後日譚【手続き】②

後日譚【手続き】②




[ミレニアムサイエンススクール前]

 ついに、ミレニアムに到着した。

財団スタッフ「ヘリでの案内はここまでです!お疲れ様でした!」

ミク・アリス「「ありがとうございました!」」

12058号「それでは、コバチがこれからエスコートさせていただきますね!まずは、お二人のメンテナンスのためにエンジニア部に……」

という話を聞きつつも、私たちは……

ミク「すごい……人がたくさん……!あっ、あの向こうで沢山通ってるのが『車』というやつですか……確かにかなりの速度ですね……」

アリス「わぁ……アリスもそこらじゅうに居るよ!……あ、こっちに手を振ってる!かわいー!」

と、興奮が冷めていないのを察したのか、一つ提案してくれた。


 12058号「んー……それじゃあ、ちょっと街を見て回ってから、向かいましょうか?」

アリス「え、いいの!?」

12058号「はい、大丈夫ですよ!コバチも一回ぐらいサボ……息抜きをしてもいいと思ってましたので!」

ミク「……苦労、してるんですね……」

12058号「……分かっちゃいます?『保護』してくる子たちなので、お姉ちゃんたちぐらいお話できて楽しいアリス、実は少ないんですよね……

まあ、そういう子たちを助けるのが役目なので、やりがいはありますけどね!」

そう笑う彼女を見て、やっぱりアリスも『生きている』と言えるだろうなと、私は感じた。


[ミレニアム校区 大通り]

 

 12058号「ミレニアムの特徴は、なんといってもその技術力です!化学・機械工学・生物学……あらゆる先端技術は、ここでほとんどが開発されています!」

その特徴は街にも反映されていた。車道を走る車は、雪山で見たものとは姿形がまるで違ったし、歩道の所々で、ホログラムや音楽などを用いた広告や映像が、通行人を楽しませるように散りばめられていた。

かといって、ただ近未来的なものばかりかと言われるとそうでもない。辺りに街路樹や植物が植えられ、暖かな自然の緑色がコントラストとして街を彩っている。

それは、技術の形が多種多様であることを明確に表していた。

ミク「……確か、研究や技術に魅せられて、そういった技術開発に特化した生徒の方々が、絶えず入学してくるんですよね」

12058号「はい!どうやらそういった研究活動の果てに、7つの難題を解決するとかなんとか……まあ、そこら辺の歴史はまたいつか、ですね!」

アリス「至るところがきらきら明るい……!表の都会ってすごーい!」

12058号「たぶん、明るさや華やかさで言うなら、他の校区も負けてないと思いますよ!」

アリス「そうなの!?いつか行ってみたいなぁ……」


 12058号「……あ、着きました!」

そう言って彼女が指を指したのは───

ミク「『ゲームセンター』……ってやつですか」

アリス「おおー!ここがそうなんだ!」

12058号「折角なので、少し遊んで行きましょう!」

そうコバチさんは言うが、一つ疑問が……

ミク「あの、たしか、遊ぶのにお金がいると思うんですけど……私たち、持ってないですよ?」

12058号「ふふっ、大丈夫です!仕事が仕事なので、お小遣いはたくさん貰えてるんですよ!今まで使うタイミングが無かったのでいっぱいありますから、一緒に遊びましょう!」

ミク「……苦労、してるんですね……」


[ゲームセンター]

 なんやかんやでゲームセンターに乗り込んだ。

アリス「あ、これ知ってるよ!『音ゲー』ってやつでしょ!私が右側を担当するから、ミクちゃんは左お願い!」

ミク「絶対遊び方間違えてますけど……分かりました」

……かくいう私も、音楽を無視して動体視力だけでやろうとしてしまった。……いや、ゲームの遊び方は割と自由なのかもしれない。

アリス「んー……まあ、楽しかったからオッケー!」

ミク「……そういうことですね」


 2つ、3つ遊んだところで、コバチさんの元に向かった。彼女も彼女で……

12058号「うわーん!全然取れません!」

ミク「……なるほど、『UFOキャッチャー』ですか」

大きなサイズのぬいぐるみに挑戦しているが、中々上手くいかないらしい。

そのぬいぐるみがどんなものか見てみると……アリスちゃんの目の色が変わった───気がする。

アリス「……は、『初音ミク』ちゃんのぬいぐるみ……!!」

12058号「そうなんです。最近よくライブを観たりしてて、好きになったんです!折角見つけたので、手に入れようと……」


 アリス「……任せて!取って見せるよ!」

そう言うと、5回分のお金を入れてゲームを始めた。

ミク「……すごいやる気ですね?」

アリス「あれだよ、布教活動?ってやつだよ!」

ミク「なるほど?」

そう言って、1回目。足を掴んで持ち上げた。

12058号「……うわーん!やっぱり滑り落ちて……あれ?」

2回目。3回目。持ち上げては、少しずつ獲得口に近づけて……4回目。

頭を掴んで……獲得口の入り口に乗り上げさせた!

アリス「これで終わり!」

カチッと軽やかな音を立てて、5回目。体を持ち上げて傾け……獲得口に落としきった。

アリス「はい、どーぞ?」


 12058号「……すごい!すごいです!ありがとうございます!」

コバチさんはぬいぐるみを満面の笑みで受け取った。

ミク「すごい手際ですね……驚きました」

アリス「ふっふっふ。すごいでしょ!」

そう話を交わしながら、ゲームセンターを出ることに……

ミク「…………あ」

12058号「?どうかされましたか?」

アリス「忘れ物?」

ミク「いえ……そのぬいぐるみ、持ち帰らないといけませんよね……

……色々、バレません?」

12058号「あっ」

アリス「あっ」

……一旦、気にしないことにした。


[ミレニアム校区 大通り]

 そうして、ある程度進んだとき───コバチさんが、私たちの足を止めた。

12058号「わわっと!この先はちょっとやめておきましょうか……そろそろ学園に向かいますか?」

アリス「?そろそろ向かってもいいかなって思ってたけど……どうしてこの先はダメなの?」

そうアリスちゃんが尋ねると、コバチさんはばつが悪そうに答えた。

12058号「実は……この先の通りは最近、犯罪率が異常に高いんです。何でも指名手配犯が潜んでいるとか。

普段なら警備や摘発がすぐにされるんですが、最近C&Cもヴェリタスも忙しいみたいで……完全に行き届いていないみたいなんです。

タイミングよく遭遇するものでもないと思いますが……まあ、一応念のために避けて通りましょう」

アリス「……返り討ちに───」

ミク「安全第一です」

アリス「……うん、そうだね」


 そのまま、ミレニアムサイエンススクールの向きに歩を進める。その道中で───

アリス「あれ?外でも何か売ってるんだ?」

ミク「露店、というやつですね」

12058号「今までのイベントや近頃予定されているイベントに合わせて、色々グッズが売られてるんですよ!」

ミク「なるほど……」


 と、再び道を進もうとした……が。目線が『動かない』。何かとても強い力で、焦点が露店に固定されている。その原因は……

ミク「……あ、アリスちゃん?」

アリス「……あれ……もしかして……」

何か見つけたのだろうか。目線が釘付けにされている。私には見当がつかなかったので……

ミク「……コバチさん、ちょっと露店を見てみてもいいですか?」

12058号「はい!全然大丈夫ですよ!」

アリス「……ありがとう、ミクちゃん」

ミク「いえ、私も気になりますので」


 そう近づいて見たものは……

アリス「……『実寸大ライブ用Tシャツキャノンカバー(初音ミクストラップ付き)』!?……やっぱり!私の銃にもぴったりだ!」

ミク「ライブ用Tシャツキャノン……ああ、初音ミクさんが持ってるやつ、でしたっけ?」

……そういえば、アリスちゃんが持ってる大砲もそれの模造品だった。性能が魔改造されていて忘れていたが。

店員「おや、お目が高いねぇ!ここ、ミレニアムでしか売ってない限定品さ!」

アリス「限定……!!」

明らかに目の色が変わっていることが見なくても分かる。ただ……

ミク「……値段は?」

恐る恐る見てみると……

ミク「……よ、4万6千……」

カバーだけでこの値段……いや、限定品なのにそれで済んでいるだけマシと言うべきなのか?


 アリス「……ミクちゃん……」

ミク「……欲しい、と?」

アリス「うん」

ミク「……正直なのはいいことです」

アリス「……でも!ダメなのは分かる!コバチちゃんの手を借りるのも最低だし、他の人からとるのも最低だし……こうなったら、体───」

ミク「めちゃくちゃなこと言うのやめてください!?結局最低ですし多分断られます!うーん……何か手が……」

12058号「……私は全然、買ってもいいんですけれど……」

そうは言ってくれるが、やはりこれ以上お世話になるのは良くない。何か……

……あった。あったけど……


 ミク「……アリスちゃん。ちょっと危険かもしれませんが……考えが」

と、彼女に提案する。

アリス「……なるほど……大丈夫だとは思うけど……いいの?」

ミク「……まあ、ヘリではだいぶ迷惑をかけましたし……」

アリス「私が言うのもなんだけど、迷惑かけたのは私の方だと思うよ……?」

ミク「まあ、とりあえず、です。このまま諦めるのももやもやするので。いいですか?」

アリス「……うん!」

ミク「───店員さん、まだ売り切れなさそうですか?」

店員「ん?まあ、在庫も少し残ってるから、今すぐにってことはないだろうが……」

ミク「それなら十分です。すぐに用意してきます!」


 12058号「……ええっと、何を……?」

ミク「……ごめんなさい、コバチさん。『10分だけ』待っててもらっていいですか?絶対に10分で戻って来るようにするので」

12058号「……えっと……流石に困るかもしれ───」

アリス「じゃあ、そういうことでー!」

そう言い、私たちは駆け出した。

12058号「ええっ!?……うわーん!やっぱりお姉ちゃんも自由すぎますー!」

彼女には申し訳ないが、やるならさっさと終わらせた方がいいだろう。


 タンッ、カンッ、タンッ、しゅたっ。

人通りがない訳ではないので、邪魔にならないよう、その少し上の、ビルの側面や周りをリズム良く飛び跳ねながら、ビル間を駆け抜ける。

アリス「おー?これ、ぱるくーるってやつじゃない?たのしー!」

ミク「あれは確か、屋上でやってた気が……窓と間近の側面でやるやつではないかも……」

そこそこの速さで動いているつもりだが、視認されて通報されないかだけ心配である。


 不意に、窓を見てみると。青く透き通った空を写す窓に、自分の姿が見えた。

伸びた背丈、僅かに特徴の分かれたオッドアイ、グラデーションのように濃紺色から浅葱(あさぎ)色に染まった髪……そして妙に発育のよくなった体。

ミク「……なんか、色々変わっちゃいましたね」

アリス「ちょっぴり私が混ざった感じもするよね」

ミク「……不思議ですね」

アリス「不思議だねぇ」

───そう話しているうちに。


 ミク「……この辺りですね」

アリス「了解!……よっと!」

くるんっ、しゅたーん。

空中で受け身をとって、信号の上にきれいに着地する。……ごめんなさい、壊れないとは思います。

───先程『指名手配犯』がいると言われた、通りに戻ってきたのだ。狙いはもちろん。

市民「うわあぁぁ!大変だ!」

バババッ、ダンッダンッ!キャー!ウワー!

アリス「……ん?あれってもしかして……」

向こうに武装した集団が、建物を破壊して回っていた。周囲から市民と見られる人たちが逃げ惑っている。ネットワークに検索をかけると、最近話題の指名手配犯と顔が一致した。

不幸な事件だが……今の私たちにとっては。

ミク「……『大当たり』、ですね」

私たちの狙い。『指名手配犯を速攻で捕まえて、懸賞金を手に入れる』。


 ミク「リーダー格と見られるのを含めて7人、残り8分半……いけます?」

アリス「余裕だよ!」

そう言うと、軽やかな足取りで飛び出し……『思考が重なる』。


 『39号』「「じゃあ、始めましょうか!」」


 しゅんっ。ドゴォォ!!

一気に距離を詰め、リーダー格と見られる相手の脳天に、アリスちゃんの砲身を叩きつけた。

39号「「失礼します!」」

武装兵A「うわぁ!?なんだお前!?」

武装兵C「ぼ、ボスが!?おおお、お前ら、やっちまうぞ!」

39号「「やれるものなら、どうぞ!」」

ビュン!ビュンビュン!ドゴン!

武装兵F「ぐあっ!」

すぐさまエネルギー弾を乱射する。1人にしかまともに当たらなかったが、本命は……


 武装兵D「……クソッ!煙で何も……」

地面に着弾させて起こした土煙に紛れて、ミクちゃんの鉈を引き抜く。

───からん、からんと、戦場に音が響いた。

武装兵D「ぐわぁ!」武装兵E「ぎゃああ!」

ドゴッ!ドガッ!ガンッ!

武装兵B「な、なんだ……何が起きて……うわあぁぁ!」


 ───やがて、土煙が収まる。

39号「「あと2人、ですね」」

武装兵E「……ひっ、ひいいぃ!」

片方はほとんど戦意喪失、といったところだろうか。ならば───

武装兵A「……ば、化け物め!」

ダダダダッ!

乱射じみた銃撃に対し、すぐさまアリスちゃんの大砲を立てかけて受け止める。

カチッカチッ。

武装兵A「……ッ!弾切れ───」

その隙に、すぐさま鉈と砲身をそれぞれ手に、懐へ飛び込む。

39号「「化け物なんて、失礼ですね!

───ただの、通りすがりの『アリス』です!」」

ドゴォッ!!


 戦闘開始から、早2分。戦意喪失した1人を除き、殲滅した。

39号「「……じゃあ、そこの方。一緒に警察署まで来てもらいましょうか!もちろん倒れてる人たちと一緒に、ね?」」

武装兵E「は、はいぃぃ!!」


───────────────────────


 12058号「……も、もうすぐ10分ですけど……大丈夫かな……」

そう言う、不安の募った顔をした彼女の元に。

アリス「コバチちゃーん!ただいま!」

と、私たちは急いで戻ってきた。

ミク「ごめんなさい、急に……」

12058号「もう、心配したんですよ!……まあでも、ご無事で良かったです!」


 ミク「……あっ、そうだ。店員さん、お金が準備できたので、こちらのカバーを買います」

アリス「ついでにお財布も買ってたから、余分に時間かかっちゃったねー!」

その発言に、店員さんもコバチさんも驚いた。

店員「あ、ああ……いいが、どうやって用意したんだ?」

12058号「いったい、何を……?」

ミク「んーと……簡潔に言うと……」

アリス「指名手配犯をとっ捕まえちゃいました〜……みたいな?」

2人の驚きが、更に増した。……が、各々別の反応をした。

店員「……ハッハッハ!人助けして得たお金なら、受け取らない義理もないな!毎度あり!」

12058号「……さ、流石『異例』のお姉ちゃん……コバチが驚きに慣れることはきっと無いんでしょうね……」


 アリス「えへへ〜……

ねんがんの キャノンカバー(ストラップつき)をてにいれたぞ!」

ミク「……それ、直後に命の危険に晒されるやつじゃありませんでしたか?」

アリス「??そうなの?まあいいや!えっへっへ〜」

12058号「今までに見たことないぐらいご機嫌ですね!」

ミク「初音ミクさんの大ファンですからね、アリスちゃんは……」

色々あったが、何とかカバーを買うことができた。

12058号「そういえば、ミクお姉ちゃんは初音ミクさんと名前が同じですね!」

ミク「まあ、偶然だったのか必然だったのか……ややこしくなって申し訳ないですが、覚悟の上です」

12058号「いえいえ!素敵な名前だと思いますよ!」

見とれているアリスちゃんは一旦置いておき、コバチさんに尋ねた。

ミク「……あの、寄り道と言いつつ、散々好き放題にやってしまいましたが……大丈夫でしょうか?」

12058号「う、うーん……寄り道にしてはやりすぎたかもしれませんが……まあ、誤差でしょう!

……では、そろそろ……」

ザッ、ザッ。


[ミレニアムサイエンススクール前]

 

12058号「……改めて、ミレニアムの『エンジニア部』にご案内しますね!」








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