悪夢/温もり

悪夢/温もり


流血表現あり

コル×イス

コルテスがめっちゃ弱ってる





綺麗な神殿、窓から見える美しい夜景、どこか見覚えのある場所

気づいたらここにいた、流れに身を任すように先が見えない道を歩く、そして歩いたことを後悔した。

近づくにつれて静かだった外は騒音がなり始める。本能が止まれと告げているが歩くことを止めることは出来なかった。覚えがある、この場所は、この状態は、あの時の

呼吸と足が段々と早くなる、辿り着いた部屋の先にいたのは、血を流し倒れている彼だった。


彼の額からは赤い血が流れている/待ってくれ


彼が段々と冷たくなっていくのが手に伝わる/どうして


それは味わったことのある感覚で/やめろ


血は止まらない、止めることが出来ない/ふざけるな


彼の目から光が失われていく/置いていかないでくれ


何も出来ない/ムテスマ


外が明るくなっていく/やめろ


太陽が昇る、彼の体はもう動かなくなっていた。そして太陽の眩しさに焼かれるように彼の身体は崩れていく

かき集めてもかき集めても元には戻らない


そしてそのまま、彼の身体は何も残さずに消えてしまった。



「ムテスマ!!!!!」

そう叫んだ瞬間、視界には覚えのある部屋が映し出されていた。

息を整えながら周りを見渡す、間違いなくそこは自分の部屋だった

「…夢…か」

そうつぶやき額をおさえると手のひらには大量の汗がついた。

サーヴァントになっても夢を見ることがあるのか…と考えるがどうしても先程の夢の感触が拭えない

きっとあれは当時の記憶だ、夢の中とはいえ触れるわけが無い


血が止まらない彼を見てることしか出来なかった。

だんだんと体温が低くなっていく彼を見てることしか出来なかった。

治療を施したが、あの場で出来る治療など限られていた。

そして何より、彼に生きる気力がなかった。

「…………」

思考がまとまらず、本能のままに動く

服は乱れたままだったがそんなのもうどうでもよかった。

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こんな時間に歩き回っているサーヴァントは少なく、基本的に各部屋で休んでいる。サーヴァントに睡眠は必要ないが生前の習慣や気持ち的な意味で睡眠を取る者もいた。

イスカリは睡眠を取る側ではあるが毎日ではない、本を読んだりする方が有意義だと思っているため必然的に睡眠時間を削っている。

今こそ図書館から借りた本をこの時間帯まで読んでいたのだ。

「……」

ただしその本を読む行為は突然目の前に現れたエルナン・コルテスによって中断された。

「なんだ、こんな遅い時間に」

「…あー…ごめん」

「ごめんって貴様…待て、なんで裸足なんだ」

英霊になった後でも、普段から身だしなみを気にかけている男ではありえない行動だった。よく見ると裸足だけではなく、コートは着ておらず、シャツは乱れている。

何より、いつもヘラヘラと腹が立つほど笑っている顔からは想像できないほど顔色が悪かった。

「どこか悪い所でもあるのか?」

「…いや…ごめん…」

「何に謝ってるんだ」

「…何に、か…何にだろうね…」

辛うじて会話になっているが、コルテスは視線を合わせようとしなかった。

しばらくの沈黙の後、突然コルテスがイスカリの手を持ち上げ、自身の頬に当てた。

いつものイスカリならば払い除けただろうが、あまりにも弱々しいコルテスを見て行動に移すことが出来なかった。

部屋の外が冷えていたのか、コルテスの頬はとても冷たく、掌からその冷たさが伝わってくる。

「……良かった、生きてる…」

「…は?」

ようやく発せられた言葉にイスカリは驚いた。確かに顔は先程よりはマシにはなっていた。まだ完全に良くなった訳では無いが

「…あー、いきなりごめんね?…もう帰るからさ…」

「……」

そうしてイスカリの手を離そうとしたが、逆にコルテスの腕をイスカリが掴んだ。

「…えっと…ムテスマ?」

「…おい、こっちに来い」

「…え?」

そのまま、イスカリはコルテスの腕を掴みベッドに向かって引っ張った。そしてイスカリが胸にコルテスの頭を抱くように倒れる。予想外の出来事になすがままになったコルテスは混乱した。

「…ムテスマ…?一体何を…?」

「…確かに、僕はお前が嫌いだ…でもそんな死にそうな顔をしてる奴をほっておくほど腐ってはいない」

「…ははっ…君は本当に…優しいな…」

ドクン、ドクン、とイスカリの心臓の音と暖かい体温が、コルテスの冷えきった身体に染み渡る。それはイスカリが生きている証明だった。サーヴァントである以上この表現が正しいのかは分からないが、コルテスからするとどうでもいい事だった。

「今日はこのまま寝ろ、付き合ってやる」

「…ムテスマ」

「…なんだ」

「ありがとう…」

イスカリは返答はしなかったがコルテスの頭を優しく撫でた。子を寝かしつける親のようだな、とされている側にいるコルテスは安心したように笑う。

そして2人はそのまま静かに眠りについた。


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