想いは告げられたが、返事は求められなかっとことにだいぶ後になってから気づいた
最初は、「何か可愛い白クマつれた奴」だった。白クマの方がわたしには印象強かった。
次は「一緒に海軍と戦った奴」だったけど、これもあのチューリップみたいなギザギザ頭の方ばっか覚えてる。あいつ、いきなり人のこと馬鹿にしてきたもん!!
だから、……エースの時にわたしの手当てしてくれたってジンベエやハンコックに聞いた時は、「誰?」って思った。仲間に白クマがいるって言ってくれなかったら、多分思い出せなかった。
わたしにとってはそれぐらいで、ちゃんと話した記憶もほとんどなかったから、何で助けに来てくれたのか、なんであんな大怪我を治してくれたのか、全然わかんなかった。
だから、2年間たまにだけど、修行の合間に考えてた。
どうして助けてくれたんだろう?
何が目的だったんだろう?
どんな人なんだろう?って、ずっとずっと考えてた。
PHで会えた時、すごく嬉しかった。
助けてくれたお礼を言いたかったし、ずっと知りたかったことが分かると思った。
とりあえず、わたしが一度ぶっ飛ばしたけど忘れてたってわけじゃなくてホッとした。
「話があって来た」って言われた時は、もしかしたらいつものやつかなー、それだったら嫌だなーって思ってたから、「同盟を組みたい」ですごく驚いてナミと一緒に問い詰めちゃった。
「『俺の女になれ』じゃないの!?」って訊いた時の「バカかてめえは!!」って怒鳴り方がね、ゾロとかエースに似てたの。だから、コイツは絶対に大丈夫だって思えたんだ。
それでそれで、子供たちを助けるって言った時、初めは断ろうとしてたけどすぐに手伝ってくれたでしょ!
いつもの奴らって、わたしの言うこと聞くって言っときながら、みーんな結局は私にあれしろこれするなって言ってきたのに、トラ男は逆なの!!
私のやりたいことを文句つけても反対しないで手伝ってくれるから、この時からコイツ本当にいい奴だなー、好きだなー、友達になって良かったって思ってた!
え?友達じゃない?同盟相手?それ、何が違うの?
とにかく、そんな感じで好きになることばっかで、嫌いなところなんて全然なかったけどね、あのね、あのね!出航の時!海軍と子供たちが見送ってくれてたでしょ!!
あの時、トラ男笑ってたの!!
海軍と子供たちを見て、笑ってたの!!
それを見た瞬間、思ったことがスルッと口から出ちゃった。
「トラ男、好き」って
もう最初からずっと大好きなんだけど、なんかあの笑顔を見た瞬間、赤犬にやられた時よりも胸が熱くなって、けど全然痛くなくて、すごく全身がフワフワして、月まで飛んで行けちゃいそうで、これがこれが恋!?って思ったの!!
ねえ、ナミ!ロビン!これって恋だよね!?
* * *
「サンジ、お赤飯の材料ってあったかしら?」
「とりあえずあんたの胸にあいつの顔を埋めてきなさい。男なんてそれでイチコロよ」
「くだらねえことを吹き込むな!!」
出航直前に起こった珍事……ルフィがトラファルガー・ローに「好き」と言ったのはまだ良かった。その時の声量なら、言われたローとあとはせいぜい麦わら一味しか聞こえなかったから。
問題はその後、ローが「は?」と困惑の声を上げたら、ルフィは顔を真っ赤にさせて一応は当事者であるローをほったらかして、大声で自分の仲間たちに言い放った。
『!?み、みんなどうしよう!?
わたし!トラ男が好き!!大好き!!めちゃくちゃ好き!!
どうしよう!?これが「恋はいつでもハリケーン」なの!?』
まさかの公開告白に、一瞬まわりが完全に静まり返ってから、爆発したような騒ぎが勃発。
麦わら一味は一部を除いて「あらあらまあまあ」と微笑ましげで、子供たちは「麦わらのおねーちゃん、お医者さんが好きなのー?」「結婚するの?」「ちゅーは?ちゅーするの?」と無邪気に質問責めし、海軍連中と何故か意気投合したサンジが「ふっざけんなトラファルガー!!」「このイケメンがー!!」「ルフィちゃんに何しやがったてめえ!3枚に下ろすぞ!!」とブーイングをかます、まさにカオス。
そんな騒ぎの元凶かつ中心の女は完全にパニックになっていたので、とりあえず予定通り船に乗ってから、この珍事の説明を求めたはずが、とんでもなく恥ずかしい惚気を聞かされたローはブチ切れ、まずは一歩も間違えず痴女でしかないことを推奨するナミを怒鳴りつけた。
「何がくだらねえだクソヒゲが!ルフィちゃんのたわわな果実の何がご不満だ羨ましいんじゃこの野郎!!」
「俺に当たるな!!というか、なんでお前らは祝う気満々なんだ!?止めるだろ普通!!」
間違いなく一番の被害者なのに、割と真剣にルフィの為に怒ってくれたローに、完全なる私怨をどこにも隠していないサンジの蹴りが飛び、それを鬼哭で受け止めながら、被害者兼苦労人は周囲に突っ込んだ。
ローのツッコミ通り、ルフィの話を聞いていたのはローと麦わら女性陣二人、あとは何故か同行することになった侍親子のみであり、チョッパー・フランキー・ウソップの三人は船に飾り付けをし、ブルックは何やらムーディーな音楽を演奏し、サンジに至っては何故か既に炊き上がっている赤飯片手に、ローへ八つ当たりしていた。
話を聞いていたナミロビンは言わずもがな、侍エロ親子もナミのいらなすぎるアドバイスと、サンジの「たわわ」発言でルフィの豊かで無防備な胸をガン見してから、血涙流して自分を睨みつけているので、もういっそゾロのように全員寝てろと思ったローは悪くない。
「胸に……なるほど!トラ男ー!!」
「!?シャンブルズ!実行するな麦わら屋!!」
そしてマジ元凶は、エロ河童やエロ親子の反応でナミのアドバイスは事実だと思ってしまったのか、手を文字通り伸ばしてローを捕まえようとした為、慌てて能力を行使して逃げ出した。
「いい加減にしろお前ら!調子に乗るな!乗らせるな!!
麦わら屋の好意はどう見ても恋じゃなくて、ただ単に俺が人間的に好きってのを恋だと勘違いしてるだけだろ!!」
だいぶルフィから距離を取り、鬼哭も抜く体勢に入りながら指摘された内容に、麦わら一味は気まずそうに目を逸らす。
ご指摘通り、ルフィの好意は純粋で可愛いらしいからこそ、恋愛なら幼くともある色気の類が皆無。あの話では、ローはただのいい人だ。
「違う!」
しかし仲間一同が黙り込んだ中、ルフィ本人だけは即答で否定。
「人間的に好きなら、ゾロもウソップもチョッパーもフランキーもブルックも大好きだよ!!けど、こんな気持ちになったのはトラ男だけ!!」
「待ってルフィちゃん!?俺は!?」
「サンジに言うとうるさくてややこしくなるから言わない!!」
「あ……はい。すみません……」
男性クルーたちも好きだが、ローに向けるものとは違うと主張するルフィ。そしてトナカイ・ロボ・骨は入ったのに自分は除外されたことにショックを受けるサンジ。
理由は残念じゃない方の残当だった。
サンジの横やりのせいで気勢が削がれてしまったが、それでもローも引く気はないので、ドヤって胸を張る女の主張を鼻で笑う。
「なら、恋に憧れてるだけだろ。流石に家族同然の仲間はそういう目で見れないだけで、歳がある程度近くて他人の俺は、『恋愛ごっこ』に都合がいいだけだ」
本当に恋だとしても幻滅するであろうと思っての発言だったが、目の前の同盟相手はどこまでも斜め上だった。
「それはない!恋って冒険の邪魔になりそうだから面倒臭くて嫌だなとしか思ってなかったし、今も思ってる!!」
「いや少しは憧れろや年頃の女!つーか、今も進行形ならなおさら恋じゃねーだろそれ!!」
まさかの恋愛ネガキャンを向こうからされて、思わず「憧れろ」と言ってしまうロー。
同時に、麦わら一味が何故こんなにもお祝いモードなのかを理解した。おそらく、「憧れろ」と言ってしまったローと同じことを常日頃彼らも思っていたのだろう。
「思ってるのに好きなの!邪魔なのに嫌なのに、理由はわかんないけど絶対に捨てたくないの!」
そんな色恋沙汰に縁がなかった少女が、癇癪を起こすように地団駄を踏んで主張する。
論理も理屈もない感情的なその言葉にローは苛立った。
……特に、彼女の何か付属する「D」が酷く苛つかせる。
「訳わからねえよ」
だってこれでは、まるで自分達はあの2年前の悲劇の元凶。
前日譚である彼らの……
「それじゃあ麦わら屋、お前の気持ちや俺との出会いは……」
海賊王と彼が愛した女性。
二人の「D」
それは、まるで……
「運命だって言いたいのか?」
誰かによってお膳立てされて、決められた既定路線のようにしか、ローには思えなかった。
「違うよ」
そしてそれは、彼女も同じ。
最初の「好き」と同じように、さらりと言われたので反応が遅れた。
気がついた時には、もう既にだいぶ気が抜けていた自分の肩をルフィが伸ばした手で掴み、そしてウソップのパチンコのごとく飛んできた。
「ぐおっ!?」
あまりの勢いで思わず声を上げて、倒れるローの上に馬乗りになり、ルフィは彼を見下ろして言う。
「わたしは、わたしの意志でトラ男が好きなの。好きになりたい、恋したいって思ったから恋してるの!
神様とか運命とか、そんなの関係なくわたしの意志でパンクハザードに来たし、トラ男と同盟組んだし、組む前から四皇は倒すつもりだった!
『わたし』は、訳わかんなくても『わたし』の意思でトラ男が好きなの!!」
意中の相手を押し倒して、恋してると訴えているのに、やはり色気皆無な状況にもはやローは呆気に取られる。それしかできない。
それでも、彼の腹の上の女はまだまだ言葉を続ける。
運命を否定し、自由に心の赴くままに行動する女は、もう何度目かもわからない言葉をローに捧げる。
「トラ男、大好き。愛してるよ!」
その言葉は聞き流せなかった。
向日葵のような、光そのもののような笑顔も、無視できない。
だって、それはーー
『愛してるぜ、ロー』
大好きな人とあまりによく似ていたから。
「……トラ男の顔が赤くなった!」
「よくやったわルフィ!そのまま胸を押しつけてやりなさい!」
「パンツを見せて差し上げるのはどうでしょう?」
「いやナミ、ブルック、あいつは多分色気で押すより、こう庇護欲を刺激した方がいいタイプだ。だからほっぺにチューあたりから……」
「え?チューって人間が結婚する時にやるやつじゃないのか?」
「こらこらお前ら、もうこれ以上は野暮ってもんだ」
「そうね、あとはもう二人っきりにしてあげた方がいいわ」
「あ"あ"あ"!!うらやましいぞこんちくしょー!!」
「「そこを替れでござるー!!」」
「ぐぅ」
「てめえら全員バラすぞ!!」
あまりに全員馬鹿騒ぎするせいで、すぐに頭から吹っ飛んだが。
ーー吹っ飛んだはずなのに、ずっとずっと覚えてる。
決して忘れられない顔と愛が一つ増えた。