【微閲注】藤の湯けむりにさす茜
蒼石ナツメ“なんと言うか、凄いなぁ……”
“ここまでのお風呂は旅館ぐらいでしか見た事がない……”
せんせぇがお風呂場でなにか呟いてる声が聞こえるけど、正直ボクはそれどころじゃない。マナー違反だからってバスタオル巻くのも許されなかったし、着替えにって持たされた浴衣はいいけど下着は黒のレースでやたら気合入ってるし……
「ナツメさん、早く入らないと風邪をひいてしまいますよ?」
うぅ、お母様はイジワルです……
早鐘のように鳴る心臓を何とか押さえつけて、そっと浴室の引き戸を開ける。湯気と共にふわりと漂うヒノキの香りで、幾分かボクの心も落ち着いた……ような、気がする。
しっ、失礼します……
“ナツメ?早かっ……わーーー!?前!前隠して!”
ボクだって隠したいですけど手ぬぐい1枚じゃ無理ですぅっ!!早いとこかけ湯してお風呂に浸かっちゃわないと、恥ずかしいやら寒いやらでおかしくなりそう……!
ふー……あの、せんせぇ?何でさっきから反対向いて……?
“いや、その……あんまりにも、あんまりで……”
……すいません、貧相な身体で……
やっぱり、アスナちゃんみたいにお胸が大きかったり、ユウカ先輩みたいに柔らかそうな身体つきだったりした方がいいですよね……
“違う!”
ひゅいっ!?
“ナツメはとっても魅力的だ、私が保証する。反対向いてたのは、その……目に毒だったから、というか。”
めにどく。メニドク?なにかの食べ物?なんてアホなことを考えてる間に、せんせぇはどんどん顔が赤くなって。
“……その、ナツメがえっちだったから……何かあったらダメだと思って……”
そんな事を、ぼそりと呟いた。
あぁ、この人はどこまでボクを夢中にさせたら気が済むんだろう。
何かあったら?せんせぇになら大歓迎だ。それどころか、それを言うならボクのほうがまずい。今すぐにでもせんせぇを押し倒してしまいそうな本能を必死に理性で抑えつけて、素知らぬ振り。
でも、せんせぇがこんなふうに思ってくれてたなら……もう、いいよね?
はーーーっ……せんせぇ?
“ご、ごめ……んむ!?”
せんせぇの頬を両手で包み込み、そっと唇を触れ合わせる。フリーズしたせんせぇに構わず、ボクの中で燃え上がる熱を共有するように。数秒か、数十秒か。はたまた数分か。再起動したせんせぇも、一瞬息継ぎをしてからまた唇を食む。
そんな事を繰り返すうちに、ボクもせんせぇも軽くのぼせて……2人まとめて、なぜか用意されていたお布団に倒れ込む羽目になったのは、また別のお話。