情緒不安定
グエル♀の生理ネタです気をつけて…!「……ぁ?」
シーツが赤く染っている。ぐっしょりと、赤いシミが広がるソコに、うえ、と吐き気がした。きりきりとぐるぐる痛む下腹が痛い。どぷ、と下半身から何かが溢れ出したような気がして、ベッドから飛び起きては慌ててトイレへと駆け込んだ。
普段はミオリネの体調を管理するためのアプリを開く。このアプリに己の体調を記入するのは初めてて、吐きそうになる口を抑えながらグエルは今日の日付に雫のマークを付けた。知識は、ある。ずっとあった。自分にも元々あったものだ。でも、あの日以来、来たことがなかったものだった。ごうんごうんと回る洗濯機を、地べたに座り壁にもたれ掛かりながら眺める。ミオリネに口酸っぱく言ってるように、体を冷やさないようにしないとダメなのに、体が言うことを聞かす、なぜだか涙が止まらなくて、考えがまとまらない。震える手で涙を拭い、体を小さく丸めた。洗濯機の回る音と、自分の泣き声が共鳴するように部屋に響く。こわい、こわい、こわい、自分が怖い。かわってしまう、全部が、なにもかもが。
再び下半身から何かが溢れた気がして、グエルは下唇を噛みながら「早く終われよ」と声を荒らげた。
飲んだ痛み止めが効かない。
午前の授業なんて頭に入ってこなかった。痛みが酷すぎる。漸く鳴った昼休みを告げるベルに感謝を捧げながら、グエルは深いため息を吐いた。
座ってると気持ちが悪く、立っていると目眩がする。体がバカになったみたいで、正直もうお手上げだった。用意していた用品ももう底を付きそうで、グエルは無言で購買に向かう。種類や質感などどうでも良く、適当なものを手に取り金を払う。ミオリネにはちゃんとしたものを使いなさいと言いながら、自分はこの体たらく、笑えてくるなと自傷気味にトイレに籠った。ショーツを下ろせば先ほど替えたばかりなのにもう赤く染ったそれがあり、下ろした瞬間に臭う悪臭に顔を顰める。素早くそれを丸め、消臭が着いた箱の中に入れては新しく買ったソレをショーツに張りつけた。トイレットペーパーでできる限り、赤が消えるまで拭い、ウォッシュシートでも拭ってはそれを赤く染った便器の中に捨てた。再びショーツを履いては水を流す。立ち上がった瞬間にふらりと目眩がし、狭い個室の中でガン、と頭をぶつけた。いたい、と小さく声を出せば外から「大丈夫ですかー?」と声がする。こんこん、とドアをノックされグエルは慌ててドアを開いた。
「あれ、グエぴじゃん、だいじょぶ?」
開いたドアの向こう、こちらが誰か気付いた生徒が不安そうな顔でこちらを覗いている。大丈夫、と言いながらも下腹がちくちく痛み、無意識に腹を庇った。
「…あー…グエぴ、甘いの好き?」
「…きらいじゃ、ない」
顔を上げれない、今にも倒れそうになる体を無理やり支えていれば、彼女はグエルの手を取りそっとその手の中にピンク色の包み紙で包まれたモノを置く。きょとりとしていれば「気休めだけどねー」と彼女は笑う。
「甘いの食べると、ちょっと元気出るからさ。いちごミルク味、あげる」
「……ありがとう」
ぎゅう、と手の中の飴を握ればそーいう時はお互い様!と彼女は笑い、グエルに手を振りながらそのまま姿を消した。ぱたぱたと元気な足音を聞きながら、グエルは包み紙を開き飴を口の中に放り込む。口の中に広がる人工的な甘みに少し顔を顰めながらも、確かに気休めだが腹の痛みはどこかに行った気がした。
───
何事もなく終わった午後の授業にほっと胸をなで下ろし、グエルは決闘委員会のラウンジに足を向けた。教師から「暇なら持って行って欲しい」と頼まれた書類を届けなければならないからだった。正直断りたかったのだが、断って理由を聞かれるのも面倒だったので引き受けたが、間違いだったかもしれないとグエルは激しく痛み出した下腹に顔を顰めていた。午前よりかはマシになった用品替えだが、腹の痛みは午前以上で、ついでに何故か無性にイライラする。何にもないはずなのに目につくもの全てに当たってしまいそうで、自分はこんなに気性が荒かったのかと余計とイライラが募った。距離的に10分足らずで着くはずの決闘委員会ラウンジに、その倍の時間を掛けて向かう。定期的に立ち止まっては、書類を持ち直すフリをして痛みに耐え忍んで、漸くラウンジに着いた頃には痛みが限界突破していた。痛い。死ぬほど、痛い。もう一歩も動きたくない。しゃがみたい、痛いと喚き散らかしたい、じわりと視界が歪み、瞬きすれば涙が溢れてしまいそうで嫌になる。いつの間に自分はこんなに女々しいやつになったのだろうか。
「グエル?」
名を呼ばれ、無理やり顔を上げる。
「委員会に何か用?」
「…らうだ」
声の主の名前を呼ぶ。名を呼ばれたラウダは首を傾げながらどうしたの?とグエルに手を伸ばした。ひゅっと息を飲む。こんな体に、触れないで。
「触るな!!!」
グエルの悲鳴にも近い怒鳴り声と同時に、ラウンジのドアが開く。既に集合していた委員会のメンバーが目を見開いてこちらを見ている。咄嗟に口元を抑えるも、ラウダの酷くショックを受けた顔を見ては、グエルはふるふると首を振った。
「ちが、ちがうんだ、ちがう、おれ、きたないから、ちがう、ちがう、ごめ、ちがう」
「グエ」
「ちがう!!ちがうの!!!ちがうんだ!!!ごめ、ごめんなさい、ごめんなさいッ…!!!」
ラウダに持っていた書類を押し付けては、そのまま走り出した。ずきん、とより傷んだ腹にぼろぼろと涙が溢れ出す。どうして怒鳴ったんだろう、どうして触られたくなかったんだろう、ラウダに嫌われた、どうしよう、どうしよう、どうしよう!!あぁ!もう、全部嫌だ!!!全部全部、嫌で、嫌で嫌で!!走るグエルをみんなが見てる、見るなよ、なんでこっちを見るんだ、馬鹿じゃないのか!?八つ当たりにも近いぐるぐるとした感情を何処にもぶつけられず、グエルはただただ走っていた。
気付けば、人気のない場所に辿り着いていた。ぽたぽた流れる汗を手で拭い、適当なベンチに座り込む。座った途端、腹がぎりぎりと痛みだし、グエルは声にならない悲鳴をあげた。ベンチに足を乗り上げ、両膝を抱える。ミオリネの時はこんなだっただろうか。むしろ全然痛みがあったようには見えなかった。どちらかと言えばずっとお腹すいた!と言って何かしらシャディクに食べ物を買わせに行ってた覚えがある。グエルもミオリネに頼まれ間食できる料理を作っていたし、同じようにスレッタも余り痛みがある子には見えなかった。グエルだけがおかしいのだろうか、グエルだけこうなのだろうか。人それぞれだとは思うが、あまりの痛さにこの痛みは自分しか感じてないのではと思い出す。体をより丸め、息を吐く。じわりと脂汗が流れ出し、体が冷え始める。はぁ、と吐いた息は重く、視界もちかちかと点滅を始めた。今日1番の、痛みが襲う。
────あ、ダメだ。
ぷつりと、意識が途切れた。
───
初めて、真っ赤に染まったシーツを見た時、何かの病気なんだと怖くなって、ずっと部屋に篭っていた。怖くて怖くて、小さな部屋で毛布にくるまった私を、毛布の上から抱き締めた母は大丈夫よと宥めてくれていた。怖いよ、大人になりたくないと喚く私の頭を撫でながら、母はプロントに描かれた青い空のように優しい笑顔をしながら、そっと私の目尻にキスを落とした。
「大人になるのは怖いけど、悪いことばかりじゃないのよ?」
「ほんと?」
「ええ、だって」
大人になったから、母さんはグエルに会えたんだから。
懐かしい夢を見だなと、グエルは思った。
ぱちり、と目を開く。
シミひとつない綺麗な天井が目に映り、グエルはゆっくりと体を起こした。──起こした?当たりを見渡すと自分はどうやらベッドで寝ていたらしい。何故?ふわふわの、真っ白なベッドの上で………嫌な予感がして、勢いよくがばりと布団を捲る。シーツは赤色に染まっておらず、グエルはほっと胸をなで下ろした。よかった、汚れてなくて、ほんとうに。体から力が抜け、そのままベッドに倒れ込んだ。なんだかとても眠い、もう1回寝てしまいたい。ごろりと体を横に向けて、グエルは目を見開いた。
真顔の、ラウダが、こっちを見ている。
「────ッ!!!!!!」
悲鳴にならない悲鳴をあげ、飛び上がりかけるグエルをラウダの腕が押える。そのまますっぽりと腕の中に引きずり込まれては、ぎゅぅと抱き締められぽんぽんと背中を撫でられた。
「ら、うだ」
「なに?」
何ではない。少し体を動かし、上半身を起こしてはグエルはえっと、と居心地悪そうに目を逸らした。というか、ここはどこだ。自分はどうしてラウダと寝ている?言いたいことは沢山あるが、上手く言葉が紡げず、あ、だとか、う、だとか、そんな言葉しか出てこない。そんなグエルに、ラウダも同じように上半身を起こしてはグエルの頬に手を伸ばし、優しく撫でた。
「大分、顔色が良くなったね」
「あ」
「よかった」
優しく微笑むラウダにぐしゃりとグエルの顔が歪む。じわりと鼻の奥が熱くなり、視界が歪む。ラウダのぎょっとした顔により涙が溢れた。
「グエル、そんなに泣いたら溶けてしまうよ」
「ぅ、う゛〜ッ…うぇ…あ゛〜〜……」
泣き続けるグエルを抱き締めては、ラウダは頭を撫で続ける。ひぐひぐと子供のように泣き続けるグエルに動揺しながらも、ラウダは彼女が泣き止むまで何も言わずに腕の中で好きなだけ泣かせてやるのだった。
漸く泣き止んだグエルは、ぼそぼそと自分の今の現状を伝えた。そんなグエルをラウダは何も言わずに手を握りながら優しく相槌を打ちながら聞き続ける。
「ずっとしんどかったんだね」
「うん」
「辛かったんだ」
こくりと頷くグエルに「言ってくれてありがとう」とラウダは言葉をかける。グエルはふるふると首を振って、おれそこ、と言葉を続けた
「さわるなて、どなって、ごめんなさい」
「気にしてないよ、気が立ってたんだろ?」
「ち、がう…俺の体、汚いから、触って欲しくなくて」
「グエルは汚くないよ」
本当だろうか、汚くないだろうか、こんな体、気持ち悪くないだろうか。ぐるぐると再び考えが周りはじめては、グエルは自分の腹を抑えた。
「こわい、んだ」
「グエル?」
「なぜか、とても」
こわい、と呟くグエルを、ラウダは抱き締めたままころりとベッドに寝転がせた。目を白黒させるグエルの額にキスを落とす。ちゅっ、と可愛らしいリップ音を立たせ、負担をかけない程度に体を寄せる。
「らう、だ」
「怖いなら、怖くなくなるまで僕が傍にいるよ」
ラウダの鼓動が、鼓膜を揺さぶる。とくりとくり、と脈打つ心臓に、なぜかゆっくり瞼が落ちていく。
「起きたら、何も怖く無くなってるよ」
「らうだ」
「大丈夫、大丈夫」
「…ほんとう?」
「本当だよ」
起きたらご飯を食べに行こう。朝から何も食べてないんだろう?頭と背中に当たる優しい手が、暖かくて心地いい。瞼は重力に逆らえずぴたりと塞がれる。
「らう、だ」
「なぁに?」
「おれ…いい、ははおやになれる、かな」
「…なれるよ、僕が保証する」
「そ、ぅ…か…」
そうだと、いいな。ゆっくりと眠りに落ちたグエルの頬を撫でながら、ラウダはその寝顔に愛おしむように、再び口付けをし、同じように瞼を閉じる。次起きた時、グエルが不安にならないように、少し冷えた体を温めてやるように、布団を掛けてやりながらその体を抱き締めるのだった。