愉快適悦
タイアカのお話「わたくしと、お付き合いしてくれますか」
そう彼女に言われたのはひと月ほど前の事
今でもあの時の気分の高鳴りを、鮮明に覚えている。
…未だに信じられない あの名家のお嬢様と僕が恋人で、しかも相手からの告白だなんて、夢でも見てるんじゃないか?
そう思い頬を抓るが残るのは痛みだけ…こらは確かな現実だ 嬉しくてつい口角が上がってしまう。
手すらほとんど繋いだことないけども、付き合ってから1ヶ月ほど経つし…そろそろデートに誘ってみようかな 何かしら行動を起こした方がいい気がするし!
などと勢いで決めたはいいが、今まで付き合ったことなんて無かったからどうすれば上手く誘えるのかわからない…ましてや相手は超のつくほどの令嬢だ 下手な事はできない。
周りの女性…姉さんに対応を聞くか?いやそれもどうなんだ?
「ん゛〜…ダメだ!何も出てこない!!」
深まる秋の空を眺めながら思考を巡らせるが、いくら考えてもラチがあかない こうなったら当たって砕けろの精神でいこう!
「今度の休みにどこかに行きませんか?」
…我ながら急すぎたかもしれない。
待ち合わせもなく突然やってきて第一声がこれだ そりゃ驚くよね…
目をぱちくりとする彼女の反応を伺う
「お恥ずかしながら、家族以外の男性とお出かけなんて初めてで…」
むしろあったら僕の心がどうにかなりそうだった…これは断られるかもしれない
少しの間があった後、返ってきた言葉は
「わたくしで宜しければ、是非!」
想像した答えとは真逆の返答だった
もしかしたらこの子は自分の想像より快活なのかもしれない…可愛らしいな。
「デート、してみたかったんです!どこに行きましょう?あぁ楽しみ!夢のよう!」
そう言ってクルクルと回る姿は踊り子のようで美しいけど…まだ何処に行くかすら決めてないんだよな
呆気にとられ静止している僕を不思議に思ったのか、彼女が顔を覗き込んで来た。
「どうなさいました?わたくしの顔に何か?」
不意に距離が近づいたのでドキリとしてしまう
「あ、いえ、その、そんなにデートに行けるのが嬉しいんだなって…」
自身の行動を振り返ったのか、彼女の頬が紅葉のように赤く染まる そんな姿に愛おしくなりつい頬が緩んでしまう。
「わ、笑わないでください…!本当に嬉しかったんですから!」
僕の顔を見た彼女が頬を膨らませて怒る。
「あはは、すみません。表情がコロコロ変わるのが可愛らしくて…精一杯楽しめるようにエスコートさせて頂きます、お嬢様」
「もう!…当日、楽しみにしていますからね?」
焦る必要なんて無い ゆっくりと深めていけばいいんだ
ペースを掴むのは得意なんだから。