後日譚【手続き】⑥ー1

後日譚【手続き】⑥ー1




[ミレニアムサイエンススクール 2F廊下]


 

 12058号「応接室に集まろうと連絡がありましたので、そちらに向かいますね!」

指示に従い、コバチさんについていく。

アリス「財団本部に行く、とかではないんだね?」

12058号「校舎からはちょっと離れた場所にありますからね…彼女も普段はセミナーの部室で業務に勤しんでいる訳です」

ミク「ご多忙ですね……お体は大丈夫なんですか?」

軽く話を聞いているだけでもお労しく感じるのだが…

12058号「まあ、間違いなく万全ではありませんが……最近は生徒さんやアリス達の配慮とサポートがちゃんとしてますので、本人もやりやすいと仰っていましたよ」

10050号「最初は1人で色々取り回していたようですけど、今は2号お姉様を始めとしたバックアップの人員も居られますからね!」

ミク「コバチさんもその1人、ということですか?」

12058号「そういうことです!」

どうやら良い傾向ではあるようだ。というか、もしかしてユウカさんだけでなく2号お姉様も居られたりするのか?


 そうこう考えている内にたどり着いたのか、コバチさんが一室の前で立ち止まって振り返る。

12058号「こちらですね!既にいらっしゃるそうなので入りましょう!」

そう言うと、コバチさんは扉をコンコンと軽く叩き、「失礼します!」と扉を開けた。

後に続くように中へ入る。


[応接室]


 

 ???「来たわね、いらっしゃい!」

 

そこに居たのは、ミレニアムの制服を纏った生徒とアリス───そして。

 

???「───こんばんは、お二人とも」

ソファに腰掛ける、見知らぬ服装の女性だった。


 アリス「………!?!?」

その女性を見て、アリスちゃんが呆気にとられたかのように硬直するのが分かった。

ミレニアムの制服を着た方は、話の流れや外見からしてユウカさんと2号お姉様であるとすぐに分かった。

だが、この方は一体……?睨まれているような、縛られているような───威圧的な雰囲気を感じる。ヘイローがあるのを見る限り、キヴォトス人の生徒の方なのだろうが……

2号「とりあえず、こちらへ……」

そう言われ、生徒の方とテーブルを挟む形で私たちも座る。


 12058号「それでは改めて紹介させていただきます!ミレニアムサイエンススクールのセミナー会計兼アリス保護財団の設立者、早瀬ユウカ代表。セミナー兼アリス保護財団所属、量産型アリス2号。そしてヴァルキューレ警察学校の公安局長、尾刃カンナさんです!」

コバチさんの紹介に合わせて、各々が礼をする。

ユウカ「紹介にあった通り、早瀬ユウカよ。会えて嬉しいわ!」

2号「量産型アリス2号…いえ、説明は不要ですね。アリス保護財団を代表して歓迎します」

アリス「ご丁寧にありがとうございます!」

なんというか、流石の貫禄を感じる。緊張で体が強張って上手く動かない。と、思っていたが───


 10050号「……なんか、いつものユウカ先輩と2号お姉様らしくないですね!普段はもっと「アリスちゃ〜ん♡よーしよしよし!良い子だね♡」みたいな雰囲気ですのに!」

2号,39号「「「!?!?」」」

ユウカ「ちょっ…!?」

カンナ「………」

12058号「あちゃー……」

10050号の容赦ないと言うべき一撃が襲いかかる。アリスネットワークを覗いたときのユウカさんへのアリス達の評価と、実際の印象がなんかズレてる気がしたのはそういうことか。

ミク「そんなに謙遜されなくても大丈夫ですよ?他のアリス達と同じではありますから」

アリス「同じ……って言うには色々違う気もするけどねー?」

ユウカ「……えぇ、もちろん理解しているのだけど……ここまで大人びたアリスを見るのは初めてなのよ、ごめんなさいね?」

まあ、『天童アリスと雰囲気が似ている別の生徒さん』、と言われても通じるレベルだと自負できる。対応が生徒へのそれになるのも無理はない。


 2号「それに、今回は他の『お客様』も居られますから」

2号お姉様はそう言うと、カンナと紹介された生徒の方に目配せをした。

ヴァルキューレの公安局長がなぜ、と一瞬思ったのだが…『自らが冷や汗をかいている』ことに気付き、なんとなく察した。

冷や汗をかいているのはアリスちゃんで、アリスちゃんは完全完璧に『そういう人』だった訳である。ヴァルキューレに目をつけられていても不思議ではない。

今のところはとりあえず、お縄につく事態にならないことを祈るばかりである。


 ミク「えっと、お話があるとお聞きしましたが……」

ユウカ「えぇ、あなたたちが例の一件に巻き込まれた経緯を改めて具体的に聞きたいと思ったの」

2号「もう一方の人格…『アリス』さん、でしたね?貴女と出会って、今に至るまで。

───もちろん、言いたくない部分は大丈夫ですから」

そう2号お姉様は優しい笑顔とともに話しかける。

ミク「……大丈夫ですよね、アリスちゃん?」

アリス「うん、隠すようなこともないはずだし」

ということで、雪山での出来事を割と洗いざらい話した。


 ユウカ「……良かった……」

話が終わった辺りで、ユウカさんがつぶやく。

2号「雪山にアリスがいるという意見も、捜索隊の派遣指示も、元は全てユウカによるものでしたからね。全力で活動を推し進めた甲斐がありました」

アリス「すごいたくさんの人たちのおかげで助かったんだね、私たち……」

ミク「……本当にありがとうございます」

『大清掃』を生き延びたとして、雪山から脱出できる保証は無かった。この方たちも、私たちの命の恩人だ。


 アリス「あ、あの……」

少し落ち着いた辺りで、アリスちゃんが口を開く。

アリス「ユウカさんと2号お姉さんがいるのは分かるんだけど…どうしてカンナさんがここに…?」

ユウカ「うーん……それは本人から話してもらった方が分かりやすいかしら───お願いできますか?」

カンナ「はい、分かりました」

ついに、聞き手に徹していたカンナさんが口を開いた。


 カンナ「片方は元々の量産型アリス39号の人格で、もう一方は裏社会にて製造されたオートマタの人格……そして『ミク』という名前を使用した名前の交換。

確か今は『アリス』と名乗っていましたね?そちらにお伺いしたいのですが……

『儡姫(くぐつひめ)』。この言葉に聞き覚えは?」

その冷たくも威圧的な目つきと共に送られた言葉に、アリスちゃんが覚悟を決めたように、目つきと雰囲気を変えて尋ね返す。

アリス「……うーん、残念ながら覚えがないですね、『狂犬』さん?」


 『狂犬』……カンナさんの異名、だったか?なんか、お互い雰囲気が緊迫して───

カンナ「おや、初対面なのによくお知りのようで?」

アリス「それはもう日常的に聞いていましたからね、「狂犬には嗅がれるな」って。どの『マスター』も口を揃えて言ってましたよ」

カンナ「……へえ。裏でもそんな風に恐れられているとは、光栄な限りですね?」

互いに笑顔だが、同時に恐ろしいくらいのピリピリとした雰囲気を漂わせている。妹たちはもちろんあわあわしているし、ユウカさんと2号お姉様も冷や汗をかいているのが見てとれる───まあ、言ってしまうと保安局の警察と裏社会の人間の対面であるわけだし仕方ないのだが。


 カンナ「ちなみに、どこの役周りに?今のいままで影も形も捉えられませんでしたが」ゴゴゴ…

アリス「ご存知の通り、何でもですよ。カポもしていましたし、コンシリエーレとかも…ああ、そういう組織的じゃないところにもたくさん行きましたが…」ゴゴゴ…

───うーん、でも。

アリス「捉えられなかったということは、上手くごまかせていたようですね?」ゴゴゴ…

カンナ「ええ。従えた者の命令を一寸違わず確実に、安全に遂行する機械人形……正直、何かを隠すためのデマなのかと思ってましたよ」ゴゴゴ…

これは、流石に。

カンナ「それで、今度はアリス39号の体ごと人質に?」ゴゴゴ…

アリス「まさか。それに貴女はその気になれば、ミクちゃんの体ごと捕まえようとするでしょう?貴女はそれができる人だと分かっています」ゴゴゴ…

カンナ「ハッ。言わせておけば……まあ、その通りですが」ゴゴゴ…


 ……はぁ、とため息をつきつつ、私は二人に話しかけた。

ミク「あの、悪ノリは程々にした方がいいですよ?皆さん怯えてます」


 アリス「───あー、やっぱやりすぎたかー!」

カンナ「……すみません、少々度が過ぎたようです」

声をかけると、二人は表情を途端に崩して笑い始めた。やっぱり冗談だったってことか。

二人の雰囲気はとんでもなかったが、互いに敵意が全く感じられなかったのだ。もっとも、気付いていたのは本人たちと私だけっぽいが。会話が本気すぎて冗談っぽくなかったし……

カンナ「少しからかうつもりで声をかけたのですが、まさかここまでノリが良いとは…少し趣味が悪くなってしまってすみません」

ユウカ「……ほ、ほんとですよ!どうしようかと思いました!」

ユウカさんがハラハラした表情を見せて言う。『ああ、この人も振り回される側かぁ……』と思ってしまったのは内に秘めておこう。

それで言うとカンナさんも苦労してる側に見えるのだが───まあ、彼女なりに雰囲気をほぐそうとしていたのか……?にしてはちょっと加減が無かった気が……


 アリス「あと、敬語を使わなくても大丈夫だよ?遠慮はいらないよ!」

カンナ「別に、敬語を使うことに抵抗感はないのですが……」

アリス「まあまあ、リラックスするって意味合いも込めて」

カンナ「……まあ、そういうことならお言葉に甘えさせてもらおうか」

さっきので心が通じ合ったのか、既に若干打ち解けているようだ。アレで通じ合うのか……?と思うのは野暮だろう、たぶん。

カンナ「さて、私がここに来た理由だが…『アリス』人格が『儡姫』として活動していた時期の事実確認と、その犯罪性の判断だ」

2号「貴女が活動していた内容については、どうしても警察組織の方が詳しいので。この件に関してはカンナさんにご協力いただいております」


 ミク「えっと、『儡姫』っていうのはアリスちゃんが裏社会に居たときの別名、でいいんですよね?」

アリス「うん、かっこいいでしょ?どう考えても『電子の歌姫』から取ってる名前だよね!」

そう胸を張っているが…言ってしまえば裏社会で名を馳せる象徴として名付けられたんだろうな…

アリス「うーん、でも犯罪性の判断ってことは…やっぱり私、許してもらえない感じかな……?」

青ざめながらアリスちゃんが言った。正直、仕方ない気がする…

カンナ「あー、そのことだが……貴女を捕らえる必要はないかもしれない」

39号「「……!!」」

……何か引っかかっている部分があるということだろうか?

カンナ「その判断のためにも、貴女が何をしていたのか、なるべく緻密に話してもらう必要がある。協力してくれないか?」


 ……話さなければこちらの身の保証ができない辺り、半分脅しのようなものだと思うが…実際、アリスちゃんはどう思っているんだ?やっぱり警察本人に話したくないこととかたくさん───

アリス「分かった!片っ端から話しちゃうね!」

ミク「!?!?!?」

即決。考え込んでいた私がバカみたいに感じるほど曇りのない声で、アリスちゃんはそう返した。

カンナ「……こちらから提示しておいてなんだが、いいんだな?」

アリス「うん!どーせ気に入らない人しか居なかったし…大好き!一緒にいたい!ってなったのはミクちゃんが初めてだよ!」

ミク「えっと、組織の人から報復とかは…?情報漏洩ってだいぶ重いと思うんですけど」

アリス「あー、大丈夫だよ。私が関わった組織ほとんど壊滅してるから。

どの組織も、最終的には私を『完全に自分のモノ』にしようとして内戦を始めちゃうんだよね。あるいは別の組織から組織ごと潰して私を攫いに来たり…私が色んな『マスター』を転々としてたのはそれが原因だよ」


 そのまま、アリスちゃんは昔のことを色々話し始めた。生まれの施設のこと、そこでの別れ、裏社会を転々としていたときのこと、『初音ミク』に変えられた日……

半分ぐらいは既に聞いていたことだったが、それでも裏で起きた出来事には驚くばかりだった。アリスちゃんが色々表現を変えて話しているのでマイルドには聞こえるけど……日々暴力を受けてたとか、いわゆる暗殺の命令だとか……

他の皆さんが気落ちしてないか心配だったが、どちらかと言うとめちゃくちゃ聞き入っていた。確かに人1人の人生としてはあまりにも濃いと感じる。


 アリス「───そうして出会ったのがミクちゃんなのです!」

おおー!パチパチパチ……

話し終わる頃には拍手まで起きていた。ここまで盛り上げられるのはアリスちゃんだからこそだろう。

アリス「……っと、こんな感じで良かったかな?」

そう言い彼女はカンナさんに目を向ける。カンナさんも軽く頷いて返した。

カンナ「あぁ。こちらで把握している事実と整合性がとれる。これなら───貴女を捕まえる必要も無さそうだ」


 そう言うカンナさんに、ついに疑問をぶつけることにした。

ミク「そこまで強く断言できる理由は、あるんですか?」

そう尋ねるとカンナさんは、いくつかの書類を机に並べた。題名は───『プロジェクト・サーバント 活動報告書』。

アリス「これは…!?」

ミク「『サンプル:ユプシロン』……アリスちゃんのデータですか?もしかして最初の制作段階の───」

アリス「そう。でも、こんな大事なデータを持ってる人なんて───」

そこまでアリスちゃんが言って、カンナさんも口を開く。

カンナ「……そうだ。プロジェクト・サーバントの責任者にして、数多のサンプルの開発者───貴女の最初の『マスター』のものだろう」


 39号「「……!?!?」」

アリスちゃんの、生みの親。

その事実を飲み込む前に、アリスちゃんが訊く。

アリス「待って…?それじゃあ、『マスター』は…?」

カンナさんが、目を伏せつつ答える。

カンナ「私たちが発見したときには、既に原型も…」

アリス「………!そっ、か……」

アリスちゃんもそのまま俯く。……原型も、か。あまり深掘りするべきではないのかもしれないが───

ミク「何か、あったんですか?」

そう言うとカンナさんは、もう一つ紙切れを取り出しながら続ける。


 カンナ「実は事切れる直前に何をしていたかについては、ある程度の予測ができている。まずは、この文章を。そのデータと共に開発者が遺していたものだ」

恐る恐る文章を読む。


〈私は、あの子を作り出して……そして、過ちを犯しました。でも、私はあの子の……アリスの力に、今でもなりたいと願っています。

それに私は、量産型アリスの39号がどこかの雪山にいることを知っています。彼女が無事かも、私は気がかりなのです。

───だから、どうか。これを拾った方が、優しい御方なら。アリスと39号の子を、見つけることが、できたなら。どうか、人を明るく照らす道へ、導いてあげてください。

───2人を……よろしく、お願いします〉


 ミク「………!」

遺書……ともとれる文章だが、『量産型アリス39号』について言及がある。起動前の私について知っている…?

カンナ「アリス保護財団及びミレニアムサイエンススクールに事情聴取と捜査協力を行ってもらったところ、雪山にて起動される前の量産型アリス39号は『犯罪組織との取引材料』として運搬されていたことが判明した───これに関しては、ミクとアリスも知っているかもしれないな?」

ユウカ「と言っても、実際に判明したのはそのヴァルキューレからの事情聴取だけれどね。気付かなかったことが今でも悔しいわ…」

2号「取引を行っていた組織───特に、犯罪組織に量産型アリスを提供しようとした中継ぎ業者に関しては、既に摘発と確保が完了しています。

とは言っても、予防は全くできなかった訳ですが…」

そう肩を落とす二人に気遣いつつも、カンナさんは続けた。


 カンナ「この文書を元に周辺のカメラ記録を確認したところ……その開発者と同じ服装を身に着けていると見られる人物が、犯罪組織の量産型アリス39号の取引に対して妨害工作を行ったことが判明した」

ミク「……!?ということは…!」

私は第三者から逃がされた…?それもアリスちゃんの生みの親に…?

カンナ「隙を見て機体を回収し、ゴミに紛れるように軽い細工をして回収車に乗せた───その行き先が、貴女が目覚めた雪山だったと推測している。

ただ、その数十分後に傷を負いながら複数の人間から逃走している同人物も確認されている。恐らく工作をしたことがバレたのだろう。死因も恐らくはそれによる…」

ミク「……なるほど」

……どんな気持ちをしたらいいのか分からない。その人のおかげで助かったのかもしれないが、取引が成立しても苦しい目に遭うがどうかは結局分からなかった訳で……

それにそのせいで一生を終えてしまったのなら、私が殺してしまったのも同義じゃないか?……素直に、「助かって良かった」と喜んでいいのか……?


 だが、アリスちゃんはカンナさんから話を聞くと、さっきより元気そうに答えた。

アリス「そっかぁ……『マスター』も信じてくれてたんだね!」

ミク「………アリスちゃん?」

アリスちゃんは私の考えていることを見透かしたように言う。

アリス「マスターはミクちゃんを死んでも守りたい、って思ったんだよ。あの人は裏の世界で唯一、それをしようと思ってできる人だったから。

もしかしたら、私と出会っちゃうことまで見越してたのかも?」

ミク「え、えっと……そういうものなんですか?」

困惑混じりに尋ねると、

アリス「うん、絶対そうだから!───だから、あんまり思い詰めちゃダメだよ?」

と、屈託のない笑顔を見せる。それができるのは私を気遣っているから…だけではなく、『マスター』とアリスちゃんの絆があるからこそだと感じとった。今のアリスちゃんの明るく前向きな人格は、そのマスターによるものなのかもしれない。


 カンナ「まあ、あながち間違っていないのかもしれないな……」

そう一言こぼし、カンナさんが話を続けた。

カンナ「ここからが本題なんだが……報告書のサンプル:ユプシロンに関する記述から、ある事実が判明した」

一息置いて、続ける。

〈『儡姫』は、『ヒト』ではなく『モノ』として所有者が必要な存在だった〉

39号「「……!!」」

カンナ「一応言っておくが、今貴女を人として認めない、ということではない。貴女が『儡姫』として活動し失踪するまでの全ての時間において、あくまでモノとして扱われていて、持ち主が必ず存在していた……そういう事実が存在していたということだ」


 ミク「ではさっき、アリスちゃんを捕まえる必要が無い、と言っていたのは……!」

そこまで言うと、カンナさんは頷いて応える。

カンナ「ああ。改めて、結論を述べよう。

〈現在の量産型アリス39号に宿る人格『アリス』は自らの意思を持って行動するのに対し、『儡姫』は使用者の使命をこなすモノに過ぎなかった。

したがって、『儡姫』の活動はサンプル・ユプシロンの機体の失踪と共に消失したとして、『アリス』にその責任を追及するには値しないと判断する。〉

───報告書には、そう書いておくことにする」


 それを聞くと、実はハラハラした表情で聞いていた10050号が飛び上がって言う。

10050号「よく分からないですけど、お姉様たちが豚箱にぶち込まれることはないってことですよね!?良かったです!」

言い方!!とは思ったが、まあそういうことか。

カンナ「……こうは言ったものの、実は判断材料とした書類の記述には強調するかのように後付けでマークがされていてな。まるで「『アリス』の一件はこう処理してください」と我々に誘導するかのように。

恐らくこれも開発者が遺したものだ…どこまでがそいつの思惑通りなんだか」

……流石裏で生きていただけある、ということだろうか。アリスちゃんも自分のことのように得意げになって聞いていた。


 一息ついてアリスちゃんが尋ねる。

アリス「でも、大丈夫なの?自分で言うのもなんだけど私、放置しておいたら色々とまずい人だと思うんだけど……」

するとカンナさんは改まった表情で答えた。

カンナ「……そうだろうな。だから一つ、頼みがある。

我々ヴァルキューレの所属として、活動に協力してもらいたい。前線に出て戦闘を行うことは極力控えるという条件付きで。───まあ、所謂引き抜きだ」

「「「「………!?!?」」」」


 その場にいる全員が、その大胆な発言に驚く。しかしカンナさんは承知の上とでも言わんばかりに続けた。

カンナ「もちろん、こちらの捜査精度や犯罪対策の強化など、貴女に協力してもらう利点はいくらでもある。だがそれ以上に重要な点は……『量産型アリス39号』というイレギュラーの塊を、我々の監視化におくことができることだ」

それを聞き、ユウカさんが加える。

ユウカ「そうね…色々意見の違いはあるけれど、「信頼をおける人たちに保護してもらう」という点では、私も同意見よ。

……これから貴女たちの体に何が起こるか分からない。そんな状態で、銃撃戦の絶えないキヴォトスに送り出すのは、どうしても賛成する気にはなれない。

ヴァルキューレの方々なら、その辺りの身の安全はしっかり守ってもらえるでしょうし…なんなら、ヴァルキューレじゃなくてうちに来てもいいのよ?」

彼女は複雑そうで、でも笑顔を保って言った。

まあ、そりゃそうか。エンジニア部の方々は『安定していて問題はない』と言っていたが、今後もそうであると断言できる保証はない。『百花繚乱』に行くと言う私たちの選択に対して、思うところがあるのだろう。

私利私欲のためではなく、心配や気遣いでこの人たちは提案しているのだと伝わる。それは、アリスちゃんも同じだろう。

───だから尚更、迷う。私はどうしたら…


 アリス「ミクちゃん?」

ミク「……はい、どうしました?」

アリス「ミクちゃんは、百花繚乱に行ってナグサさまたちに仕えたい───今も、そう思ってる?」

……そうだ。どうしたらいいかじゃない、したいことを考えるんだ。私が本当にしたいことを、もう一回ちゃんと見つめ直せ、私。


 ミク「───はい。あの人たちと一緒に行きたいです」

そう言うと、アリスちゃんは笑顔になって皆さんへ言った。

アリス「そっか!───じゃあ、皆さん。色々考えてもらってありがたいですけど、今回は遠慮させてください!私はミクちゃんの夢を支えて、ミクちゃんと一緒に生きていきたいので!」

そう、迷いなく言い切った。


 カンナ「……ハハッ。そこまできっぱりと言われると、むしろ清々しいな」

アリス「え、えっと……捜査協力や助言ぐらいならできると思うから…ごめんね?」

カンナ「ああ、元から引き抜きを断られてもそうするつもりだった。適度な協力関係があれば、ある程度の抑止力や監視手段にはなるだろうしな」

アリス「……やっぱり、いけないことする人っぽく見えちゃうかな、私?」

カンナ「いや、常に可能性には念を置くのが警官の務め、というだけだ」

なんとか話はついたようだ。アリスちゃんの性格もそうだが、カンナさんもめちゃくちゃ寛大な御方である。感謝してもしきれない。


 ユウカ「……はあ、仕方ないわね。何か問題や悩みがあれば、いつでも私たちを頼りなさい!いいわね?」

2号「心配ではありますが…前に進もうとする妹の姿を見られるのは、嬉しいことだとも思っています。いつでもお手伝いしますね?」

39号「「はい、ありがとうございます!」」

暖かく迎えてくれる人たちの言葉を受ける。その優しさに応えられるよう頑張っていこうと、決意を新たにした。


 カンナ「それでは、私はこの辺りで失礼します。まだ処理する案件が残っていますので」

ユウカ「!分かりました、ご協力ありがとうございます!」

2号「すぐに迎えをご用意しますね」

カンナ「いや、そう長い距離でもないのでお構いなく。今後ともよろしくお願いします」

そう言い、カンナさんが立ち上がる。ヴァルキューレは昨今の事件だけでなく、量産型アリスに関するものも取り扱っていると聞いている。最近はアリスを専門に扱う部門もできたとか……

何にせよ、ご多忙なのは間違いないだろう。

ミク「あの!……今日はありがとうございました。またお話ができたら、嬉しいです」

そう呼びかけると、カンナさんは表情を不器用ながらにも崩して答えた。

カンナ「こちらこそ。時間さえ空いていれば、今度は屋台にでも行って話そうか?いいアテがあるからな」

アリス「おー!ぜひぜひ!」

カンナ「分かった、覚えておこう───それでは、失礼します」

そう言うとカンナさんは一礼し、応接室を去った。


 ユウカ「───それじゃあ、二人に話したいことも終わったし……一旦正式な『手続き』は終わりにしましょうか?」

2号「そうですね、続きは財団でしましょうか。コバチ、ミクとアリスに案内を」

12058号「分かりました、お姉様!」

と、色々と一段落「ちょーっと待ったーー!!」……ん?

 

10050号「ミクお姉様とアリスお姉様のお話が終わったなら───次は私のターンです!ついにこの話をする時が来たようですね!」

……そうだった、この妹がいた。


どうやら、もう少しだけ話は続くようだ。





To be continued…



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