徒花と咲く松虫草
※概念を寄せ集めて書きたい所だけ書いた駄文です。
※捏造妄想解釈等があります。
※自分で「この人はこんな言動するか?」と悩みながら書いた為に人物像のブレがあります。
何でも許せる方だけお楽しみ下さい。
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「真人先輩……だよね?」
「……ああ、虎杖。久しぶりだね」
幾分か容姿が数週間前との記憶とは異なっているが、身体中に刻まれた継ぎ接ぎが同一人物である事を証明していた。
あの何処までも澄み渡る青空の様だった髪が、今は亡き禪院真希と禪院真依の髪色と酷似していたのだ。
「あの……さ。一応聞くけど……呪詛師になって、高専から離反したってマジ? 禪院家を壊滅させた後、一般人を手当たり次第に改造しまくって、術師とか見境無く殺し回ってるって」
「惜しい、95点だね」
「……後5点は何?」
「俺は呪詛師じゃない。……“呪い”になったんだ」
「…………何でだよ。何で……そうなったんだよ」
胸が締め付けられる様な気持ちだった。予め、仲間から事の詳細を聞かされていた。それでも、何処かでは納得ができないでいた。
何かの間違いではないのかと、誤解されているだけでは無いのかと、何処かで希望を持っていた。
どんなに受け入れるしか無くても、虎杖にとって真人は追い続ける背であってほしかった。
あの日の渋谷が、鮮明に脳の髄に焼き付いている。因縁の特級呪霊を前にして魂が折れそうになっていた虎杖に、東堂とは別で怒涛の正論を浴びせながらも、結果的に立ち上がらせてくれた事を。
それが今、無辜の人々を見境無く改造しては手駒に納めている。
手当たり次第に呪霊を祓い、人間を殺し、建造物を壊し続けている。
気が狂っているとしか思えない。現に今も、心ここに在らずと言った態度だ。
他人に勝手に理想を追い求めるのは無粋な真似だ。分かってはいても、怒鳴れずにはいられなかった。
「何で無関係な人達を改造したり殺したりしたんだよ!! 今まではそんな事する奴じゃ無かっただろ!! オマエはなんなんだ!! 真人!!」
「ッ……!!」
一瞬、返答に間が開く。顔が前髪に隠れてしまい、表情が窺えない。何を答えるのだろうかと考えた束の間。
「デケェ声出さなくても聞こえてるよ!! 虎杖悠仁!!!」
虎杖と同様の声量で返答される。抉られた胸を強く抑えるようにして叫ぶその様は、本当に苦しんでいるようにも見えた。皮肉な事に、あの日の吉野と姿が被った気がして、虎杖は歯痒く思う。
「全て壊すと決めたからね。残念だけど、もう人殺しを悪い事だと思う事はないよ。なぁ、虎杖悠仁。オマエは祓った呪いを数えた事はあるかい?」
「……無ぇな」
否定する材料が見つからない。別に否定する必要もない。あの日に呪術師として、淡々と呪いを祓い続ける事を己の指針にしたのだ。それこそ、何かの小さな歯車に過ぎなかったとしても。
「無いよな、俺もだよ。今まで祓ってきた呪霊の数は勿論、殺した人間の数もマジでどーでもいいもん。お姉ちゃん達が俺の人としての在り方を持っいっちゃった上に、俺に一つ約束してきたからね」
真人は仕方がなさそうに笑う。それでいて愛しそうに、且つ寂しそうに笑いながら小指を立てる仕草をした。
「“全部壊す事”、それが約束さ。だから、決めたんだ。俺達が育った禪院家も。呪いの根源であり、嘗ては仲間でもあった人間も。今では同類に該当する呪霊も。何もかも破壊する」
真人は淡々と述べながら、右腕を棘の付いた鎌に変形させていく。左手の指に挟まるものは、三つの小さな改造人間。正に今、呪い合い(戦い)の火蓋を切ろうとしている。
「だから……オマエの事も直に忘れるさ」
真意の読めない、絵に描いた様な軽薄な笑顔。その裏に潜む、ドス黒く濁ってしまった強さ。今の真人の等級は、間違いなく特級に値する。
ここに来て、明確に己は祓われる存在であると宣言した。
できる事なら聞きたくなかった、断定したくなかった、せざるを得ない訣別。
(俺にとっては、ずっと恩人の一人だ。心から尊敬できる先輩で、それでいて友達のような人だった)
瀕死の友を助けてくれた人。
己を指南してくれた人。
親身に接してくれた人。
共に死戦を潜り抜けてくれた人。
(けどもう、あの人は呪いになったんだ。泣くな。怒るな。呪術師として覚悟を決めろ、虎杖悠仁!)
そう己に言い聞かせると、魂を奮い立たせる為に大声を張り上げ、強大な呪いに立ち向かう。
今此処で、決着を付ける為に。
「ブッ殺してやる」
「“祓う”の間違いだろ、呪術師!!」