惚気は酒の席ですべきものではない

惚気は酒の席ですべきものではない










https://telegra.ph/外堀は気付いたら埋まっているもの-09-19の続き


※ロードレークホーキンスが幼馴染

※ぬるいぐだぐだギャグ

※ルフィちょっぴりしか出てこないけどルホー










至急来られたし。


珍しく定時を少し過ぎた時間に上がれたと思ったらこれだ。スマホのロック画面に浮かぶ通知からアプリを開けば、ドレークからのメッセージと共に画像が表示された。

特に断る理由もない。古風な文面につられて承知と返し、目的地までのルートを頭に叩き込む。多分面白い事になってるんだろうなとは思うが、大惨事になってたら何も見なかったフリをしてさっさと帰ってやろう。いややっぱり引っ掻き回すだけ引っ掻き回して帰ろう。



ビールのジョッキを握ったままテーブルに突っ伏した男と、何とも言えない表情でピザをもしゃもしゃと咀嚼している男がいる空間は側から見れば大変愉快な光景だ。周囲が喧騒に包まれている中、咀嚼音だけしか聞こえない席など奇妙極まりない。今からそこに入ると考えなければの話だが。取り敢えずビールと案内してくれた店員に注文をし、空いている椅子に座った。

早々にビールが来たので、空いた皿とホーキンスが握り締めていたジョッキを下げてもらったが皿の枚数が人数に対して遥かに多い。一体どれだけ食べるんだお前は、底無しか。


「相変わらず燃費悪すぎるだろ、トガリネズミか?」

「は?人間だが?」


誰が2時間に1回は食べないと死ぬ生物だ。うるせえ皮肉だろ皮肉、人間なのは百も承知だそんなことは。

ドレークが健啖家なのは昔からだが、年々食べる量が増えている気がする。成長期はとうの昔に過ぎたのにも関わらず、太るそぶりどころか毎年の健診の結果はA判定、懸念項目は全く無しときている。健康優良成人が過ぎる。仕事柄色々とハードな点を差し引いても消費が摂取に追い付いていない筈であるが、人体に不思議なことが起きて全部筋肉に行っているのだろうか。これ以上ムキムキになるつもりか。一体どういうことだ、論文にして学会に発表してやろうか。


「…で、今日はどうしたんだコイツ」

「外堀埋められた上に既成事実を作られる寸前だったらしい………あっ、友人が」

「友人じゃなくて本人の話だろ」


いつまでそのバレバレの嘘突き通す気だ、相手の顔どころか身長体重既往歴まで知ってるんだぞこっちは。突っ伏したまま動かないホーキンスにヤジを飛ばすが全く反応がない。少しくらいは反応をして欲しいものだ。テーブルの上の置物と化してはいるが、呼吸も脈拍もしっかりとある上に体温も通常の範囲内にあり生きてはいるから良しとしよう。急性アルコール中毒でも起こしているのであれば論外だが。


「……婚約中またはこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為は処罰対象にならないこともある」


漸くテーブルから顔を上げたと思ったら幽鬼の様な面をし、呪詛の如くボソリと呟く。普段の物よりも低い、まるで地獄の底から聞こえてきそうな声だった。ホラーなら百点満点の顔と声だったが、やるせなさが滲み出すぎていてただ労しい感じになっている。何があった。


「何だいきなり」

「良く知らないが過去の判例らしい」

「へえ」

「その過去の判例と教えたヤツのせいで危うく一線越えさせられそうになったんだが…」


言葉に詰まった後目頭を押さえて俯いた辺り、取り敢えず大変だったらしい。「一線を越える」という点で察するに余りあり過ぎるため、絶対に内容は聞いてやらないし聞きたくも無いが。その前にホーキンスが詳しく言わないだろうし、万が一話そうととしてもドレークのむっつり野郎が鼻血出して倒れられても困るので止めるが。

青少年保護育成条例。既成事実。真摯な交際関係。未成年。処罰対象。一番最初は先日の招集の際に聞いた覚えがはっきりあるが、それ以外も何やらふんわりと覚えがある。しかし最近読んだ小説でも、母が毎週楽しみにしているドラマでも、妹が読んでいた漫画でもない。父と症例研究のレポートを片手に話し合った件では絶対にない。おそらく家庭内での出来事では無いだろう。職場でこの手の話題は上がらなくはないが、治療に関係あるならば聞かなくはないが興味は全くわかない。

ビールを流し込みながらそう言えば、とふと思い出した。ついこの間そのワードが含む会話をした。どういった経緯でそうなったのであったか。半分聞き流していたから詳細は思い出せないが、アレは好きな奴とずっと一緒にいるにはとかそんな話だったと思う。

それを確かにアイツと。…と言うことは戦犯は。


「…………あー…悪ィ、教えたのおれだ」

「テメェかァ!!!」

「うわ、元気になった」


幽鬼から般若になったホーキンスに胸倉を掴まれて揺さぶられていると言うのに、ドレークは呑気に塩昆布キャベツを口にしている。まあうまいよなそれ、気付くとなくなってるしな。コラさんは秒で完食する上に止めるまで永遠にそれ食べてるし、締めにもそれを頼むしな。

とは言え、止めるそぶり位はして欲しいものだ。スポーツ観戦じゃ無いんだ、早く止めてくれ首が締まる。


「…お前は後で強めに呪うからな」


キャベツを完食したドレークからのストップがかかった事で、首は何とか締まる前にどうにかなったが強めに呪われることが確定した。事態が事態なだけにややブチ切れ気味である。

以前の例から言うと事あるごとに小指を強打するか、肘を強打して痺れるなど地味に痛い呪いなどがある。怒りの度合いにもよるが、地味に痛い呪いシリーズを掛けられるのはごめんだ。


「脅迫を受けたんだが助けろ本職」

「本官は只今勤務時間外であるため介入致しません」

「警察仕事しろ」

「民事不介入です」

「面倒になると毎回言うなそれ…」


そもそもこれは民事不介入じゃねえだろ助けろ。やかましい己の所業で引き起こした事態だろ、諦めて受け止めろ。そう返されてはぐうの音も出ない。話半分で聞き流したり適当な助言をしなければホーキンスは一線越える寸前まで行くことも、自分が呪われることもなかったのだ。後悔先に立たず。



「…そもそもだ」

「おう」


ドレークからのストップが掛かったことにより、少々落ち着いたらしい。語気も表情もやや落ち着いたものとなっている。


「未成年云々と諸問題はそれなりにあるが、既成事実など無理矢理作らなくてもおれはあいつのことを愛し続けるつもりだ」


先程ので酔いが回ったのか目が据わり始めている。割合酒に強い方だが、疲労諸々で酔いが回るのが早かったらしい。それに伴い人相が少々悪くなったが、いつものことだ。

惚気とも取れる発言に、幼馴染2人は顔を見合わせた。こんな事言える奴だったのかという驚きと、本当にコイツはホーキンスか?と言う疑念である。しかしながら今回の話題が話題であるので本人なのは確かだ。ついでと互いの頬を抓って夢かどうか確かめてみたが、動揺で力加減を間違えて悶絶する羽目になった。


「…おいドレーク、面白いから証拠として残しておけ」

「さっきからしてる」

「流石だな」


こうなったらとことん楽しんでやろう。幼馴染の腹詰まりを他所にホーキンスの惚気は吐息のようにどんどんと口から溢れていった。


スマホの録画機能とボイスレコーダーを駆使し、アルコールが入ったが故の本音入りの惚気はしっかりと記録としてされた。一言一句たりとも逃すものかと腐心した結果である。素面に戻った本人は言った覚えてないとシラを切るだろうが、しっかりと証拠が残っているために言い逃れは出来ない。

面白いからコレは後で麦わら屋に聞かせてやろう。後日2人を呼び出して聞かせたところ、ルフィの嬉しさが天元突破した愛情表現が炸裂し、ホーキンスは羞恥心とルフィからの愛情表現の二つの意味でノックアウト寸前にまで追い込まれていた。コイツもこんな人並みの反応が出来るんだな、と少し感心したのは秘密だ。




その後ドレークは脛と足の小指を、ローは脛と足の小指と肘を強打する日が1週間程続いたのは言うまでもない。












おまけ




「そういや外堀はどの程度埋められてたんだ」

「聞きたいのか?」

「少しばかり興味がある」

「後学のために聞いておく」

「後学にするな、……まずおれの知らない内に二等親程度までの面通しが済んでいる」

「は?」

「そしておれの素行と身辺調査済みな上、趣味嗜好まで向こうの家族に把握されている」

「いきなり新ジャンルのホラーぶち込んでくるな」

「更に言うとおれは向こうの顔を今日まで知らなかった」

「シンプルに怖いんだが」

「あと高校卒業したら同棲の許可を得るのに話し合い後に殴り合いをしてもぎ取ってきたと」

「急にホラーからバトル物になるな」

「ジャンルの盛り方がB級映画みてえだな」

「…まあ殴り合いはともかく、お前も妹に恋人が出来たとか言われたら身辺調査とかは絶対やるだろ」

「可愛い妹が選んだ奴にそんな事絶対にやらねぇ………訳ないだろ!!」

「やらないと思ったらやるのか」

「やるに決まってんだろ」





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