想像から創造する極と翼
――ワノ国での『麦わらの一味』と『百獣海賊団』の全面対決。
それは現四皇二名の脱落と勝者たる『麦わら』モンキー・D・ルフィの四皇への昇格。
そしてワノ国が『麦わらの一味』の支配下に置かれるという結末に相成った。
この顛末が当時の市井の者……或いは後世の者にどう映るかは大体予測がつくが、詳細な所は分からないと『地啼のアンガルダ』なる海軍中将は零していた。
現在、砂鉄纏う岩石を回避している動物系(ゾオン)悪魔の実リュウリュウの実、モデル『バルファルク』を宿す海軍大佐の能力者……『赫翼』レグルス・ベネトへと。
「厄介な……! 磁力を操る超人系(パラミシア)である『“キャプテン”キッド』の信奉者なだけはあるか」
「お褒めに預かり恐悦至極、ですわ」
一瞬だけ竜の姿から人間の姿に戻ったのは、縦巻きロールの長髪と豪奢なドレス……を改造した戦闘服を着た少女。
動物系(ゾオン)悪魔の実リュウリュウの実、モデル『ルコディオラ』を宿す『“キャプテン”キッド』の信奉者――
『磁極』マグニ・ルッコラ、『麦わらの一味』等キッドと友好関係(本人は否定するだろうが)にある者からは『ルコ』という愛称で呼ばれている令嬢だが、その実態は懸賞金『9億2000万』を誇る強大な能力者……
レグルスと同じく動物系(ゾオン)怪物種と呼ばれる希少な悪魔の実、その中でも『古龍種』と呼ばれる最上級の実に『選ばれて』食した者なのだ。
レグルスは彼女が所用でキッドと別行動をとったという情報を手に入れた。
当時の位置座標から算出すれば、キッドかルッコラを救出するのには最短でも一日半弱かかるとの見込みとの事。
この事からレグルスは『クロスギルド』設立による混乱がまだ始まったばかりなのを逆手に取り、怪獣種にして古龍種でありながら海軍大佐である己がルッコラの捕縛ないし討伐を打診し、承認された故に強襲に向かったのだ。
現在ルッコラの付き添いと海兵が湾岸部で争っている中、二名の古龍は島内部にて激戦を繰り広げている。
「ワノ国での顛末は聞いている……あの『ビッグマム』シャーロット・リンリンとの戦闘においてキッドを支援し続けた、と」
「ええ、正しく激戦でしたわ……貴方とは比べ物にならない位の、ね!」
竜の形態に移行し、磁気を練り上げていくルッコラ。
戦場となる小さな島はアラバスタに似た砂丘と岩石地帯が大部分を占めている。
つまり、この場所は『ルコディオラ』の力を発揮するのに最適だ。
だが、天から降り注ぐ彗星の如き機動力と加速力――『バルファルク』に選ばれたレグルスは射出される岩石を難なく回避、撃墜していく。
だけでなく――
「それは……わたくしの磁気が!?」
「『赫翼除域』! これがぼ……私の『バルファルク』の力だ!」
――悪魔の実の能力を無効化する、奪うと言った方が正しい定義か。
一時的にとは言え、あの四皇『黒ひげ』と同じ境地に立つのがレグルスの『バルファルク』なのだ。
「運が悪かったな――バルファルクとはこういう生き物なのだ!」
「そうだったのですか! 目の前に『バルファルク』とは何なのかをこの世で最も理解できる存在が言うなら反論の余地がありませんわね……!」
ブラキオサウルスが脊椎動物の定義を無視する様な挙動をしても、ブラキオサウルスの能力者が『ブラキオサウルスとはこういう恐竜だ!』というなら間違いないのと同じ理屈だ。
だが、それはルッコラも同じである。
「――では、こちらも本気で」
「え?」
瞬間、レグルスが見たのは――『上空』から降り注ぐ岩石の数々。
藤虎大将……? と、一瞬忘我の域に会ったレグルスだったが、すぐさま加速して岩石の隙間を潜り抜けていく。
やがて小さな岩石に拳を叩き込み、粉砕した直後にこの業の正体を把握する――
「――砂鉄、だと……?」
ルッコラが砂鉄を操る、という情報をレグルスは作戦に当たって把握している。
問題は、ルッコラの砂鉄操作は攻撃には使えても……所謂メインウェポンに成り得る物ではない筈であった。
「……『覚醒』したのか!?」
すぐさまレグルスも『その力』を解き放つ。
翼部の中腹から先端部の龍気噴出口までの部位、その全てを異様な深紅色へと染め上げていく姿こそが『赫翼』の異名をレグルスが得た由縁。
そして、その力を完全に御すことこそが――
「……本来は、インペルダウンの極卒の様になるはずなんだけどね」
先程までとは比べ物にならない速度で飛翔していくレグルス。
覚醒した『バルファルク』の力は絶大……それは降り注ぐ砂鉄を固めた岩石に対して光線を解き放ち、蒸発させて対処するという事さえ可能だ。
だが、レグルスは緩まない。緩んではいけないのだ。
なぜなら、戦場となる砂丘では……砂鉄を用いて作り上げたと思わしき巨大な杭――それを磁力操作によって射出する狙撃準備が整っている。
恐らく、先程の岩石を降り注がせたのは上空に舞った砂鉄と秘かに上空に送り込んでいた砂鉄を一気に結合させて現出させたのだろう。
精密な砂鉄の操作。それこそが――
「想像力が足りませんわね――ルコディオラとはこういう生き物ですわ!」
「そうだったのか!」
現在、人型に一時的に戻ったルッコラは髪と瞳の色を蒼白色に染めている。
それだけではない。その御髪からは蒼い雷が放たれているではないか。
「それが『ルコディオラ』の『覚醒』か!」
「いかにもですわ!――四皇との戦いで勝ち取った、真なる磁力操作をご堪能下さいな!『貴金の杭(カドモンパイル)・狙(スナイプ)』!」
瞬間、莫大な電磁力を付与された砂鉄の杭が超高速で射出される。
だが、レグルスは『覚醒』した『バルファルク』の能力者――開眼した本物の彗星に等しいとすら思う超速度。
その機動力を以て、ルッコラの『貴金の杭(カドモンパイル)・狙(スナイプ)』を回避したのであった――
「だと思ったから二段構えですわー!――『貴金の杭(カドモンパイル)・散(ショット)』!」
瞬間、レグルスが飛翔している砂丘から強固に固められた杭の散弾……その射程範囲は、レグルスの飛翔している空域全体――
ルッコラは『貴金の杭(カドモンパイル)・狙(スナイプ)』を準備するのと並行し、砂丘に埋まっている砂鉄に干渉。
見えない砂丘の中で砂鉄を杭の形に再成形し、『貴金の杭(カドモンパイル)・狙(スナイプ)』が攻略されたと同時に第二撃にして奇襲たる『貴金の杭(カドモンパイル)・散(ショット)』の準備を完了させていたのだ。
「何ィ!?――『光輝弾壁』!!」
しかしレグルスもやはり『選ばし者』……とっさに撃墜用の光弾を発射し、肉体に突き刺さる砂鉄の杭の数を減らす事に成功。
だからこそ――のみならず!
「『龍殲霧陣』!」
砂丘の地利を活かす事に――光の翼から放たれる光線を地面へと叩きつけ、砂鉄諸共吹き飛ばし視界を阻害。
一瞬で良い……砂鉄をルッコラの磁気操作の制御から解き放てれば、それによってルッコラを忘我の域に叩き込めれば。
その一瞬があれば……覚醒した『バルファルク』はルッコラの元へと切り込める!
「まず……!」
とっさに岩石を操作し、盾にするルッコラ。
焼け石に水ですわね……そんなことを思いながらルッコラは、龍そのものになるには間に合わないと判断した。
故に竜人形態となり、レグルスの攻撃を岩石の盾も活用して受け止める。
結果として『ルコディオラ』の肉体に刻まれたのは、決して浅くない傷。それを更に深いものとしない為、磁力による斥力を以てレグルスの追撃から逃れていくルッコラ。
自慢の戦闘用ドレスも破損が大きい……だが、それでも麗しい笑みを血化粧で彩りながらルッコラは砂鉄で破れたドレスの生地を代用していく。
彼女の身には、砂鉄と青白き電磁気を纏う羽衣が顕現していた。
「楽しく、なってきましたわ」
「奇遇だね……ぼ、私もそう思っていた所なのだ」
羽衣を纏うのはルッコラだけではない。
レグルスも深紅の羽衣を纏い、竜人形態へと変容。
お互いに手傷を負いながらも、まだまだ臨戦状態は継続できる。
故に一瞬だけ……龍の姿から人の姿へと互いに戻り、令嬢と大佐は砂丘の中で獰猛な笑みを交わし合うのであった。