後日譚【手続き】④−1

後日譚【手続き】④−1



[エンジニア部 部室]

 39号「「……は、初めまして…!」」

眼前に佇む四人。記憶には無くとも、『作られた者』として直感的に理解できるものがあった。

エンジニア部であり、量産型アリスの発明に携わった張本人たち───部長の白石ウタハさん、部員の豊見コトリさんと猫塚ヒビキさん。そして、そこに従事する4号お姉様。まさに、量産型アリスという存在における生みの親と言ってもよい人たちだ。

その顔ぶれに少なくとも私は、緊張や焦りでいっぱいだった。話すこともあったはずなのだが、すぐに頭に浮かんでこない。アリスちゃんも少々どぎまぎしているようだ。

ドーーン!ドカァァァン!!

エンジニア部員「そんなぁ!また失敗だー!」

量産型アリス「うわーん!部品サイズの測量は完璧だったはずなのに!」

そうした作業音…?が、鳴り響く中───

ウタハ「ここで立ったままも何だし、少し場所を変えようか?」

その提案に頷き、ついていくことにした。


 丸型のテーブルを取り囲むように、私たちとエンジニア部の4人が座る。

12058号「それじゃあ、私はエンジニア部のみなさんをお手伝いしてきますね!ミクお姉ちゃん、アリスお姉ちゃん、ぬいぐるみをお願いします!」

アリス「分かった!いってらっしゃーい!」

4号「ありがとうございます、コバチちゃん!」

はーい、とコバチさんは笑顔を返しながらこの場を後にした。……エンジニアの仕事もできるのか。逆に何ができないんだろうか?

ウタハ「すごいだろう、彼女は?アリスの中でも一番の頑張り屋だよ」

ミク「はい…逆に頑張りすぎてないか心配ですが」

ヒビキ「私たちもそう思ってたんだけど…その様子を見ると、少しは息抜きできてるみたいだね」

コトリ「無理はしていませんよ、と言ってはいるのですが、いつ見ても働き詰めで本当なのか心配でしたからね!」

4号「でも、ちゃんと休暇をとるようには言っておかないといけませんね!」

そう言ってみなさんは、私たちに預けられたぬいぐるみを見て微笑んだ。


 4号「ミクとアリスは、大丈夫ですか?既に始めての経験ばかりだと思うのですが……」

ミク「まあ、何とかなりそうですかね」

アリス「うんうん、私もミクちゃんも知識が無いわけじゃないからね!」

そう返すと、彼女たちはほっとしたような表情を見せた。

ウタハ「それは良かった。……はっきり言って、新しくここを訪れてくるアリスたちが、何事もなく無事であることは多くなくてね。何かしらの負傷を負っていることがほとんど…もちろん、精神的な意味合いも含めてね」

そう言いながら、ウタハさんは悲しげな笑みを見せる。

4号「……もう!最近のクセが出てますよ!思い悩むのも大事ですが、前向きに見るのも大事です!」

コトリ「そうですよウタハ先輩!最近はデータの集積が豊富になってきたおかげで、修理のペースも技術力も向上してるじゃないですか!99号の一件によるアリスたちの修理もやっと落ち着きましたし!」

ウタハ「……うん、そうだね。少し気が滅入っていたよ」

ヒビキ「……まあ、最近また『仕事』が増えたから、気持ちは分かるけどね」

そうした会話を聞いて、色々気になることはあったが───とりあえず、私は尋ねる。


 ミク「……『仕事』、ですか?」

そう訊くと、皆さんは少し気まずそうな顔をする。何かまずいことなのかと思った矢先に、4号お姉様が答える。

4号「……例の雪山で回収された、『アリス』だと見られる機体の回収と、再起動の試みです…」

アリス「……!」

ミク「……あぁ…」

そうだった。元々私たちが助けられたのも、その捜索活動があったからだ。そしてこの人たちにとって、その戦いは終わっていない。『大清掃』は、今なおその傷跡を残し続けている。

コトリ「もちろん、何とか修理ができたアリスもいますが…発見した段階で完全に破壊されていたものがほとんどで…」

ミク「……ごめんなさい、配慮の足りないことを…」

ウタハ「いいや、ミクが謝ることじゃない。むしろ君は被害にあった側じゃないか。無事に戻ってきてくれてありがとう」


 更に続けるように、ウタハさんは続ける。

ウタハ「そして、謝罪させて欲しい。君を取引していた中継ぎの業者に、犯罪組織との接触履歴が確認された。おそらく、君があの雪山に居た理由は───」

やっぱり、私が本来行ってしまうはずだった世界は、日の当たらない闇の蔓延った場所だったのだろう。

ウタハ「これは私たちの管理意識の問題だ。業者の履歴をもっと詳しく洗っておくだけで止められたかもしれなかった。

アリスたちが大切な存在と分かっておきながら、身近に迫っていた危険を気にも留めていなかったんだ。君を作った責任者として、謝らせて欲しい。本当にすまなかった」

───そう言って、ウタハさんが頭を下げる。気にしすぎだとか色々思うところもある気はするが……私の伝えたい言葉はとっくに決まっていた。


 ミク「……ウタハさん…いいえ、ウタハ様。確かに私の境遇は良いものではなかったかもしれません。でも、実は自分の生まれや経験が嫌いだって思ったことは無いんですよ」

ウタハ「……え?」

ミク「アリスちゃんと出会って、色んな経験を重ねて、感情や想いを理解して…そして、今皆さんに出会えて。私は今、とっても『幸せ』なんです。今まで色んな経験をして良かったなって、思ってるんです」

アリス「うん、そうだよ!私もミクちゃんがいたから生きていられるんだもん!私もここでみんなに会えて幸せだよ!」

───だから。

ミク「アリスを作った皆さんに、言いたかったんです。『私を作ってくれて、ありがとうございます』!」

自分にとって精一杯の笑顔で、皆さんに伝えた。


 ───途端に、皆さんが俯く。

ミク「……え、っと…だいじょ───」

と、尋ねようとした矢先。皆さんが号泣しているのを理解した。

ウタハ「……あぁ。こちらこそ、ありがとう……」

ヒビキ「……良かった……本当に…」

コトリ「これは……説明できません…!感動で涙が止まりません…!」

4号「逞しく育ってくれて…4号は感激です…!」

ふと周りを見てみると、他のエンジニア部の方々もしみじみとした表情で話に聞き入っていた。

ミク(……まあ、気持ちが伝わったのなら、私も嬉しいです)

アリス(……大丈夫。ちゃんと伝わってるよ)

とりあえず皆さんが落ち着くまでお茶を淹れておいた。


 コトリ「───それじゃあ、一度重い話は終わりにしましょう。ミクとアリスに来てもらったのはお話をするためだけじゃないですからね!」

4号「そうですね!それじゃあ『2人とも』、出番ですよ!」

「「分かりました!!」」

そう元気よく返事をして現れたのは───2人のアリスだった。

513号「初めまして!エンジニア部でアリスのメンテナンスに携わっている513号です!」

7119号「同じくエンジニア部でアリスの部品の在庫管理と、修理受付を任されている7119号です!よろしくお願いします!」

ミク「はい、よろしくお願いします」

アリス「よろしくねー!」

挨拶を済ませた後で、ヒビキ様が続けた。

ヒビキ「この子たちと私たち4人で、君たちの身体について色々な検査をさせてもらいたいんだ」

ミク「……まあ、そうですよね…私からお願いしたいぐらいでしたし」

コバチさんも言っていたが私はアリスの中でも『異例』な存在。別の機械との意識共有、複数ヘイローの取得、身体機構の成長───私の身に起こったことを挙げ始めるとキリがない。

そういった疑問が少しでも解決できるならこの上ないし、エンジニア部の皆さんも同じ気持ちなのだろう。


 アリス「となると、このアリスちゃんたちは精鋭の子たちって感じ?」

そう尋ねると、2人のアリスは複雑な表情をして言った。

7119号「実は1人、私たちよりずば抜けて技術力が高い『主任』がいるんですけど…今は飛行ユニットを乗り回すので忙しいらしいです」

……ん???

513号「というか事情関係なしに、あの人をミクお姉様とアリスお姉様の元に連れてきたくないです。あのイカれてる人にお姉様の存在を伝えたらどんな暴走をするか…」

えぇ……??

7119号「ちょっ、『副主任』!辛辣すぎですよ、事実ですけど!本当に真剣な案件ならきっちり仕事をこなす人ですよ、主任は!」

513号「いいや、ナンバー1つ違いの妹である私がちゃんと明言します!あの人は完全にやべーやつです!技術力があまりにも高いから何とか取り返しがついてるだけです!

なんで作業効率が劣ってる513号の方が普段の修理担当数がめちゃくちゃ多いんですか!?でも任せたら勝手に魔改造しだすから513号がするしかないですし!その影響か気がつけば『副主任』になってましたし!」

ウタハ「……ごめんね、負担を軽減できるよう頑張るよ」

513号「ウタハ先輩たちが気にする必要はないんです!主任が悪いですから!!」

7119号「……ごめんなさい、お姉様。副主任は主任のことになると熱くなってしまうんです」

アリス「いや、大丈夫、だけど…」

ミク「……苦労してるんですね…」

もしかして最近のアリスってぶっ飛んでる人か苦労人しか居なかったりする…?私たちもぶっ飛んでる側に片足突っ込んでる気がするし。───いや、そういう場所に私たちが行きがちなのか。


 閑話休題。

コトリ「それじゃあ準備に取り掛かりましょう!お二人とも、私たちについてきてください!」

39号「「分かりました!」」

そう言われ、部室の奥へ進んでいき…ある一室に入っていく。

そこにあったのは、修理を受けているアリスたちの姿。

7119号「アリスたちの修理はいつもここで行っているんですよ!」

確かに機材や道具を見るに、作業に適している環境には見える。しかし無機質に機械の修理をする場という印象ではなく、むしろ医務室や診察室のような落ち着いた雰囲気を持っていた。

───いや、もう医務室と言ってよいだろう。アリスのために用意された、専用の医療スペースだ。

──────────────

「うわーん!取り替えてもらった眼球型レンズもやっぱり違和感が止まりません!」

「うーん…こうなるとレンズに繋がる視覚伝達回路や処理プログラムに問題があるのかもしれませんね…少し検査させてもらってもよろしいでしょうか?」

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「だいぶ動かせるようになってきました!ありがとうございます!」

「あくまで脚の関節部を補修しただけなので無理はしないでくださいね。もうしばらくだけリハビリを頑張りましょう!」

「はい、よろしくお願いします!」

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 ミク「なるほど…本当に病院のような雰囲気ですね」

513号「皆さん、大事なアリスですからね!誠心誠意をもってお話できる環境を整えてます!」

ヒビキ「最初は部室で全部やってたんだけど…修理依頼が加速度的に増えて対処しきれなくなっちゃってね。専用のスペースを確保したんだよ」

そう簡単に整えられるものでもない気がするが…それこそ、エンジニア部の技術力の高さによるものだろう。

そうこうしているうちに、部屋の奥から呼ぶ声がした。

ウタハ「準備ができたよ!こっちに来てほしい」

そう言われ、声のする方に向かうと…いかにもなカプセルが正面にあり、異質な雰囲気を漂わせていた。

アリス「わーお…もしかしなくても私たち…」

ミク「この中に入る感じですね?」

4号「はい!カプセル内を専用液で満たすことで、装置内のアリスの状態を安定させつつ検査を円滑に進められるようにしています!」

ホントにいかにもな装置だ。液体で満たすとか映像作品でしか見ないものだと思ってたが……

ウタハ「最近の発明の中でもかなりの傑作さ。どうだい、ロマンがあるだろう?」

コトリ「今すぐ開発経緯を解説させていただきたいぐらいの出来ですよね!ロマンがありますし!」

ヒビキ「もちろん、中に入るアリスの快適性も保証してあるよ。入った人の安全を確実に確保する…ロマンがあるよね」

……もしかして「ロマンがあるから」でこの機械作った…?まあ……うん……


 513号「ホントはここまでしなくてもいいんですけどね。使用回数がまだ少ないので、データ確保のためご協力いただければ…」

513号さんはそう申し訳なさそうに言うのだが、実のところ……

39号「「是非お願いします!」」

7119号「お、お姉様…!?目が輝いてます!」

4号「ミクとアリスも『こっち側』ということですね!」

私は目覚めてから雪と機械しか見てなかったから機械には色々触れていたし、アリスちゃんはアリスちゃんで生まれの都合上、機械に関するあらゆる知識を多く吸収していたらしい。

新しい機械の開発に興味があるかと言われると…否定できないものがある。それはアリスちゃんも同じだったようだ。

ウタハ「じゃあ、早速始めよう」

そうして促されるまま、カプセルの中に入り込む。


 蓋が閉まるといくらかライトアップがされ…カプセルの内部というよりかはロボットのコックピットみたいな感じになった。どこまで拘ってんだ……わくわくするじゃないか。

7119号「一度衣服は預からせていただきますね!」

513号「もちろん、外からは身体が見えないようにしているのでご安心ください!」

そう言われると、どこからかアームが伸びてきて丁寧に衣服を脱がされる。液体で満たすわけだから衣服がダメになるのも困るし、大人しく預かってもらった。

まあここで素肌を晒しても減るもんじゃないし…と思っていたが。

アリス「………へへ」

ミク「アリスちゃん?」

アリス「これがミクちゃんの体かぁ…ふへへ」

ミク「……今更興奮してるんですか?」

アリス「ちょっ、待ってミクちゃん!?『今更』はホントにダメな表現な気がする!まだそこまでしてないから!」

ミク「『まだ』って何ですか!?する気だったんですかケダモノってやつですか!」

アリス「……待って、そこまで言うつもりじゃなかったの!今のは誘導尋問したミクちゃんの責任だよ!」

ミク「話題ずらそうとしてますけど認めてますよね!?せめて隠そうとしてください!!」

4号「はーい、いちゃいちゃするのもそれぐらいにしてくださいね!」

アリス「あっ、はーい!」

ミク「えぇ…?はい……」

色々と納得がいかないが…まあいいか。今はこの近未来的な空間を楽しむことにしよう。


 コトリ「専用液の搬入を開始します!」

ウタハ「オーケー、頼むよ」

そう声がすると、背にしている方から液体が溢れてきて体を満たし始める。…おそらく体温より少し高い水温だろうか。

やがて頭部に到達して……あれ?そういえば液体漬けにされても大丈夫なのか?おそらく呼吸の再現をしているだけで、しなくても活動はできるので問題はないと思うが……

と考えていると、示し合わせたかのように声をかけられた。

ヒビキ「専用液を通じてエネルギー源やその他もろもろご供給されるから、そのまま飲み込んじゃって大丈夫だよ」

7119号「肺器官にも満たすようにするのがコツですよ!」

なんかそんな感じの液体聞いたことある気が…気のせいか、ロマンあるし。あ、すっきり甘い感じだ。

やがてカプセル全体が液体で満たされる。こちら側からは外の様子が見れるので、普段とは全く違う視界となった。

アリス「カプセルに入った試験体視点ってこんな感じなんだね。試験体を見る側になったことは多少はあったけど…」

アリスちゃんが言うと重みが違うなぁ…試験体というのは、彼女の生まれでやっていた実験に関することだろう。

ミク「……それを聞いてしまうと、ちょっと複雑な気持ちになりますね」

アリス「んー…どっちかっていうと「こんな視点だったんだ!」っていうわくわくの方があるけどねー?」

ミク「……アリスちゃんが楽しめてるなら良かったです」


 さて、そんな感じでわりと満喫していたのだが…しばらくして声が聞こえた。

513号「これからデータの収集・検査・解析をそれぞれ行っていくので、お二人には一度スリープモードになってもらいますね!」

39号「「え」」

……いや、そりゃそうだ。機械のメンテナンスを電源つけっぱなしのフル稼働状態でやることなんて、基本あるわけないだろう。……ないだろうが…

アリス「もうちょっと楽しみたかったのにー!」

ミク「仕方ないです、アリスちゃん。目標は私たちのメンテナンスなんですから」

アリス「……で、本音は?」

ミク「スリープの仕様を悪用したらどっちかの意識だけでも残せませんかね?」

アリス「あ、なんかできそうな気がする!試してみよっか!」

4号「聞こえてますよ!妹たちのお願いだから叶えたくもありますが、わがままな子にはこうです!」

カチッと音が聞こえた気がしたと思った矢先、妙な感覚に襲われる。そして意識が……意識?

まさか、例の『睡眠プログラム』とやらか?

ミク「ぐっ、さすがお姉様…みごとな……手際……zzz……」

アリス「ミクちゃんがやられた!…って私もやばそう…!?……ぐわーっ!zzz……」



 7119号「解析が終わりました、お疲れ様でした!」

39号「「……はい」」

次に目が覚めたときには、液体は引いていて服も着せられていた。そのまま余韻に浸る間もなくカプセルから引きずり出されたわけである。

4号「ええっと…しょうがなかったとは言え、楽しみを邪魔させてしまい申し訳ありません…」

ミク「大丈夫ですよ、貴重な体験をさせてもらったことには変わりないので。後で使用感についてのレポートを書いて提出させてもらいますね」

コトリ「えぇ!?いいんですか?」

ミク「まだデータが少ないなら、なるべく共有する情報は多いほうがいいと思うので」

アリス「研究はデータ数も大事だからね!」

4号「……!是非ともお願いします、ありがとうございます!」

ヒビキ(たくましい子たちだなぁ…)


 そうこうしている内に、何やら神妙な面持ちのウタハ様がやってきた。

ウタハ「……ふむ」

コトリ「お疲れ様です、部長!結果は……?」

ウタハ「見てもらったほうが早い……けど、それでも飲み込むのに時間がかかるかもね。でもこの結果は、一度みんなの意見も聞いてみたいな…少し時間が欲しい。

513号、7119号…それからミクとアリスも。すまないが、私たちが議論している間、待ってもらってもいいかな?部室を見て回ってもらってかまわないから」

513号,7119号,39号「「「「分かりました!」」」」





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