心も体もあたたかくして

心も体もあたたかくして




「っくしゅん!」


「大丈夫?シュヴァルちゃん」


「……うん……ちょっと……その……くしゃみが出ただけ……だし……」


それだけだから……というだけの事で、寒い事に変わりは……ない。

ここ数日は寒さがひかえめな日が続いていただけに、その……正直今日の寒さは、身にしみる。


「キタさんこそ……その………寒くないの?」


「え?うーん……もちろんへっちゃらな訳じゃないけど……でも!今のあたしにはそんな事吹き飛んじゃうくらい、楽しかった事があるから!」


そう言いながら彼女は、あたたかそうな手袋を着けた手でつかんでいる袋を、僕にも見えるようにかかげていた。


それは、今日の買い物の目的……キタさんにアドバイスを貰って……僕が選んだ、チョコレートだ。


2月が始まってから数日が過ぎて、もうすぐバレンタインデーが来るって、ヴィブロスも楽しみにしてて……僕も……その、日頃の感謝のしるしとして、家族やキタさんに……クラウンさん……それに、トレーナーさんにも……と思ってみたものの……やっぱり、手づくりはハイレベル……というか、ちょっと重い気がするし……もし食べてもらえても、美味しくなかったり……気を使わせたり……


なんて……いろいろ考えて、結局……市販のチョコレートを渡す事にしたものの、どれを選んだら良いのか迷っている僕を……キタさんが、助けてくれたんだ。


「キタさん……その、今日は……あ、ありがとう……」


「うん!シュヴァルちゃんがいいならあたし、ドンドン手伝っちゃうからね!」


「うん……ありがとう……キタチュン!!」

「!!シュ、シュヴァルちゃん!今!」


「……え?」

「今、あたしの事……"キタちゃん"って!」


「……あ」


今、僕は……キタさんを呼びかける時に、つい……くしゃみをしてしまって……それがきっと、キタさんには、"キタちゃん"って呼んでるように……


キタさん……すごく、喜んでる……何か、悪い事した……みたいだ……


「あ、いや……ご、ごめん。その……今のは……そ、その……く、くしゃみ……で……」


「あ……そ、そっか。ごめんね、あたし舞い上がっちゃって……」


「う……いや……僕の方こそ……」


なんだか、少し……気まずい……


「でもシュヴァルちゃん、そんなにくしゃみしちゃうなんて、あたたかくしないとダメだよ!」


そう言ってキタさんは僕にマフラーを巻いてくれた。キタさんの、マフラーだ。


…………あたたかいな。


「あたし、明日も、明後日も元気なシュヴァルちゃんとお話したいから!」


………キタさんが喜んでくれたら、このあたたかさを、返せる……かな。


「うん……ありがとう……その……キ、キタ……"ちゃん"……また」


「!!!うん!シュヴァルちゃん!また明日!!」


また明日、元気な僕と、元気なキタ……ちゃん……と……まだ、言い慣れないや……まだしばらくは……キタさんの、ままで……


……やっぱりキタさんのチョコレートとか、改めて、僕だけで、選びに行こうかな……






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