【微妙に他作品ネタ注意】絶望の底で見た光

【微妙に他作品ネタ注意】絶望の底で見た光


推奨BGM:訪れる悪夢(出典:蒼き雷霆ガンヴォルト)


「…二人とも、良く黒髭とロクスタを倒してくれたね。ありがとう、それとごめん」


最初の歪みは、そんな言葉から始まった。


「オレは、クロの側につく」

「「マスター(さん)?」」


マスターさんから飛び出した、衝撃の一言。それにミユ共々愕然とする。

まさか、クロに攻撃されるのも承知でここまで来たのは、最初からわたし達を裏切る目的で…?


「マスター、何故…?」

「何故? それは、クロの夏を台無しにした美遊達が一番よく知っているだろう?」

「な…」

「『クロが迷惑をかけた』、だって? …冗談じゃない。迷惑をかけたのはオレ達だ! オレ達全員がクロを苦しめ、彼女の夏を台無しにした!!」


人が変わったように叫ぶマスターさん。その表情に滲むのは、サバフェスに対する憎悪と……クロに対する後悔のように見えた。


「全員が好き勝手に動いて、そのしわ寄せがクロにいったのに誰もまともにフォローせず、こんな風になあなあで済ませようとして……ふざけるな!! 綺麗事を並べる裏でクロを犠牲にするサバフェスなんて、いっそ滅べば良い!!」

「そんな…!? マスターさんは、サバフェスを成功させるためにここにいるはずだよ!? クロだって…! それを無駄にするようなこと、クロが望む訳ないよ!!」

「そうです! 目を覚ましてください、マスター! マスターとクロが誰かの笑顔のため頑張ったと言うのなら、それを堂々と言うだけで良い! こんな、誰かの笑顔を奪うようなことはしちゃいけないんです!」

「───」

「「マスター(さん)!!」」

「───全員……笑ってる…」

「え…」

「マスター…?」


マスターさんがぽつりと呟いた言葉、その意味を図りかねたわたし達が聞き返そうとすると、マスターさんは激昂して叫んだ。


「クロの夏と引き換えに笑ってる! 何も知らずに一緒にヘラヘラ笑ってるッ!! 今のオレにとって、おまえ達の笑い声は軽蔑と嘲笑に聞こえる!! その笑いを、悲鳴と呻きに変えてやるッ!!!!」


憎悪と共に吐き捨てるマスターさんの姿が、黒い渦に呑まれていく。それが晴れた後にいたのは…。

※イメージ画像 出典:白き鋼鉄のX2

どこかクロを思わせる鎧を纏った、黒い騎士だった。


「なに、あれ…」

『この雰囲気、普通じゃないですね……もしやマスターさんも災害化してます?』

「でも、それならこんな攻撃的言動になるのも頷ける…!」

『! 来ます!』


サファイアの警告と共にマスターさんが突撃してくる。


推奨BGM:エクストリームビヨンド(出典:白き鋼鉄のX2)

※イメージ画像 出典:白き鋼鉄のX2

シールドを構えて、マスターさんが突撃してくる。他の人達は……駄目だ、クロから出てきたわたしの黒いのに手一杯だ! どうしていきなり数が…!?


「おまえを、裁く…!」

「やめてマスターさん!! こんな戦いになんの意味があるの!?」

※イメージ画像 出典:白き鋼鉄のX2

鋭く振り抜かれるシールドから放たれた衝撃波でダメージを負いながらも、なんとか叫び返す。


「おまえ達にはなくとも、オレにあるッ!! サバフェスという悪しき祭典の抹消……そしてッ! クロを苦しめた全てへの正当な復讐だ!! クロがオレにも死ねと言うなら、全てを終わらせた後喜んでこの命を捧げよう!!」

「言動がおかしくなってる…! いつものマスターじゃない!」


ミユが渋面を作る。マスターさんは、少なくとも人理修復という役目を投げ出すような人じゃない。それがこうまで変わるなんて……正直信じられない。

でも、クロという実例がそこにある以上、マスターさんがこうなってもおかしくはない…!

炎を纏ったシールドによるアッパーや、こっちを追尾するカーソルを紙一重でかわし、反撃の魔力砲でダメージを与えていく。


「ここでクロと一緒にサバフェスを潰しても、それが救いになんてなるわけ無い! それじゃあ、マスターさんとクロみたいな人を増やすだけだよ!」

「クロを苦しめた一人が、知ったような口を!!」


ミユが放った斬撃(シュナイデン)を、同様の魔力刃で相殺するマスターさん。何もかもが別物だけど、対抗できないレベルじゃない。


「それは、マスターさんの自己満足……ただの八つ当たりだよ!!」

「…っ! ああ、そうだ…そうだとも! これはオレの自己満足だ! オレのために、クロの分も苦しめ!! 悪しき祭典の狂信者達!!」

「っ…このわからず屋!」

「イリヤ、もう良い。今のマスターには、なにを言っても無駄」

「そうだとも! オレ達とおまえ達は、どこまでも相容れないッ!!」


シールドを構えたマスターさんのもとに、膨大な魔力が集まっていく。


「これって、まさか宝具!?」

「滅びの時だ…。セラフィックデス!! 貴様ら! オレに力を貸せ!!」

『ちょ、あれハワトリアにいるモルガンさん達から強制的に魔力を徴収してますよ!?』

『これが災害の力…! 聖剣並の攻撃が来ると予想されます! 美遊様、ここは一時撤退を!』

「駄目! それじゃあなんの解決にもならない!」

「そうだよ! クロをああしちゃったのも、マスターさんをこうしちゃったのもわたし達が関わってる! そこから逃げ出したら、わたし達は二人を見捨てて夏を楽しんだことになる! そんなの絶対駄目だよ!!」


けれど、そんな言い合いをしている最中にもマスターさんは魔力をチャージしていく。

モルガンさん、アルキャスさん、ハベトロットちゃん、バーヴァン・シーさん、バーゲストさん、メリュジーヌさん……いや、それだけじゃない。あれは多分、このハワトリアにいるカルデアのサーヴァント達から、少しずつ魔力を奪ってる。

そうして得た膨大な魔力は6枚の光の翼となった。天に飛び上がったマスターさんが、高らかに告げる。

「「っ…!」」

※イメージ画像 出典:白き鋼鉄のX2

「降り注げ、光よ!!」


ハワトリアのサーヴァント達を糧に得た七色の光は、まるで人類史の熱量を集積した魔神王の宝具のようだった。展開した障壁がいともたやすく吹き飛ばされる。

※イメージ画像 出典:白き鋼鉄のX2

「これで、滅びろォォォォ!!!」


こっちが遮二無二防御と回避をしようとした次の瞬間、黒い極光が視界を埋め尽くしていった。


───


───一面焼け野原となったダイヤモンドヘッドに、マスターさんの哄笑が響く。


「クハハハハッ!! 勝った! 勝ったぞッ! これがクロのための、復讐の第一歩だッ!! オレだけが、クロを…!」

「───まだだよ、マスターさん!!」

「何!? 馬鹿な!?」


マスターさんの頭上から放たれた魔力砲。マスターさんはそれをガードしたけれど、威力が強すぎたのかノックバックしてようやくガードに成功していた。

今のわたしの姿は、ツヴァイフォーム。かつてミユを救うために使った禁じ手を、今度はクロを救うために使用したのだ。


「美遊の……サファイアの力を使ったか! そうまでして許されたいかっ! そうまでしてクロを使い潰したいかッ!!」


仮面越しにも分かる程恐ろしい剣幕でマスターさんが叫ぶ。それはきっと、クロがわたし達にぶつけてきてもおかしくなかった激情だった。


「っ…!」

「お前達に、一人残らず罪を償わせてやる……必ずだ!!」


───


「ぐぁぁ…!」

「マスターさんを倒した…! これで…」


クロに同人誌を奉納できる……そう言おうとしたわたしの言葉は、予期せぬ事態によって中断された。


───その人に手は出させない!


「この声……クロ!?」


突然辺りに響く、テレパシーのような声。それが聞こえた直後、マスターさんに異変が起きた。

聖杯のような輝きがマスターさんを包んだかと思うと、その力を著しく増幅させて立ち上がってきたのだ。


推奨BGM:雷霆衝突(出典:蒼き雷霆ガンヴォルト)


「あの輝きは…!?」

「これは…なんだ? クロ、きみなのか? 同じ災害の力を操ったことによる共鳴? いや……クロの、聖杯の力なのか…?」


これは一体どういうことなのか。あのテレパシーは、正気のクロが発しているように思えた。

どうしてクロが、今のマスターさんを守るの…? わたし達の混乱など露知らず、マスターさんはどんどんテンションを上げていった。


「感じるぞ……これは、クロの力…。オレに味方してくれている…。クロはオレにお前達を倒せと言っている!!」


マスターさんが高らかに告げた宣言は、わたしを打ちのめした。


「うそ……クロ、そこまでわたし達が…?」

「現にクロはオレにだけ力を貸している! お前達はふたり寂しく、駄作でも書き上げているんだな!」

「くッ…!」


───


推奨BGM:長き夜が明ける(出典:蒼き雷霆ガンヴォルト)


「ハァッ……ハァッ…」

※イメージ画像 出典:白き鋼鉄のX2

マスターさんが地に膝をつく。お互いボロボロではあるけど、勝ったのはわたしだ。


「お願い、マスターさん……そこをどいて…!」

「駄目、だ…」


その懇願をはねつけたマスターさんは、這う這うの体でクロに近づいた。


「ここで、オレがクロを見捨てたら……クロは今度こそ、本当に独りぼっちになってしまう……もう、オレしかいないんだ……クロの頑張りを、苦しみを、分かってやれるのは…!」

「だからって、敵対する必要なんて!」


わたしの講義の声は無視された。もう答える余力もないのだろう。マスターさんの言葉は、朦朧とした意識の中こぼれるうわ言のようだった。


「そうだよな、クロ……頑張ったんだよな、苦しかったんだよな……ごめん……ごめんなクロ…。せめてオレだけでももっとしっかりしてれば、こんな目に遭わせずに済んだのに…」

───お兄、ちゃ…。


「クロ…?」


マスターさんとクロの身体が光に包まれ、元に戻っていく。

───これは、つまり。クロに届いたのは、わたし達が奉納しようとした同人誌ではなく、マスターさんの懺悔だったということだ。


「お兄ちゃんの、その言葉だけで……わたしは十分だよ…。わたしの夏は、始まる前から終わってたかもしれないけど……それでも、お兄ちゃんに頑張ったって認めてもらえただけで、わたしは十分だから…」

「…クロ…!!」


マスターさんがクロを強く抱きしめる。クロはそれに抵抗せず、ただ背中に手を回してそれに応えていた。


「…クロ、わたし達…」

「彼女に近づくな…ッ!!」

「「ぁ…」」


かつてない程に強いマスターさんからの拒絶に、思わずすくみ上がる。少し離れた場所にいたミユも同じようで、息を呑む音がやけに大きく聞こえた。


「マスター、さん…」

「まっ……まって…」


ふらりと、二人が立ち上がる。止めようとするわたし達など最初からいなかったかのように。

英霊達の身勝手が積み重なり、夏を踏みにじられた二人。その二人が、覚束ない足取りで何処かへと去っていく。


「…クロ、今年の夏は二人でいっぱい遊ぼう…。…何処に行きたい…?」

「……。…うん。わたしね、ずっとリツカお兄ちゃんと行きたかったところが…」


二人の呟きは、もうわたし達には聞こえなかった。遠ざかる二人の姿を、わたし達はただ立ち尽くして眺めるしかない。

───わたしには、二人が光に向かって歩いているように見えた。わたし達という絶望の中で見つけた、一筋の光に。

…そうして。二人の姿は夏の中に、陽炎のように消えていった───。


───


……

………


推奨BGM:復讐の銀弾(出典:蒼き雷霆ガンヴォルト)


「先輩…! どうか、どうか戻ってきてください! イリヤさんも美遊さんも、泣いて後悔しています! 復讐ならもう十分でしょう!? このままでは…!」

「───くだらないな。きみはまだあんなものに拘泥しているのか。…正常化委員会も、サバフェス参加者も、クロを苦しめる者は全てオレの敵だ。当然、きみもな、マシュ」

「先輩…!?」

「贖え、罪を…」


───歪みと悪夢は、まだ終わらない。


推奨BGM:断罪討滅(出典:蒼き雷霆ガンヴォルト)


To Be Continued…?

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