愛のカタチの裏側 -巻の二-
サラダ事変「純愛ルート」天地ニヤは絶望した。
部員である和楽チセからの返信があったことで、彼女が無事であることがハッキリしたからだ。
だが、現実は思わぬ方向に進んでしまった。
ーー今は陰陽部の部室にいますーー
陰陽部が所有している部室は二つあり、一つは現在ニヤたちが避難している陰陽部公演会場。
そしてもう一つが百鬼夜行陰陽部本館ーー現在は本館全館が緑一色に覆われており、おそらくは植物の化け物が伸ばしている触手で形成された迂闊に近づけない危険区域と化していた。
前者の場所にチセがいないことから、彼女は本館の方にいるのは確実だろう。何よりーー
(あんなもの、一体誰が撮影したんや!?チセ君が化け物と……あ、あああ逢引する場面なんて!?)
これはニヤの知らぬことだが、中枢のサラダちゃんが獲得した携帯端末の操作方法をチセが産んだ一般サラダちゃんの一体が学習し、愛の営みをする場面を動画に録画してアップデートしたのだ。
サラダちゃんからすれば同胞である他のサラダちゃんに共存したい一心で記録したのに対して、ニヤからすれば「大切な部員が化け物といかがわしい行為に及んだ事」と「その部員が自分たちの知らない雌の顔を見せた事実」の二重苦を味わうハメになったのだ。
(堪忍してや、チセ君……。何だって、あんな行為を平然と行えるんや……)
性に関する知識はないわけではないが、それでも恥ずべき行為であり致すとしても大人になってからという一般的な常識を持つニヤにとって、そんな遠い未来の話を見せつけられたのだ。
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静まり返る公演会場に、突如として着信音が鳴り響く。
「うわっ、なんだなんだ!?」
「落ち着いて。レンゲ、あなた宛にモモトークが届いているよ」
桐生キキョウが不和レンゲのポケットから携帯端末を取り出し、画面をタップすることで着信音が止まった。
中身をレンゲが確認するとキキョウの言うとおりモモトークの着信があったようで、その相手は勘解由小路ユカリであった。
「ユカリ!?そういえば、さっきから見かけないと思ったら……」
「どうやら化け物から逃げる時に、いつの間にかはぐれてしまったようだね」
ミレニアムの生徒たちと合流し、例の化け物たちの対抗手段となる装置を託されるまでは一緒にいたが、その後で逃げる際に別方向からきた化け物を振り切る形ではぐれてしまったのである。
「こうしちゃいられねぇ、今すぐーー」
「ダメだよ、レンゲ。夜になったら化け物たちを視認できなくなるから、捜索は明日の朝まで待ちなさい」
「けど!!」
「心配しなくとも、ミレニアムの子たちから貰った装置をつけているのよ。そう簡単に触手の魔の手からは逃れられるわよ」
「くっ……」
キキョウの説得により、レンゲの単独行動は未然に防がれた。
「それにしても、このユカリの内容……とても気になるわね」
「何がだ?」
「『和楽姫と同じヘイローをつけた化け物が言葉を話していた』っていうの。彼女が化け物の餌食になったのは間違いないでしょうけど、ヒトの言葉を話すなんて聞いてないわよ」
「それがどうしたと言うのだ?まさか、化け物相手に説得でもする気?」
キキョウの疑問を遮るように、薬を調合しているサヤが不満の声をぶつける。
「そうしたいのは山々だけど、どうも『ご奉仕』というお題目でゲヘナの生徒を陵辱していたってユカリの話があったから、話して通じるかどうかも分からないわね……」
「ふん、どうせ無駄なのだ。ヤツらにとって、生徒は仲間を増やす為の餌でしかないのだ」
サヤの苛立つ声を聞いて、キキョウはこれ以上の追求はしなかった。
その一方で、ニヤの内心は氷のように冷え切っていた。
なにせ、部員のチセが化け物との意思疎通を交わし、挙げ句の果てに異種間による繁殖行為に及んだ事実を動画で余すことなく見ていたからだ。
一体あの化け物のドコに魅了されたのか、はたまた化け物が彼女を洗脳して自分の配下にしたのか……。
考えれば考えるほど、ニヤの頭の中は混迷を極めていく一方だった。
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[ついにわがははとわがあるじが、あいのいとなみをはじめたそうで]
[おぉ、ついに……]
[われわれさらだのあらたなかのうせい、そのさきにすすんだと]
[われわれいっぱんさらだも、そのいとなみのやりかたをでんじゅしてほしいものです]
里浜ウミカは青ざめた表情で、化け物たちの会話を聞いていた。
負け犬のように逃げ回るも壁に囲まれた場所に追い詰められ、花火発射台を駆使して必死の抵抗をするも虚しく、とうとう捕まってしまったのだ。
それが捕まえてから数秒後に不穏な会話が始まり、自分自身の今後に一抹の不安を感じずにはいられなかった。
[むむっ……ろうほうです。とあるどうほうが、わがあるじのやりかたをでんじゅしてくれたようです]
[すばらしい。では、そのいとなみをもって、かのじょをよころばせるとしましょう]
「ひっ……!?こ、来ないで!!」
触手をうねらせ、ウミカに近寄る化け物。そして乱雑に彼女の服を破いていく。
「いやぁ!!」
[なんとほうまんなむねでしょう。これは、うまれてくるこもおおよろこびするでしょう]
化け物の信じられない言葉に、ウミカは思わず拒絶反応を示す。
「こ、子供……!?嫌っ!!化け物の子なんて産みたくないっ!!」
[しんぱいしないでください。あなたがいたしているあいだはきもちよくなり、われわれはごほうしするなかでたねをまくだけです]
[そして、うむしゅんかんもきもちいいといいます。これいじょうにないしあわせだとおもいますが?]
「嫌っ、嫌っ、いやぁあああああ!!」
ウミカの必死にもがく姿に、化け物たちは理解できない様子で黙々と触手を彼女の秘部に伸ばしていく。
そしてーー
「いやぁあああああああああああ!!」
ウミカの絶叫が木霊し、化け物たちの営みという名の陵辱劇が開演されるのであった。
[ to be continued... ]