しかしそれゆえに生じる矛盾。ジーンとデジタルは過去のデザイアグランプリの録画を何回も見返している。であるがゆえに確かな矛盾や違和感といったものを二人は素直に口にした。
「また俺達のこと化かしてるだけじゃないの?」
「でも…嘘をついているようには見えなかったけど」
景和としてはいつものように英寿が自分を馬鹿にしているだけ、揶揄っているだけと思ったがかつての英寿の発言を直に聞いているだけに嘘をついているとはまるで思えなかった。
「…浮世トレーナーはキタちゃんのトレーナーさん、真面目なことに嘘をつくタイプではないと思います」
「うん…あの人、嘘をつくことつかないことの規則性は自分で付けてるように思う」
キタサンほどではないが景和よりは英寿のことをよく知っている自覚も自信もあるダイヤとしても英寿が己が願いに嘘をつくようには思えなかった。
シュヴァルは言わずもがな、祢音と同じ現場でキタサンも合わせて英寿の願いを聞いていたがゆえにあの発言が脚色されたものとは考えられなかった。
────もし、その話が本当だとしたら「母に会いたい」と書いたのは英寿じゃない別の人間…」
「さらに考えるなら、エースという読みの別の誰か…血縁者さんですかねえ?」
ジーンもデジタルもその話を聞いて思ったのは母に会いたいという願いを抱いた英寿とは英寿でない別の誰かなのではと、ともすればエースという名の英寿の血縁者なのではないかという疑念を抱いた。
((((エースって名前の別人で血縁者…⁉︎))))
聞いていた側四人もそう言われれば疑念を抱く、英寿という存在の不思議さに。
「レアなゲームだよね。あのデザグラのプロデューサーさんがゲームの標的にされるなんて」
「いくらサポーターといえど、ゲームはオーディエンスルームでご覧いただかないと」
それから少し後、ジーンとデジタルはデザイア神殿内を作業のために彷徨いていたニラムとドゥラメンテにいきなり話しかけていた。
当然拒否られはした。
「すいません、気になったことをすぐ漁らずにはいられないのはこの人の癖でして」
「今回は目を瞑るが以降は気をつけてください、アグネスデジタル」
けれどそこはデジタルが間に割って入り上手いこと取り繕ったがゆえに、ニラムに続き物申そうとしていたドゥラメンテも矛を収めた。
こういう処世術は慣れたものである。
「おお、推しからのありがたいお言葉…身に染みまする…」
(ほんとすいません!)
それに対しデジタルは素直な本音を告げる。とはいえその際に抱いた気持ちだって本音である。やむなしとはいえこうした唐突な訪問に申し訳なさは感じていた。
「英寿のことについて、ちょっと聞きたくてね」
「少々気になったことがありまして」
主題はもちろん先の英寿の謎について。善は急げとはよく言ったもの。すぐに聞くこととしたのだった。
「長いデザグラの歴史を全て見てきたわけじゃないけど、興味深い願いをデザイアカードに書いたデザ神が居た」
「ちょうど戦国時代の頃だったかな? 名前は、八雲英守。同じ『エース』の名を持つデザ神なんて偶然にしちゃ出来過ぎだ」
ジーンにはかつて一人、強く興味を惹かれたデザ神がいた。その名は八雲栄守。
戦国時代に開かれたデザイアグランプリで活躍したその男は、その願いゆえにジーンの記憶に残っていた。
英寿と同じ読みのその人物は、はたしてこの状況においては意味深な存在と化していた。
(戦国時代…確かトレーナーが初めて担当したデザイアグランプリがその時代だったか)
(ミイル…止そう、今は感傷に浸っている場合ではない)
ただそれを聞いてドゥラメンテが思い出したるは自らのトレーナーたるニラムが初めて担当した時代こそ戦国時代だったということ。
ニラムも似た具合で同時代を担当した折に命を落としたミイルのことをやはり思い出していた。八雲栄守が誕生したのはその後少しして正式に開かれたデザイアグランプリでの話である。
「あたしはエース・ガーフィールドさんが気になりましたねえ。アメリカ生まれとしては」
デジタルはまた別の時代のエースが気になっていた。こちらもやはり同じ願いを掲げている。
「彼の秘密を探って、どうするつもりだ?」
「感動したいんだよ。英寿の人生の生き様…もしくは死に様をね」
ジーン自身は知らないことだがその名の意味合いでもある感動という概念に紐づけられた生き方を彼は設定されているし好んでいる。
英寿はそうした感動を特に誘発させてくれるため、推しとしている部分がある。
「他人の秘密を漁るのは無粋な真似だとは思わないのか、ジーンさん?」
「俺にとっては既に身内みたいなもんさ、英寿は」
とはいえデザイアグランプリというフィルターを外して見ればあくまで英寿は他人、ならば過度に干渉することはもちろん、ドゥラメンテの言うように不用意に過去を漁るのも止したほうがいいのだがジーンとしてはもう身内とカウントできる程度には短期間だがそれなりに濃い付き合いをしていると勝手に考えているので効かないのである。
「流石にあたしはそこまで図々しくは行けませんけど…でも推しがこの先も生きるか、それとも果ててしまうかの別れ目、シンギュラーポイントなんです!」
「なので多少の不躾な真似をしてしまうこともそれで責められることも覚悟のうえですっ!」
とはいえデジタルまでそうというわけではなく、しかし推しの推しは自分の推しということもあってそんな英寿が死んでしまうかもしれない事態、無視しておくことは彼女にはできず。
ならば多少責められようとも不快に思われようとも過去を探ることも止むなしといった具合だった。
「他者の命を背負う覚悟か…ふっ、なるほどな」
(今なら私にもよく分かるものだ)
かつて盲目に背負い、意味を理解した今は己の願いの糧として自主的に他者の命、想いを背負うドゥラメンテとしてはよく理解できるものがあった。
「ハハハハハ! 彼のリアルを求めるか、 ある意味オーディエンスの鑑だな」
ニラムとしてもリアル、即ちその時代時代の生命の持つ想いや文化、営みに迫ろうとする二人の姿勢は感じ入るものがあった。
「それで? 戦国時代のエースの願いは叶えられたの?」
「ガーフィールドさんの願いも叶えられたんですか?」
「「生まれ変わった俺がいつか、世界を守ると覚悟を決めた時、それを実現する力は…」」
そのうえで先程より推し進んだ疑問、即ちエースと名乗る男達の願いはたして叶えられたのかとニラムにぶつける。
これが聞きたくて、わざわざやってきた。これが聞ければ自分達が英寿という存在、その正体に対して立てているある推測は実態を得るだろうという確信があった。
「…ああ。 君達の想像通りだよ」
「貴方達もようやくその考えに至ったか。ならばあと知るべきは…キタサン、だな」
もちろん叶ってはいる、それはもうニラムもドゥラメンテも確認済みだ。なので今これを知らない存在で知っておくべき誰かはキタサンということになる。
「やっぱりね♪」
「なるほど…でしたら正解というわけですね」
二人のその返答に自分達の推測は間違っていなかったようだと、英寿の正体を確かに把握できたという確信を確かに得たのだった。