怪盗団 リリア誘拐編
___今日は上手くいった。そう思った時におれはもっと警戒するべきだったんだ。最初の案が上手くいくことは滅多にない。いつも5個6個の計画を立てて、それでもなにかイレギュラーが発生して…それが普通だ。なのにおれは油断した。
「リリアそこ右ね。ラン、カメラのハッキングもう済んだ?」
「もちろん。次のドアのロック解除も終わってるよ」
「2人とも、なにか嫌な予感がする……もう一回ルート確認してくれる?」
おれはもっとリリアの感覚を重く受け止めるべきで、このルートだけこんなに手薄な理由を考えるべきで、今回の獲物のルーツがおれ達より経験も勢力も何もかも上回った犯罪組織だってことを常に頭に入れておくべきで、
「ぁ"ぐ"ッ!?」
インカムからリリアの悲鳴が聞こえた時にはもう何もかも遅かった。
「おいリリア!何があった!?応答しろ!!ラン、カメラは!?」
「だめ、ハッキング返されてる!何も映らない!!」
「ッくそ、リリア!返事してくれ!!」
……リリアからの返答は無かった。
それから直ぐにおれと志貴は敵組織の情報を洗い直して周囲のカメラのデータを解析した。そして調べれば調べるほどわかったのは、マズイ事態になったこと、時間が無いこと………そしておれ達じゃまるで太刀打ち出来ないってこと。
おれが悪い、油断したんだ。おれのせいでリリアが。何にもなかったおれに居場所をくれたリリアを、おれが。
「…ン、ラン!!しっかりしろ、まだ手は」
「ない、むりだよ、おれ達じゃあ敵わない」
「……は?諦めるのかよ!?ふざけんなよ、リリアは」
「諦めるわけないでしょ!!」
諦めるわけない、そんなの許さない。おれは、おれ達は絶対にリリアを連れ戻さないといけない。
そのために、そのためにおれの脳の全てを使う。落ち着け、冷静になれ。お前にはこれしかないだろう。全て失っていたお前には、これしか。
「……ペリゴール事務所。」
「え?」
「あそこならリリアを助けてくれる。機動力もパワーも経験も、おれ達に無いものも全部ある。だから……」
「っあぁ!早く行こう、今は少しの時間も惜しいだろ?」
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「えー馬鹿さんまた何かやらかしたのか?」
「めそめそ」
「めそめそしてもダメです、反省してください」
何やら賑やかな声が聞こえてくる。うん、大丈夫。彼等ならきっとおれ達を助けてくれる。志貴と目を合わせて深呼吸する。……よし。
チャイムを鳴らして中に入る。
「…君達が来るのは珍しいな、リリアはどうした?」
「そのことで来ました。……お願いします、リリアを助けてください。誘拐されました、ここにおれ達で調べた情報が入っています、おれが失敗したせいで、リリアが、だから」
あれ、おかしいな。さっき深呼吸したのに。口を付いた言葉が止まらなくて、志貴が心配そうにこっちを見てるのがわかるのに、どうしよ
「大丈夫だぞ!よく頑張ったな。……リリスさん、お茶お願いできるか?」
「もちろんよ」
大きな身体に抱きしめられる。イーグレットさんだ。志貴も一緒にぎゅうぎゅうされて、あはは、人肌って安心するな。
「USBお借りしますね。ルーズさん、僕解析して来ます。」
アカさん。同い年くらいなのに頼りになる。
「俺達に任せろ。必ず、このペリゴール探偵事務所がその依頼完遂しよう。おい馬鹿、早く立て。」
「わぁってるよ!いつでも行けるぜ」
ルーズさんに馬鹿さん。おれ達に微塵も不安を感じさせない表情で笑って………大人って本当に凄いなぁ。
おれ達も負けていられない。立ち止まってる暇なんてない。うん、頑張らないと。
絶対助けるから。待っててね、リリア。