【微クロス】クロコダイルとダズのダブルス

【微クロス】クロコダイルとダズのダブルス




高校3年生(1年の時プロテニスプレイヤーだった)クロコダイルと中学3年生のダズがテニスでダブルスを組む話です。

テニスの王子様的世界観なのでクロスオーバーかも・・・・・・?ですがあちらの方のキャラは出ません。




 ダズ・ボーネスが通うテニススクール、「バロック・ワークス」にはある噂があった。それはこのスクールで指導を担当している男はオーナーではなく、本当のオーナーは別にいるというものだ。この噂がいつから出たものかは定かではないが、囁かれる理由はわかっている。

 このスクールに、元プロテニスプレイヤーであるクロコダイルが出入りしているのを見た者が複数いるからだ。こう言ってはなんだが、現在の指導者はとてもプロと呼べる実力は無い。そんな男がクロコダイルに何を教えるというのか。だからこそ、このスクールにはクロコダイルがわざわざ訪れるに足る何かがいるのだ、ともっぱらの噂である。

 ダズが学校の部活ではなくこのスクールに通っている理由もそこにある。かつて目にした、あの心踊る試合。命の取り合いと見紛うほど激しく振り下ろされるラケット、コートを抉るようなスマッシュ、そして───故意に肘を狙った、避けようのないダイレクトショット。

 確かに実力者同士の勝負だった。それでもやはり、実力に差があった。この点を決めれば彼───クロコダイルの勝利、ボードに並ぶ2セット目の7-5、6-4、そして新たに書き込まれるはずの6-0。

 善戦はしたものの1ゲームも奪えなかった、そんな事実を受け止めることができなかったのだろう。最後のゲーム、対戦相手はわざと手を抜いてクロコダイルが落胆し、集中を途切れさせるのを待った。

 あのとき会場に響いた鈍い音も、悲鳴も、ダズは忘れることはないだろう。人生で初めて抱いた憧れが、目の前で崩れていく様を。

 表舞台から姿を消したあの男をそれでも追って、今ダズはこのスクールに通っている。ここならば、彼に近づけるように思えたから。



「道場破りだァーーーーー!!!!!」

 規則正しいラリー音を1人の男の大声が遮る。開け放たれたドアから陽光を背に受けたその男は、混乱する生徒に次々と勝負を仕掛け、これまた次々と勝利を収めていった。一体どれほど体力が有り余っているのか、いくら戦っても男が止まることはない。

「───ッ痛ッッッ」

 戦う気もないのに戦わされたからだろうか、1人の生徒が乱入者のスマッシュによってラケットを取り落とした。

「あっ悪ィ!大丈夫か!?」

バァン!!!

 無法の乱入者が駆け寄るよりも早く、スタッフルームの扉が蹴り破られた。

「テメェうちの生徒に何しやがる!!!!!」

 そこには、憧れに焦がれた男、クロコダイルが立っていた。

「クロコダイル!?」「嘘っあの噂本当だったの!?」「本物だ!」「でもあの腕って」「まだテニスやってるのか!?」

 口々に驚きの声が飛ぶのを意に介さず、クロコダイルはラケットを取り落とした生徒の腕を確認する。そして大きな怪我がないことを確かめると、今日はもう帰れ、と言い乱入者に向き直った。

「裏で見てりゃァなんなんだテメェは。うちのモンに手ェ出したんだ、落とし前はつけてもらおう」

「あいつ怪我とかしてなかったのか!よかった〜。・・・・・・お前がここで一番強いやつだな!おれはルフィ!よし!勝負だ!」

 クロコダイルが青筋を立てているのも気にせず勝負を申し込んだ男、ルフィは先ほどまでの連戦はなんだったのかストレッチを始めた。それを見て顔を歪めたクロコダイルの目は───ダズが焦がれる、好戦的な炎を揺らめかせていた。

 ああ、この人はまだ・・・・・・!

 かつての利き腕を封印したクロコダイルは、それでもなお色褪せない実力を持っていた。いとも簡単にルフィを退けると、呆然とする生徒たちにただ一言。

「邪魔したな」

 というたった一言を告げて奥に戻っていった。

 自分たちはあのクロコダイルのいるテニススクールに所属しているんだ、という事実だけが残る。そしてその事実は、生徒たちのやる気に火を灯した。メキメキと実力を伸ばし競い合い、いつか自分も、あの人のように強くなりたい。そんな思いで全員が練習に打ち込んだ。

 そしてまた

「頼もーーーーーーーー!!!!!」

 先日の道場破りが乱入してきた。今度は生徒誰もが気を抜かずに立ち向かい、されど道場破りというだけあってルフィは強い。半分ほどが地に伏したとき、再びクロコダイルが現れ撃退した。

「また来る!」

 そう元気に言い残したルフィは、もしかしてクロコダイルに勝つまで来るつもりなのだろうか?

 その通り、彼は三度目の正直と言わんばかりにまたやってきて雄叫びを上げた。

 しかし二度あることは三度、というようにはいかなかった。

 対戦するたびに相手の弱点をつき鋭くなる打球、どこで学んだのか緩急を織り交ぜて相手を翻弄する試合運び。そして何より、テニスが楽しくて仕方がないと言わんばかりの、底抜けの集中力。

「げ、ゲームセット!ウォンバイ、ルフィ!!!」

 審判役のトレーナーの声が響く。

 静まり返る中に一つ声が落ちる。

「お前が本気で戦えるようになったら、また来る!」

 にししっと笑い、ルフィはスクールを後にした。彼の身につけた実力は、クロコダイルが本来の実力を発揮できていないことも、クロコダイルが本気で勝負したいと願っていたことも見抜いていたのだろう。

 バツが悪そうに頭を掻いたクロコダイルの顔は伏せられていたが、ダズには何故だか、笑っているように見えた。

「ダズ・ボーネス」

 急にクロコダイルから声をかけられ、ダズの体が思わず跳ねる。

「何か」

 憧れの人と初めての会話、緊張して声が震えてはいなかっただろうか。そんなダズの不安などサラッと素通りしたクロコダイルは、ルフィに負けず劣らず自由な男かもしれない。

「おれとダブルスを組め」

 いつも引き結んでいたせいでいつの間にか力の抜き方も忘れていたダズの口が、あんぐりと開かれる。まさに予想外。

「おれはダブルスをやったことがない、他を当たってくれ」

「なんのためにおれがこのスクールを開いたと思っている。ダブルスでも個で戦い抜く力は必要だ」

 テメェがここの壱番だろう。

 すとん、と胸に言葉が落ちる。

 憧れに近づくために入ったこのスクールは、憧れの隣に立つことができる唯一の場所だったらしい。その中で、自分が壱番。自分は彼に選ばれた。

 誇らしさと達成感とほんのわずかな気後れと、そんなことも無視する言葉。

「明日からテメェはおれと別メニューだ。いいな」

「‥‥‥了解した」

 ハッと一つ笑いながらいつものように奥に戻っていくその背中は、いつもよりも大きく高い壁に見えた。しかしその壁は見上げるものではなく、これからダズが並び立つ壁なのだ。より研鑽を積んで、いつか彼の、腕の代わりとなってともにコートを駆けよう。


 その日ダズは遅くまで練習をして帰り、翌日「おれの出したメニュー以外はやるな」「ただガムシャラにやりゃ良いってモンじゃねェ」と盛大に怒られた。

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