悪いオンナ

悪いオンナ


『私のモノになれよ』

『誰がなるかァ!寝言は寝て言えやカス!!』

『…相変わらず口の悪い女だな』

『好きに言え』


同期で牡馬三冠と牝馬三冠。

それが俺たちだ。

初対戦は3歳ん時の有馬で、そん時はクッソムカつくその牡馬に負けた。

『…ここまで私に食らいついてくる者は初めてだ』なんて言って近づいてきたソイツに『ぶち殺すぞテメェ…!』と低く唸ったのも懐かしい。


それから古馬になり、中距離路線にてソイツと何度か死合った。

2400mまでなら俺に勝ち目はあり、今までの勝負はちょうど引き分けで。


『俺と話す暇があるンならちゃんと集中しやがれ。

…これで最後なんだからさ、俺も、お前も』

『…嗚呼』


今日この日、この有馬記念で、俺とコイツは引退する。

『宿敵』最後のレースに観客のボルテージもうなぎ登りで、俺たちの方にも熱気が伝わってくるほどだ。


『​───────っ!』


走り始めて、ゾッとした。

おいおい、お前いつもは差しか追込みだろうがよ。

ベッタリと真横に張り付かれる走りに心臓が脈打つ。

慣れ切ったはずの重圧が、今まで手を抜いていたのかと思うほどに吹っかけられ、気を保つためにガリ、と強く歯噛みした。

後ろからは何も足音が聞こえない。

俺たち二頭だけの世界。


『ぜっ、ぜぇ……ぜぇ…ごふっ』

『ふー…っ、ふー……かふっ…ゴホッゴホッ』


心臓も呼吸もバカみたいにハイテンポになって。

並んだまま最後まで走りきったソイツと共に息を整える。

どっちが勝った?なんて言う暇もないほどにただ今は、


『…なぁ』

『……ンだよ』

『キミと出会えてよかった』

『…ハ、メロドラマみてぇなこと言いやがって』

『めろ…?』

『いや、いい。こっちの話だ』


本当にメロドラマみてぇ。

観客の大歓声に巻かれて、…ならこれが舞台の最終局面ってか?

そんなことを考えながらじい、と目の前にいる存在を眺める。


『なんだい、私に見惚れでもしたかい?』

『…あぁ、』


飴のようにコロコロと舌の上で言葉を遊ばせる。

俺の肯定の言葉に鳩が豆鉄砲食らったような顔をする相手にクツクツと笑えばムッとされて、


『や、やっぱり冗談だったのか!?』

『…ン、いやぁ?冗談じゃねェよ?』


一瞬憤慨しかけた癖に近づいただけでビクつきやがって。

意外とウブなのかもなぁ、と思ったがすぐに言葉を出す。


『また逢おうぜ、色男』


なんて、な。


***


俺:

元ヒトミミ♂現牝馬。

血統悪めだが三冠牝馬になった。

見た目は可憐なくせに口が物凄く悪い。

ツンデレしてるだけで私のことは嫌いでは無い。どっちかというと好きな部類。

脚質は逃げ寄りの先行。

繁殖入り後は私と同期三冠配合される。


私:

三冠馬。良血。

カッコイイより美しいが似合う見た目。貴公子。

めっちゃ見た目可憐な癖に口が悪い俺にはじめは『なんだコイツ』していたが自分に食らいついてくる彼女をいつしか憎からず思うようになる。

けど俺には嫌われているんだろうな、と思っていたところでの今回なのでクッソドギマギしてる。

ちゃんと俺と同期三冠配合されるから安心しろよ!

脚質は追込み寄りの差し。


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