悪夢
閲覧注意。
夢の中かつ詳細な描写はないけど陵辱シーンがあります。
無自覚なペパ先とむじゃきなアオイちゃん。
──悪夢を見るのは初めてではない。
必死に伸ばした手を振り払って消える両親の夢。
あるいは、自分が初めて作った料理を、親から省みられることはなく、温かいスープの湯気が消えてサンドイッチがパサパサになっていく夢。
ひでんスパイスを使ったサンドイッチをどれだけ食べさせても、マフィティフが弱ったまま、体が冷たくなっていく夢。
いつも途中で目覚めては、ベッドの上で飛び起きるのがペパーの常だった。
だというのに、今日の悪夢はなかなか終わってくれない。
「やだ、ペパーやめて、こんなのやだ……っ」
「おとなしくしろって」
ペパーの部屋のベッドに押し倒されたアオイが細い手足をばたつかせている。いつもの気丈な様子はなく、恐怖に顔をこわばらせ、大きな瞳に涙さえにじませて、ペパーを見上げていた。
アオイの力でペパーにかなうはずもない。簡単に両手首を一まとめにされ、のしかかられたアオイに強引に口づける。
(やめろ)
ペパー自身、必死に念じているのに、夢の中の自分は、ぷちぷちと乱暴にアオイの制服のボタンを外し、アオイの首すじに顔を埋めた。
吸いつくような肌の感触は知っている。柔らかな体温だって。
けれど、そういう意図を持って、ペパーがアオイに触れたことはない。あくまで親友としてのスキンシップ程度だ。なのに。
「……ずっとこうしたかった」
唇で肌をたどり、華奢な鎖骨を舌で舐めながら、夢の中の自分は勝手なことを言う。
「ひ……っ! ペパー、やめて……っ」
「やめない。だいたい、オマエが悪いんだぞ? ひとりでオレとマフィティフの巣にのこのこやって来て」
そんなわけがあるか、とペパーは夢の自分相手に喚き散らしたくなる。アオイは異性であってもそれほどペパーを親友として信頼してくれているだけだ。そんな信頼を裏切る方が悪いに決まっている。
マフィティフ。コライドン。生徒会長でもボタンでも誰でも良い、とにかくこんな自分の行動を止めてくれ。そう願うのに、誰ひとりペパーの部屋に現れることはない。
ふ、とデジャヴを覚えたのはそのときだ。
こんなやり取り、見たことがあるような──。
そう、寝る前に読んだ、肌色の多い本の内容が、そっくりそのままだったような。
ペパーの意識が考え込んでいる間にも、夢の中の自分はどんどん手を進めていく。
パステルカラーの愛らしい下着をたくし上げ、あらわになったささやかなふくらみに口づける。やだやだと言っていたアオイが、次第に泣きながら甘い吐息をもらし始めれば、下肢へと手を這わせる。
「お願い、それだけはやだ、やだよ、ペパー!」
「こんなのにしといて、嫌だなんて説得力ねえよ」
笑いながら言葉でも辱め、泣きじゃくるアオイをそのまま力づくでねじ伏せてちいさな体を蹂躙しつくす。
──そんな、最低な悪夢を見た。
◆
「わ、すごい。今日は豪華だね、ペパー! なんか良いことあった?」
「ああ、珍しい食材が手に入ったんだ」
きらきらと目を輝かせながら、アオイがペパーの手元を覗き込んでくる。
ピクニック用のテーブルに並ぶのは、いちじくとクリームチーズ生ハムや、グリルした肉と野菜、カプレーゼの一口サイズのサンドイッチに、スープやサラダ、それからデザートのケーキだ。
無邪気に顔を綻ばせるアオイの様子に、じっとりと背中に冷や汗を滲ませながら、ペパーはあらかじめ用意しておいた理由を口にする。
ウソではない。わざわざマリナードまで朝イチで空飛ぶタクシーを使ってまで買いに出かけたのだ。
そうでもしなければ、アオイに申し訳が立たない。
(あの本はふういんしとかねーと……)
あれはペパーの趣味に合わなかった。だからあんな悪夢を見たのだ。
そうでなければ。
「アオイ、口の端にマヨネーズ付いてるぞ」
嬉しそうにサンドイッチにかぶりつき、舌鼓を打ってくれるアオイ。そのちいさな唇の端にマヨネーズがついていた。
きょとんと瞬いたアオイは、赤い舌先でぺろりと唇を舐めた。何気ない、幼いとも言える仕草だった。
なのに、ちいさな舌が白いものを舐め取って、ペパーと目が合うと恥ずかしげに目を伏せてうっすらと頬を染めている表情があまりにも扇状的で。夢の中で、嫌がっていたのに次第に快楽にとろけて行く顔と重なってしまい、ペパーの心臓が跳ね上がった。
──ずっとこうしたかった。
夢の中の自分のささやきがよみがえって、ぎくりと肩が揺れる。
もし、あの夢に、ほんのわずかでも、ペパー自身の願望が含まれているとしたら、それこそが悪夢に他ならなかった。