悪夢
広場に向けて仕掛けられた砲弾は、時限式のものだったらしい。
王女の嘆きに呆然とする一味を、おれは少し離れた位置で眺めていた。
悪夢のような絶望の中に、それを生み出した男の名が響く。これが、クロコダイル。
ああ、だが。
あの鳥の能力者が、文字盤の開いた時計台に向かって飛んでいく。
巨大な砲弾をその脚でしっかりと掴んで、上へ上へと舞い上がる。
どいつもこいつも、なんだってんだ。
愛しているなら、遺していくことを選ぶなよ。
空を見上げたままの一味から離れ、力の限り走った。
うんざりなんだ。"こういう"結末には、もう。
ハートの海賊団船長、トラファルガー・ローは、非能力者である。
それはおれが、おれたちの夢を守るために掲げた秘匿だった。だから本当に限られた者たちの他には、誰にでもそう告げてきたのだ。艦の仲間にも、優しい弟弟子にも、麦わらの一味にも、ルフィにさえ。
治療棟の外では一度も、能力を使ったことなどなかった。使うこともないと思っていた。だが、だが。
何秒だ。あと何秒残っている。倒れる守護神の石像を飛び越え屋根の上へと駆け上がる。覚悟しろ。このおれより弱ェ奴が、死に方を好きに選べると思うなよ。
「ROOM!!!」
出力を上げ広げたサークルが上空まで届いた。間に合え。
「シャンブルズ!!!!」
倒れ壊れた像の首と、両翼を広げたままの能力者とを入れ替える。
砲弾の傍にはもう、あの誇り高き大馬鹿野郎の、アラバスタの守護神の姿はない。
直後、激しい爆風が尖塔を巻き上げた。足場にしていた屋根が崩れ、割れた窓の破片と共に地上へと叩きつけられる。身体が熱に焼かれ、片耳から音が消えた。
たった、それだけだった。
風が凪ぎ、広場に静寂が訪れる。
爆破は阻止された。この国は守られたのだ。
驚愕した様子で砂の上に翼を降ろしたままの男に、瓦礫の隙間から笑ってやった。
あんたにも、おれの秘匿の片棒を担いでもらうぞ。