愛してる
偉大なる航路のとある島の洞窟の中でウタは料理をする。料理といっても食材も調味料も限られている為、実質丸焼きみたいな物だ。
だが、ウタにとってこの時間は何よりの幸せでもあった。あの日以降、ウタは持ってる力を人に振るう事が出来なくなった。その為、追われる身でありながら戦闘の全てを愛するルフィに任せてしまうという体たらくであった。当然、日に日に傷を増やしていくルフィの姿にウタもその心を痛めていった。
そこでウタは考え、思い付いた。出来る事をしようと。見聞色を鍛え戦闘で疲労するルフィの代わりに接近する敵の気配を探った。隠れ場所の中の環境を整える事で戦い疲れたルフィの疲労を出来るだけ取れるようにした。ルフィが取ってきた食材を調理して出来る限り元気になって貰えるようにした。
無力になったウタにとって料理とはルフィの側にいる為の許可証だった。本当に何も出来なくてもルフィはウタを捨てはしないだろう。だが、それをウタ自身が認められなかった。
「ただいまウタ。わりィ。少し手間取った。」
「おかえり。全然大丈夫だよ。ここなら奥に湧水と地底湖があるからそこで軽く水浴びでもしたら?」
「おう。そうする。あとこれ。モルガンズの"忘れ物"だ」
逃亡生活を始めて最初の頃はお互いの清潔さも気にせず抱き合ったりした。だが、ある日を境にルフィが血に塗れた状態でウタと触れ合うのを拒むようになった。ウタは悲しくはあったが、自分が大切に思われてる証なので潔く受け入れた。
料理が一通り終わったのでルフィが置いてあったモルガンズの"忘れ物"を確認する。中に入ってたのは袋に小分けされた調味料と寝袋、ランプに熱貝と情報。情報は世界経済新聞に書かれるような誇張された内容ではなく、必要な部分だけを切り取った簡素な作りでありながら、見やすい構成であった。
勿論、彼は面白い物の味方だ。いつ裏切ってくるか分からない分、信用出来ない。纏められてる情報に関しても話半分で頭の片隅に残しておく。ウタは情報を読み終わると同時に慣れた手つきでランプを解体していく。案の定、ランプの奥の奥、わかりにくい場所に折り曲げられた命の紙が隠されていた。サイズ的に母体だろう。こういう所が信用ならない。
「待たせたなウタ!」
「ルフィ〜!!」
ウタは命の紙を丁寧に細切れにし、細切れになった命の紙がみんな同じ方向に動く様になったのを確認する。そうした所で後ろから声がかかり、作業をやめて声のした方に駆け寄る。ルフィの胸の中に勢い良く飛び込み熱い抱擁をかわす。ルフィも飛び込んできたウタを優しく受け止め、優しく抱きしめる。
「ねェルフィ。いい?」
上目遣いでルフィを見上げれば、ルフィは穏やかな顔をして受け入れる。2人の唇が重なり舌が絡まる。ルフィはウタとの身長差を案じて微妙に足を屈める。
(あったかい。ルフィの体温。全身で包まれてて、気持ちいい。ルフィの全部が私の中に入ってくる。あぁ…もっと。もっと欲しい…)
(ウタ…大好きだ。離したくない。離れたくない。)
どれくらい交わっていたのだろう。唇を離した2人の間に橋がかかる。
「ちょっとやり過ぎちゃったね。ご飯の用意出来てるよ。」
「おう!楽しみだなァ〜ウタの料理。」
ルフィを抱き締めながらウタは微笑み話しかける。それにルフィも満面の笑みで答える。大きめの石に座ったルフィの膝の上にウタを乗せ、抱き合ったままウタが料理した肉を食べる。一本の骨つき肉を左からルフィが、右からウタがかぶりつく。
「うんめェ〜〜!やっぱりウタが作った料理は最高だな!」
「本当?なら嬉しいな…エヘヘ」
ルフィの言葉にウタは笑みを溢す。ルフィの前でしかしない、女の子の顔。抱き合いながら、2人で同じ肉を食べる。ウタはルフィの方を見つめ、舌を出す。ルフィは微笑み、差し出されたウタの舌を優しく指で押す。指で舌を挟み、優しくこねる。ウタは一瞬不満げな表情を浮かべながらも、すぐにその表情を崩しルフィの指に身を預ける。
「もう。意地悪。」
「わりィわりィ。ウタがあまりにも可愛くてな。」
「ッ//!!そんな事言われたら責められないじゃん…//卑怯者…」
舌を解放されたウタが文句を言えばルフィの返す言葉で顔を赤く染める。そんなウタにルフィは不意打ち気味に口移しで肉を食べさせる。最初は抗議するようにルフィの胸を叩いていたウタだったが次第に表情が蕩けていき、ルフィを受け入れる。
「なぁ。ウタ…今、幸せか?」
舌を離した後、真剣な表情でルフィはウタに問いかける。その言葉により不恰好な夫婦ごっこの夢が覚め、雨の音が2人の耳に戻ってくる。幻想が現実に戻されていく。
「当たり前じゃん。ルフィと一緒に居られれば、私は幸せだよ。私の身も心も、ルフィの物なんだから。」
ルフィの問いにウタは溢れんばかりの笑顔で答える。未だに人間は怖い。外に出れば戦いに巻き込まれて多くの人を傷付けるだろう。誰かを信じれば騙され、利用されるだろう。だからこそ、世界で唯一信用出来る、愛する人に対して気持ちを伝えるのだ。
「愛してるよ。ルフィ。」
(だから、置いていかないで…)