後日譚【手続き】③

後日譚【手続き】③



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 前回までのあらすじ!

雪山で様々な多難に襲われつつも、ついに保護された39号お姉ちゃん。もとい、『ミク』お姉ちゃんと『アリス』お姉ちゃん。百花繚乱の所属となったため百鬼夜行へ……行く前に、ミレニアムサイエンススクールで様々な手続きをすることになりました。

そのガイドをするために私、コバチがお迎えに向かい、ミレニアムに案内することに!……ほぼ観光になっちゃいましたけどね!

道中では、見ているこちらがドキドキしてしまうようなドラマチックな告白シーンや、ゲームセンターでの愉快な一幕、手に汗握る(?)指名手配犯とのバトルなど、様々な出来事がありました。───本当に様々ですね……問題は起こしてないし始末書書かなくても大丈夫かな……

そしてついにミレニアムサイエンススクールに到着!お姉ちゃんたちを『エンジニア部』にお連れするため、構内に踏み入れたのでした!


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 12058号「……うん、こんな感じで良さそうですですね!」

ふと横を見ると、コバチさんが手帳に何か書いているのを見た。

ミク「コバチさん、それは?」

12058号「───ああ、これですか?日々たくさんのアリスと触れ合う仕事なので、どんなアリスなのか、会った日は一緒に何をしたのか、ちゃんと一人一人のことをメモにとるようにしてるんですよ!」

アリス「すごい分厚い手帳だね…付箋もびっしり!」

そうアリスちゃんが尋ねると、コバチさんが気恥ずかしそうにしながら答えた。

12058号「実は、もうこれで15冊目ぐらいまで行ってるんですよね……書き始めると楽しくなって、つい止まらなくなっちゃって……」

そう言うと、彼女は分厚いファイルや書類、手帳類がびっしり詰まった写真を見せてくれた。どうやらこれらを全て、自分で作った上で管理しているらしい。

ミク「すごい……ここまでくると、趣味どころか努力の賜物ですね……」

アリス「…ひえぇ……眺めるだけでも目が回りそうだよ……」

コバチさんの事務能力の高さに驚くばかりである。流石はアリス保護財団のガイド役、といったところだろうか。


 12058号「お二人のこともたくさん書かせてもらいますよ!……もちろん、お二人の関係についても……」

アリス「いいねいいね、たくさん書いて───」

ミク「2人とも」

アリス・12058号「「はい、ごめんなさい」」

ミク「……あんまり美化しすぎない程度で、お願いします」

アリス・12058号「「……!!」」

12058号「……改めて公認ってことですね!?ありがとうございます!」

アリス「やったねコバチちゃん!軽いツンデレ属性が増えてるよ!」

ミク「おいこら」

……ヘリの中でのあのときもそうだったが、なんか私の口調や思考に変化が出てきている気がする。これも体の変化の影響だろうか。

オリジナルのお姉様から確かな違いができているのは少し寂しくも感じるが……まあ、個性ができてきていると言えば悪い話でもないのかもしれない。どのみちお姉様はお姉様だし。


 アリス「───ところでなんだけど……すごいいい場所だよね、ここ!」

そうアリスちゃんは言いながら、辺りを見渡す。

[ミレニアムサイエンススクール 中央エントランス]

 

先端技術に特化したミレニアムの中でも、その技術開発が行われている最先端の中の最先端。

その場所にふさわしく、白を基調とした清潔感のあるデザインの中に、装飾や空の青色といった色のコントラストが目に入りやすい。機能性とデザイン性を備えた、誰もが好印象を抱くような整った空間が形成されていた。

現在は夜も近いので、建物の照明が煌びやかな印象を付けているが、日中はそのイメージも大きく変わるのだろう。


 ミク「確かに、まさに圧巻という印象ですね……」

12058号「やっぱりお姉ちゃんたちもそう思いますよね!でもミレニアムの皆さんは「ちょっと単調じゃない?」とか、「フツーの建物でしょ」とかしか言わないんですよ!コバチが色んなところに行ってるから見方が違うのはあるのかもしれないですけど……」

ミク「うーん……感性は人それぞれ、と言いますからね。少なくとも初めて来た人は、みなさん高評価になると思うので大丈夫だと思いますけど……」

アリス「まあ技術開発するところだから、機能性とかも大事にしがちなのかもねー?」

まあ、技術力の高さは身にしみて伝わってくるのでよしとしていい気もする。


[ミレニアムサイエンススクール 廊下]

 さて、そんなミレニアムだが、ここは一応学校であり、量産型アリスの生まれの地でもある。つまりたくさんの生徒さんやアリスたちとすれ違うわけだが……

ミレニアム生徒「あっ、コバチちゃん!お疲れ様ー」

12058号「お疲れ様です!ちゃんと休まなきゃだめですよ!目の下にクマができてます!」

ミレニアム生徒「うーん……コバチちゃんがそう言うなら、そうするね。コバチちゃんもきちんと休むんだよー!」

12058号「はい、ありがとうございます!」


 量産型アリス「あっ、コバチさん!こんばんは!今日はもう仕事は終わりですか?」

12058号「こんばんは!こちらのお姉ちゃんをお送りしたら、今日はおしまいですよ!」

量産型アリス「お姉ちゃん……?……!もしかしてあなたが噂の!」

アリス「えへへ〜、アリスちゃんとミクちゃんです!」

ミク「初めまして、一応39号です」

量産型アリス「うわぁ……すごいです!すぐにみんなに伝えないといけませんね!

アリスお姉様、ミクお姉様!後で保護財団の本部に来てくださいね。みんなで歓迎します!」

12058号「走ったら危ないですよー!」

量産型アリス「お気遣いありがとうございます!コバチさん、お二人とも、また後で!」


 ミク「……コバチさん、すごい話しかけられますね?」

アリス「人気者、ってやつ?すごーい!」

コバチさんはことあるごとに話しかけられ、何気ない会話をしている。話し相手もコバチさんも、会話には既に慣れているようだった。

12058号「まあ、仕事柄みたいなものですけどね。コバチの方で浸透しすぎて、お姉ちゃんのアリスからも『コバチさん』って呼ばれるんですよ!皆さんによくしていただいているのでありがたいばかりです!」

そう彼女は言うが、慕われている理由は───

ミク「単純に、コバチさんが仕事のできるすごい人だからでは…?」

アリス「私もそう思う!他の人たちよりお姉さん、って感じするもん!」

精神性でも事務能力でも、コバチさんは他のアリスより成長しているように見える。私たちがそう言うと、彼女は自信げに答えた。


 12058号「そうですかね…?なら、2号お姉ちゃんに感謝ですね!人との接待の基本や事務仕事については、ほとんど2号お姉ちゃんから教わりましたから!」

ミク「……『2号』、お姉様にですか!?面識があったんですね?」

12058号「はい!量産型アリスたちが起動し始めて間もない間は、2号お姉ちゃんから色々教わってたんですよ!「アリスもお姉様やみんなのお手伝いがしたいです!」って無理を言って……懐かしいなぁ……」

私たちアリスの基盤になった試作品───世に送り出すには、あまりにもオーバースペックな機能を持った機体。いわゆる『シングルナンバーズ』。その内の一体の教え子となれば、この活躍にも納得だ。

ミク「さすがお姉様です……!ということは、他にも頼れるお姉様が……?」

様々な出来事にテキパキ対応できて、色んな人に頼られる、そんな私の目標のような人物像を持つアリスがもっといたりするのだろうか。そう思い尋ねると……コバチさんはどうだろう、といったふうに答えた。


 12058号「うーん……もちろんみなさん頼れるお姉ちゃんですが……はっきり言って2号お姉ちゃんの姉パワーが強すぎて他のアリスたちは平行線かもしれません。

2号お姉ちゃんが言うには「他のアリスとの交流を心配なく任せられるのはコバチさんぐらいですね」という評価らしいですけれど……

なんなら姉パワーで言うなら、間違いなくミクお姉ちゃんとアリスお姉ちゃんも最上位勢だと思いますよ?」

ミク「……???」

2号お姉様以外は平行線…?私たちが最上位?そんなまさか…私はまだまだ未熟者で…そもそも『姉パワー』って何だ…?そう混乱していると、不意に口が開く。

アリス「姉パワー……いい響きだね!気に入っちゃった!」

……これが最上位?いや、確かにアリスちゃんもすごく頼りになるけど。なんかそうじゃない。


 ……いや、確かに。オリジナルのお姉様が天真爛漫で冒険家なタイプだ。20000体いるとは言え、人に愛されるような見た目と性格をしている20000つ子のようなものだし、そもそも姉のような人格が育つ方が珍しいのかもしれない。私も境遇次第ではそっちに寄っていた可能性の方が高そうだし。

それに姉のような人格を持つことがいいということでもない。周りを明るくさせたり、支え合ったり。頼りになる形は人それぞれだと、アリスちゃんから私は学んでいる。

……ただ───

ミク「……なるほどです」

アリス「ミクちゃん、露骨に残念がるのは悲しくなるよー?私たちの姉パワーが圧倒的だった、ってことだよ!」

12058号「そうですよ!それにコバチは、みんないい子で好きだなって思ってますよ!」

ミク「いや、もちろん嫌で言った訳ではないです!むしろ私もアリスのみなさんが大好きですよ!」

───ただ、姉みたいなポジションに憧れてしまって、甘えてみたいな、期待してもいいかな、って思ってしまっただけなんだけどなぁ……


 憧れているなら自分がなるしかないか、と決意を新たにして、コバチさんに付いていこうとしたとき。アリスちゃんは言った。

アリス「……ミクちゃん」

ミク「はい?」

アリス「私もいるからね!いざというときは一緒に姉パワーを見せてやろうよ!」

ミク「……はい、ありがとうございます」

……さっきのはちょっと酷評だった。確かにアリスちゃんにも姉のような頼れる魅力があるのかもしれない。姉パワーが何なのかは結局分からないが。


 12058号「───着きました!このドアの先がエンジニア部の部室になります!」

ドカァァァン!バーーン!

そう言ってコバチさんが指を指す扉の先では、おおよそ部室とは思えないような爆音が連続的に鳴っていた。

ミク「……エンジニアなんですよね?爆弾処理班ではなくて?」

12058号「ああ、ちょうど発明品の製作段階に入っているんだと思いますよ!爆発はわりといつも通りです!」

アリス「いつも通りなんだ……」

私たちがちょっとした不安を持つ中、コバチさんは軽い足取りで入っていく。恐る恐るついていった。

12058号「みなさーん!ミクお姉ちゃんとアリスお姉ちゃんをお連れしましたー!」


[エンジニア部 部室]

 そこで見たのは、生徒さんたちやアリスたちが、忙しなく作業に取り組む姿。ある人は工具を持って組み立てをし、ある人は作業を眺めながら議論をしている。

こちらの入室に気付きつつも作業に没頭する姿は、まさに職人とでも言うべきだろうか。

───そして、コバチさんが声をかけてすぐに。こちらに人影が4つ、近づいて話しかけてきた。

「長い旅路だったろうに、お疲れ様、コバチ。

───そしていらっしゃい、ミク、アリス。此処がミレニアムのエンジニア部だよ」

 

「ふむふむ、本当に他のアリスとは違う見た目ですね!どういう構造なのか気になります!」

 

「……いらっしゃい。歓迎するよ」

 

その正体は、3人の生徒と。

「初めまして、ミク、アリス!2人に会えて4号は嬉しく思います!」

 

エンジニア部所属、『シングルナンバーズ』の4号お姉様だ。






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