忍者の告白

忍者の告白


 大した歳の差もないのに、一年生って可愛く見えるよな。不思議だ。そう思いながら乙夜は一年の教室の扉を開けた。昼休憩の最中。

「ちゅーす。お邪魔しまーす」

 すぐにサッカー部の後輩が寄ってくるので目的の人物を呼ぶように頼む。三年生が急に教室に現れて、後輩たちは少しばかり緊張しているようだった。そんなに緊張しなくて良いよと示すように目があった適当なやつらに手を振ってやったりピースしてやったりしていると、次第に後輩たちの緊張も解け、教室にざわめきが戻ってくる。

 そして目的の子はすぐにやってきた。中学校からの後輩。話したことはあったが、ほとんど接点はない。今も何のようだろうかと頭を捻っている女の子。

 周囲がひそひそと声を潜めながら乙夜たちの方を注目している。まあ、男子生徒が女子生徒を呼び出してすることなど限られているだろう。

「俺と付き合ってくれない?」

告白だ。

「えっと、それは恋人的な意味でよろしいでござるか?」

「うん。ダメ?」

 乙夜は流石に緊張して、項を掻いた。成功率は高いと踏んでいるが、それでも人の心には万が一ということがある。ここで断られてしまったら任務のために作戦を練り直す必要がある。しかも次は一回目の告白とは勝手が違ってくるだろう。それは避けたい。

「拙者、あまり恋人付き合いはわからないでござるが……よろしく頼むでござる」

「ありがとう。これからよろしく」

 手を差し出して握手をする。彼女は遠慮がちに握り返してくれた。固唾を飲んで様子を伺っていたらしい周囲がワッと声を上げて、何故だか拍手まで起こった。ノリが良くて結構だ。

「今日、一緒に帰れる?」

「大丈夫でござる」

「んじゃ、終わったら迎えにくるから待ってて。お昼中にごめん。また後で」

「また後ででござる」

 彼女は自分の席に戻って行って、それから女子に取り囲まれていた。これから質問タイムだろう。周りの子たちの目がキラキラを通り越してギラギラだ。大変そう。自分が原因だということを棚に上げて独り言つ。

 展開についていけていないのか目を白黒させている部活の後輩にご苦労様、と手を振って、乙夜は一年の教室を後にしたのだった。

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